キミの××だけ好き



「ねぇ、まだ来ないの?」

「うるさいわね、そんな早く来るわけないでしょ?」

「でも注文してから1ヶ月だよ? 流石にさぁ…」


「そんな簡単に入荷する訳ないでしょ。それに注文が注文なんだから」


「っていうか、あんたがあれがいい、これがいいって五月蝿いからじゃない」

「何よ、あんただって自然な天然物が欲しいとか言ったじゃない!」

「ちょっと五月蝿いから喧嘩しないでよ」


「何よ、冷静ぶっちゃって。あんただっては黒は嫌だとか言ったじゃないのよ」


「黒って嫌じゃない。硬そうだし」

「はぁ? あんたのはどれでも柔らか過ぎてぐにゃぐにゃじゃない」

「失礼ねぇ! ぐにゃぐにゃなんかじゃないわよ、あれは固さと柔らかさの均等が大事なのよ!」


ピンポーン、と無機質な機械音が女達が騒ぐ空間に響いた。
それを聞いたと同時に女達は一斉に玄関に飛びかかるように走り出した。
大の大人が三人も全力で走り出せば、ミシミシと床が軋んだ。
けれどそんなこと、女達にはどうでもいいことでこれっぽっちも気にしていなかった。


「誰!?」


女達が口を揃えて叫んだ。
インターホンを鳴らした白いカッターシャツの男は顔色一つ変えず、自らを名乗った。


「きゃーっ!!」

「これよ、これを待ってたの!」

「やっと来たぁ!!」

女達は口々に黄色い甲高い声を上げた。


「発送が遅くなって大変申し訳ございませんでした。ご注文の品は以上でよろしかったでしょうか?」


男が差し出した紙には、イギリス人 20代 女性、と書いてあった。

「そう! それ!」

「では、此方に印鑑かサインをお願いします」

女の一人が震える手で印鑑を押すと、男はにっこり笑って頭を下げた。


「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」


男の声など最早、女達の耳には入っていなかった。
一人の女が扉を閉めると、二人の女が長い段ボールを抱えてながら部屋に早足で戻って行った。


「ちょっと! 私が先だからね!」

印鑑を放り投げ、僅かしかない廊下を駆け出した。


「ほら、早く。あたし、早く食べたいんだから!」

「えー、食べるとか…。あんたら気持ち悪すぎ…。うちは飾っておくけどなぁ…」


「飾る方が気持ち悪いわよ」


「いや、飾るのもいいけどあんたらの場合は腐るのが厄介だからねぇ…」


バリバリとビニールを剥がしながらそんな会話を続ける。
ようやく、全部のビニールを剥がし、段ボールからそれを出した。
整った顔立ちだったであろう金髪碧眼の女が酷い顔をしながら、床に寝かせられた。


「早く! 早く!」

「分かってるわよ、焦らせないで!」

女は何処からともなく、分厚い剃刀のような物を取り出すと、その綺麗な金色の髪を鷲掴みにした。
そして、まるで庭の雑草でも刈るかのように根本からざっくりと切った。


「ちょっと余ったけど、まぁいいや。これだけあれば充分。あとはどうぞ?」


「やった! 次はあたし!」


そう言うと、腕捲りをしてから寝かせられた女の瞳を優しく掴んだ。
ブチブチと神経や血管が切れていくが中々切れないのもあり、潰さないように優しく引っ張った。
そしてもう片方の瞳も同じように抉り出した。

「スプーンでやれば良かったじゃない」

一人の女がそう言った。

「馬鹿じゃないの?」

手を拭き終わった女が蔑むような瞳で女に言った。


「素手でやらないと眼球に傷がつくし、素手でやることによって柔らかさ等の感触が楽しめるのよ? そんなことも分からないの?」


「ごめんなさいね、分かりたくもないんでね!」


「どうでもいいけど、ちょっとどっちか手伝ってくれない? こいつ重たくって」


「あー、あんたの場合、掃除が面倒になるものね」

「しょうがない。手伝ってあげるわよ」


「ありがとう。それじゃ、足持って?」


「よっと…」



キュイイン、とチェーンソーの音が部屋まで聞こえる中、女はとある友人に電話をかけた。

「…もしもし?」

寝起きのような眠そうな声に苦笑した。

「ねぇ、お裾分けしたいんだけどいらない?」

電話の声はただ「いる」とだけ答えて電話を切った。

「いるってさ」

「本当片付けが楽で良いわね」


そんな話をしている中、風呂場から声が聞こえた。


「シャワー浴びるから、これ部屋に持って行ってくれるー?」

脱衣場にはタオルにくるまれた細長い物体と同じくタオルにくるまれた上半身があった。
細長い物体の方は先っぽに小さな指が十本出ていた。
二人の女はため息を吐きつつ、その二つを運ぶ為、腰を上げた。



女がゴシゴシと髪を拭きながら、部屋に戻ると顔見知った女がキャリーバックに上半身を詰めているところだった。

「あら、来てたんだ」

「この子がいないと片付かないじゃない」

「それもそうね」


1人の女が金色の毛髪を弄びながら呟くように言った。


「あんたらが死ぬ時は私にその髪頂戴ね」

「なに言ってんのよ。あたしがあんたより先に死ぬわけないでしょ?」


「まぁ、あんたが死んだらその眼、貰ってあげてもいいよ」

「じゃ、うちは足が欲しい」

「それより火葬なんかすんなよ、オレが全部貰うんだから」


四人の女は一斉に笑い出した。
一人は床を叩き、一人は転がり、一人は腹を押さえ、一人は指を指して。
その中でただ一人、瞳のない上半身だけが虚ろに天井を見上げていた。




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