君の体液、ひとさじ



今日は授業がない。
何故なら、文化祭だからだ。
二日目なのにこんなにも賑わっていて、人がたくさん来ている。
正直言って、人が邪魔で仕方ないし、うるさい事この上ない。
全世界の学生が文化祭が楽しみにしているなんて大間違いだ。
現に私は文化祭というものが大嫌いだ。
数日前から始まる準備も大嫌いだし、そのせいで帰りが遅くなることがなによりも嫌だ。


私は帰って部屋で本でも読んでいたいのに、現実はそうはさせてくれない。
一緒に回る人なんていない。
だからずっとこの黒いベンチ(文化祭なので外部の人用に設置された食事をしたりする為の真新しい物)に座っていた。

勿論、店番もちゃんとやった。
私は午後からが良かったのに、ある男が勝手に私を午前の店番にした挙句、午後は一緒に回ろうと言って来たにも関わらず、友人数人に連れて行かれたまま、そのままだ。

男の最後に言った口約束を今もずっと守っている私は馬鹿で滑稽なのだろう。



『すぐに戻ってくるから、そこのベンチで待ってて!』


不意に男の声が甦る。


因みに、それを聞いたのは13:40。
今は16:50。
文化祭が終わるのは17:30である。



なにをやっているんだろう、私は。
もう既に10冊は本を読んだ。
ずっと待っている私を褒める人は誰もいない。
帰ろうと本を鞄に詰めていると、ボロボロになった男が此方に走ってきた。


「ごめっ…遅く…遅くなっちゃって……」

息を切らしながらも、話そうとする男に中身の入ったペットボトルを投げ付ける。


「いたっ…」

「それ、飲んでからゆっくり話して」

なに言ってるか分からない。と続けると男は嬉しそうに笑った。


「本当にごめん! あの後……」


彼曰く、部活の出し物に駆り出された後、演劇部やら軽音部、その他諸々の出し物を手伝わされたらしい。
顔が広く、人望もあって尚且つ整った顔出ちのしている彼なら、あり得ない話ではない。


「本当にごめん!」

「いいよ、別に」

「なんかお詫び…って言っても、もう終わっちゃうし…」

何度も何度も謝る彼のズボンのポケットに淡いブルーの瓶が見えた。

「それ、何?」

「これ? ラムネの瓶だけど?」

「あ、もしかしてラムネ飲みたかった!? ごめん、貰った時には開いてて…今度、お祭りかなんかで…」「いい。それよりも、そのラムネの瓶、頂戴」


「え、これ?」


驚いた表情をする彼から瓶を受け取る。
不思議そうに眺める彼を横目に深い青色をした飲み口を外す。
そうしてから、ピンク色の輪を取って、瓶を傾けた。



「それが欲しかったんだ?」

「半分正解ね」

「半分?」

「内緒。でもありがとう」

「いや、いいって。こんなのお詫びにならないし…」

「違うわよ」

「え?」

「ちゃんと、来てくれてありがとう」


目を細めて笑ってみせた。
校庭の方ではなにかが始まったようで騒がしかったが、気にならなかった。




Oxygen shortage / 酸欠様に提出。

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