彼女はいつも貧血だった。
いつも青白い顔をして、今にも倒れそうになっていた。
それに対して、思わず笑ってしまうと彼女はいつも怒った。
でも貧血気味だから、すぐに力尽きてしまう。
それに対しても笑うとまた怒られた。
僕と彼女の出会いは最悪という二文字がピッタリ当てはまる。
彼女を殺しに来た僕と殺される彼女。
それなのに僕は彼女を殺せなかった。
彼女を気に入ってしまったのかもしれなかった。
それ以来、彼女の元に通うのが僕の日課になった。
仲間にも誰にも教えずに、ただ毎日通っていた。
彼女は邪魔だとかなんとか言っていたけど、それでも無理に追い出すことはしなかった。
彼女はいつも僕に仲間と似てないとか、らしくないと言われていた。
自分でもらしくないというのは実感はあったし、なにより彼女以外の僕の同僚にもそれは言われたことがある。
もっと誇りを持て、名を汚す気か、と。
だけど、誰も好きでこんな姿になった訳ではないのにどうやって、誇りやらなんやらを持てというのだ
それを言った翌々日、この有り様だった。
指一本だって、もう動かない。
どうやら、彼女を生かして彼女の元へ通っていたのがバレたらしかった。
それを聞いたかつての仲間が、僕を殺しにやって来た。
それは一瞬の出来事のようで、長い時間のような気も、した。
ただひたすらに流れる自分の血に染まりつつあった、その時だった。
相変わらず真っ青な顔した彼女が立っていた。
口元を拭いながら、此方に一歩ずつ近づいていく。
拭った手の平には渇いて黒ずんだ赤色がこびりついて、彼女の肌によく映えていた。
口元に笑みを浮かべながら微笑んでいた。
「ざまあみろ。アタシを馬鹿にするからこんなことになるんだ」
「全くだ。これじゃ君と一緒だな…」
彼のその白い首筋に自分の牙を立てる。
トロリとした液体が喉を通っていった。
口の中に広がるその味は……
「私、十代女子A型!それと、AB型!」
どっちも一リットルで!と付け足した目の前にいる同僚は、少し不機嫌。
ここの支払いは全てアタシが持つということで、先程よりは機嫌は良くなっていたが、それでもまだむすっとしていた。
「どっかの誰かさんは天使なんて…ご馳走でいいですねー、私はこんなレストランで食事だと言うのに」
「でも、味はあんまり良くなかったよ。特に二体目。やっぱり、人に限るよ」
素っ気ない彼女の機嫌を直すのはどうしたらいいのだろうか、そんなことを考えながら、先程の味がまだ口に残っていたことに気づく。
ただひたすらに塩辛い、しょっぱいだけのあの味を。
そして、真っ赤に染まった彼の羽を思い出して、ほんの少し笑みを浮かべた。
×