My Hero



「あ、ヒーローさんっ」

裏庭で日光浴兼昼寝をしていた俺に高い声が耳に入った。

「ヒーローさん、サボりですか? 私もサボりなんですけど、最近はアレですよね、言い訳が通用しなくなって、なかなか休ませてくれなくて…」

俺が答えるまでもなく、ベラベラと話し出す女。
こいつは最近、俺に付きまとうストーカーだ。


「ヒーローさんっ!」

「うるせぇな、俺はヒーローじゃなくて緋炉(ひいろ)だっつってんだろ!」

「でもでも私にとってはヒーローさんです」

女はニッコリと笑う。

こいつ、聖辺浅葱がどうして俺に付きまとうのか、それは偶々、こいつを助けたから。
その日は丁度腹が立っていて、無性にイライラしていた。
そんな時に数人の男に絡まれていたこいつを発見し、丁度いいストレス発散だと思い、男達と殴り合い(俺は一発しか当たってない)の果て、俺が勝ったのが全ての始まりだった。
次の日からこいつは金魚の糞如く、俺に着いてまわった。



「というわけで、じゃじゃーんっ!」

どういうわけなんだ?
変な効果音を付けて鞄から取り出したのは赤いギンガムチェックの包みに入った長方形の箱。


「ヒーローさんにお弁当を作って来ちゃいましたーっ!」

「はぁ?」

「ささっ、どうぞ、どうぞ!」


タコの形…ではなく、蟹や象の形になったウィンナーや、卵焼きなど形が凝ったものばかりが詰められた弁当。


「どーぞ、あーんっ」

いい歳してなんで“あーん”なんてされないといけないんだ。
そんな俺を余所に蟹の形したウィンナーは近づいてくる。
仕方なく口を開けようとした瞬間、嫌な臭いが嗅覚を刺激した。


「お前…なんか入れただろう?」

睨みながらそう言えば、ニコニコした表情を変えずに「ん?」と首を傾げる。


「惚けんな、これ、調味料以外に変な薬が入ってるだろって言ってんだよ!」

「え? そんなことあるわけないじゃないですか〜。ほら、あー…」

尚も差し出してくる弁当を払いのける。


「………」

ぐちゃぐちゃになった弁当を見つめながら、俯く聖辺を置いて屋上を後にする。
心なしか、肩が小刻みに揺れていたような気がした。






どん、と肩に軽い衝撃が走る。
ぶつかった奴は此方を凄い形相で睨んでいる。
別段、恐怖感等は感じず、ただ何処かで見たことがあるような面子だと思った。


「お前…、この間の…!!」

嗚呼、確かアイツに絡んでいた奴等だ。
ぼんやりと霞がかっていた記憶を引っ張り出す。


「その説はどーも。それじゃ」

片手を振って、通り過ぎようとした俺を掴み、睨んでくる男達を俺は頭の中でどうしようかと考えるだけだった。



「がっ…」

考えていた矢先、俺の左隣にいた男が呻き声を上げて倒れた。


「あさちゃーん、キーック!」

聞き慣れた声が響いた。


「私のヒーローさんに手を出しちゃ、めっ! だよ?」


そう言いながら、次々に男達を倒していくアイツに負けじと、俺も参戦していった。


「ヒーローさんはやっぱり、強いですね!」

「お前、一体…」

「お嬢!」

「あ、寅泰ー、虎雄ー」

厳つい男が二人、聖辺に近づいた。


「お嬢、こいつは?」

「あー、えーっとね…」

待て待て、こいつ今、お嬢って呼ばれてたよな?
この厳つい二人に。
お嬢? まさかな…いや、こいつ確か、聖辺だよな……


「ヒーローさん…基、緋炉さん! 私の組の組長になって下さいな?」

いつもと変わらない笑みでにっこりと言われた。


「は?」

「だから、私のお婿さんになって下さい!」

「なに言って…」

「僅かな薬にも対応出来るし、なにより喧嘩が強いですし…私の組にぴったりです!」


「虎雄、早速みんなを集めて!」


「分かりやした、お嬢」

「緋炉さん、聞いてますか? 答えはYesかはい、しか認めませんよ?」

にっこりとした笑みに、こいつがそういう関係の奴なんだな、と実感させられてしまった。


「私の永遠のヒーローですよね?」


「緋炉だって言ってるだろ」




――――――――――――――――
fish ear様に提出。



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