小さい頃から病弱の私は、毎日を病院で過ごしている。
薬品の匂いや真っ白な空間は、最早第2の家のような安心感さえも感じてしまう程に馴染んでいる。
看護師さんやお医者さん達も、私より重い病気の人やそうでない人、怪我をしている人、みんなどこか明るくて、優しい。
だから、みんなが退院していくのは嬉しいけど、やっぱり悲しい。
だけど、退院していった人がお見舞いに来てくれたりして、寂しくなかったりもする。
「祐奈、体調は大丈夫か?」
「うん。ありがとう、竜臣」
竜臣は怪我で1ヶ月程入院していて、偶々、病室が隣だったのと同い年なのもあって仲良くなった。二週間前に退院してしまったけれど。
それでも、竜臣は毎日お見舞いに来てくれる。
竜臣のする話はとても面白くて、夢中になって話に入り込んで、時間があっという間に過ぎてしまうのが寂しい。
今日も彼は学校の事や家族のことを話してくれる。
「あれ、竜臣。頭になにか…」
明るい茶色の髪の中から、白い物が見えて、手にとってみるとそれは桜の花びらだった。
「あー。学校、帰る途中に着いたんだな…」
だんだんと暖かくなって、いつしかもう桜の時期になっていた。
病院の近くでは桜はなく、病院の中庭にもそれはなかった。
幼い頃、父と母とで見に行った桜が一番古くて新しい思い出。
「もうずっと桜を見てないな、私」
「マジで?」
「うん。ずっと病院で入院してるしね」
「そう、なのか…」
そう言うと考え込むように手を組んだ。
「祐奈、明日まで待っててくれな?」
「うん、分かった」
何がなんだか分からないまま、この日は時間が過ぎていった。
「祐奈!」
次の日、いつもより少し早い時間で息を切らせながら、彼がやって来た。
「今日は少し早いね」
「短縮授業だったんだ。それよりも、祐奈、目瞑ってて」
言われるままに目を瞑った。
「いいよ、目開けて」
目を開くと、視界が桃色に染まった。
「本物はまだ見せられねーから、今はこれで我慢してくれ」
ベッドや床に落ちていた桃色の紙を一つ取ってみると、一枚一枚が花びらのような形になっていた。
そして、ベッドにある食事をする時に使うテーブルの上には桜の散る風景の写真と、桜の花が置かれていた。
「これ見ながら、花見しようぜ?」
そう言って、桜餅の他に桜風味のお菓子やお茶を広げた。
「窓からのお花見もいいだろ?」
窓を見てみるが、桜なんて一つもない。
彼の指差すテーブルには、小さな窓が。
「だから、その…」
桜風味のお菓子の箱の裏はメッセージが書けるようになっていた。
そこには、ちょっと歪な字で……
「喜んで」
『毎年、俺とお花見してください!』
彼の頬が床に散らばる紙と同じ色になった気がした。
――――――――――――
眼掻け様に提出。
×