雪の中の、

地下に降りると椅子に座って見ている人以外は動きやすくて、だけど寒そうな格好をしていた。
その中で知っている顔を見かけた私はその近くまで駆け寄った。


私に気付いた友人は、一旦観覧席まで滑ってきてくれた。


「おはよう、調子はどう?」


「まぁまぁ。もう休憩するから、話そう」


塀にかけてあった上着を取り、彼女は靴を履き替えた。
流石に動きずらいらしい。



「大会、いつだっけ?」


「再来週の日曜」


そう言いながら、ココアを流し込む彼女。
病的なまでに青白くなった肌が少し赤みを増した気がした。



「頑張り過ぎて身体、壊さないでね」


「ありがと」


少し会話をして、彼女はリンクに戻っていき、滑り出していた。
あたしはその姿を暫くぼんやりと眺めてから、地下をあとにした。スポーツセンターを出ると、雪が更に強くなっていた。
この分じゃ、電車は止まっているんだろうな、と思いながら行きと同じように早足で帰路を歩いていった。

これが学校が冬休みに入ってからの私の毎日の日課。
なるべく邪魔はしたくないとは思うのだが、ああして行かないと彼女はずっと滑ったままなのだ。
ろくに休憩もとらずに、食事すらも疎かになる程に。
だから私が行って、ほんの少しでも休んでもらえたらと思い、私は毎日通っている。

あんなに練習してきていざ本番の時に身体を壊しては元も子もないからだ。
彼女にはもう少し、自分の身体を労って欲しいと願うばかりだった。
それでも、彼女の耳にはそんな言葉は届かない。
リンクで滑る彼女と、木をじっと見上げる屋敷の彼がどこか重なって見えた。
誰の言葉も届かない、誰も触れられない、ただ沈黙の空間。
プラスチックや硝子で作られたあの小さなドームを思いださせる、二つの光景が、私は少し好きだった。


雪の中の、


その中にある風景に触れる術を私は知らない。



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