窒息水族館



あぁ、またここだ。


私は最近、おかしな夢を見る。
誰もいない、暗い、夜の水族館に一人でいる夢。
いるとすれば、魚やクラゲ、タコや貝等の何処にでもいるような海の生物だけだ。
ここには灯りは殆どなくて、辛うじてある小さな電気は青く、この暗い闇の中に溶け込んでいる。
魚にはこの方がいいのだろうけど、人である私にとっては歩きづらい。


ただ水槽の中にいる生き物を見るくらいしか、時間を潰す術はない。
出口はなく、ただ時間が過ぎるのを待つしかないのだ。
日によって、ずっといることもあれば、着いて一分もしないうちに、目覚めることもある。


「…え?」


時が止まったかのように見えた。
誰もいない筈のこの場所に、人がいたのだ。
しかも、魚達がいるような水槽の中に。
病的な迄に白い肌は、電気のせいか、はたまた元からなのか、薄く青く見えた。
さらさらとした金色の髪もふわふわと揺れている。
彼が女だったのなら、人魚姫のようだと言えただろう。
だが、彼の足はれっきとした人間の足で靴は履いていなかった。
が、ワイシャツとズボンは身に付けていた。そんな彼に見とれていた。
その堅く閉じられた瞳に、私を映して欲しい、そうとさえ思った。
次の瞬間、現実に引き戻されるような、今、目の前にある光景が白く、霞んで見えるのを実感するとともに、目を開けた。


隣では携帯のアラームがうるさく鳴り響いていた。
見慣れた壁、家具、ここは紛れもなく私の部屋で、現実だ。


いつもなら、あぁやっとか、というほっとしたような気持ちになるのに、今日はがっかりとした気持ちになった。
ぼんやりとした頭で夢のことを考えながら、学校の支度をした。




頭の中には水族館…否、彼のことでいっぱいだった。
あの髪に、肌に、触れてみたい。あの手に触れられてみたい。
そんなふうに考えていると、どうにも眠たくて眠たくて仕方がなかった。
私は急に襲って来た睡魔に、抵抗することもなく、意識を手放した。



そして今、またあの水族館にいる。
魚達がいつにも増して、動きが活発だったのは昼間に寝てしまったからだろうか?
そんなカラフルな水槽の中には、彼が昨日と同じようにいた。しばらく、ずっと眺めていると堅く閉じられた瞼が動いた。
そしてそのまま、ゆっくりと瞳が開かれた。


息を呑む程に綺麗な瞳がそこにはあった。
水槽の中と同じくらい暗く、深い海の瞳。
彼は数回瞬きをすると、水槽の中から手を伸ばした。
私はその手に合わせるように、水槽に手を伸ばした。
そして、水槽の中に溺れるように入り込んだ。






『――――さん!』

『先生、――――さんが目を覚まさないんです!』

『―――さん!』


誰が起こしても、決して目覚めない少女。
その少女を心配そうに見つめるクラスメートの中に一人、クスクスと笑っていた。


金色の髪を輝かせながら、青い瞳を細めながら。
一人の少年は笑っていた。


幸福様に提出。

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