06






「よ〜!待たせたな蓮次!」

「兄ーちゃん!どうしたんだよ、ケガしてるじゃねーか!」


…なーんか嫌な予感はしてたんだ。

あのね、私だって一応ものの道理は弁えてるつもり。だから自ら巻き込まれたことで文句を言うつもりはない。

しかしそれとこれとは話が別だ。

マルコメさん、あなた人が良すぎやで…
私に気遣ってご飯のお誘いを断ってくれたのは有り難い。意外と空気読んでくれるんだって失礼なことを思ったのはナイショだ。

でも、だったら。
根本的なお誘いの方も断って欲しかったです!ワガママなのは承知ですけど!


「駐車場出たところで変な奴らにからまれてよ」

この男の人は確かに押しが強い。強いけど。
いくら″恩人だから弟にも会わせたい″って言われたからってさ、なにも待ち合わせ場所までついて来ることなかったのに!!

マルコメさんとは一応約束があるから。
必然的に私もオマケでついて来ちゃいました。

…小一時間前の誰も知らない私に戻りたい。


「そしたら近くにいたこの子がそれに気づいてこのニーサン呼んできてくれてよ、助けてもらったってワケよ!」

うわ…見られてるよ怖い怖い怖いっ

嫌な予感っていうのはよく当たるものなんでしょーかね。当たるなら他のことが良かったなぁ、なんて…冷静ぶってる場合じゃねぇぇえ

「どーも!」

居心地悪い思いで視線を彷徨わせてる私の横で、片手を挙げて笑顔で挨拶をするマルコメさん。

えーと…と、とりあえず。
私も小さく会釈をしてみる。

この人が弟さんかー…
失礼ながら私の悪い予感はコレですよ。
お兄さんが少し派手だからそれなりに覚悟はしてたけど、思ってたよりもずっと

い か に も 過 ぎ る 不 良 さ ん や な い か

一日でこんなに複数の初対面の人と関わるような人生送ってきてないからさ?増してやこの度みなさん怖いしさ?マルコメさんはそういう雰囲気じゃないけど野生だしさ??(もはや決めつけ)

ただでさえ家がああなのに…もう本格的についてけないよどーしよう…ハァ、ここ最近ずっと心臓が痛いなぁ


「すまなかったな、アンタもニーサンも!おかげで助かったぜ!」

「えっ、は、はいっ!あ、いいえっ…私は何も!」

「どーいたしまして!」

我ながらテンパり過ぎだ。
マルコメさんのようにとはいかなくても…そのドーンと構えて笑ってられる余裕、ほんのちょっとでいいから分けて欲しい。

「そんな恐縮すんなよ!君が気づかなかったらオレだって助けらんなかったんだぞ?」

「そ、そうかもしれないですけど…実際私何もしてないですし…」

「いーや!何もしてねーってコトはねーよ!君のおかげなんだからよ、胸張れって!」

「のわっ!」

いきなり背中を手のひらでドンっと叩かれた。
加減はしてくれたんだろうけど…なかなか痛いものなのね。とんでもなく間抜けな声が出てしまった。こりゃ女の子扱いされない訳だ。

…悲しかな当たり前の現実ですな。

当の本人はハッハッハって笑ってるし呑気なものだ。…まぁでも、言ってくれたことは素直に嬉しい。私も一応役に立てたんだろうか。

そう思いながら例の兄弟さんの方をチラッと見ると、何やら言い合いをしてるー…?
内輪の話だろうから黙って見守るに越したことはないよね、マルコメさんもそうしてるし。弟さんはお兄さんのことが心配なのかな。何となくそういう感じが伝わってくるけど…


あれ?お兄さんどこかへ歩いてっちゃった?
何か怒ってるみたいだったけど大丈夫なのかな…

弟さんはこういうことに慣れてるのか、特に焦る様子もなくズンズンと向こうに歩いてくお兄さんの背中を見つめて、それから。


「誰だか知らねーがすまなかったな!おかげで助かったよ!」

…わ。何か、思ってたよりも何ていうか。
感じのいい人なのかも??

というより、うん。何となくだけど。
お兄さんのことが大切なんだろうなぁ…って直感的に思った。


「どーってことねーよ!っつーか礼言うならオレじゃなくてこの子にな!」

「えっ、いやだから私は…!」

振らんでいいわざわざ私に振らんでいいっ!

穏便に済ませるには私の出る幕はないのだ。″女のテメェに何ができたっていうんだ?″っていう空気に絶対なるからそれはそれで辛いから前に出さないで欲しかったのにこ の マ ル コ メ さ ん は 要 ら ぬ こ と を

ご丁寧にまた私の背中を押してリーゼントさんの前に…あわわ、ま、前に…!


「この子が騒ぎに気づかなかったらオニーサンはやられてたかもしんねーしよ、そのままここにも来れねーでアンタと会うコトもできなかったかもしんねーんだ。そーだろ?」

「…え、えーと…」

居た堪れない気持ちでチラリとリーゼントさんを見やると、意外そうな顔でこちらを見てて目が合った。こいつが?って思ってるんだろうな…ごめんなさい私で…!

マルコメさんの言葉はとっても有り難いし正直なところ嬉しいけどさ…時と場合によってはチクチクと刺さるようで、何か、申し訳ないけどもうあんまり言わないでくれ!ってなる。変な汗出てくるよ…


「そうか、ありがとな!ホントに助かった」

でも、私の焦る気持ちとは裏腹に。
リーゼントさんは嘘みたいに(失礼だけど)爽やかな表情でそう言った。

お、おお、お礼!お礼言われたっ!びっくり!


「と、とんでもない、です…!」

「ダッハッハッハ!とんでもあるって、どんだけ腰が低いんだよ!」

「………………」

な、なぬ?!
リーゼントさんがマルコメさんをジーッと見てる。まさかのここで不穏な空気…?!ど、どーしよう。止めるべき?!いや無理っ

「御飯つぶついてんぞ」

「えっ!」

一 人 で 焦 っ て 損 し て ア ホ な の か 私

…っていうか今の今までそのご飯つぶに気づかなかった私も私だと思う。やっぱりアホなのか。








「あれ、いつの間にこんな時間か!ごめんな!まだ大丈夫なのか?」

「あ、一応大丈夫です。あの…良かったですね、お兄さんとリ…弟さん、無事に合流できて」

心の中で勝手につけた呼び名を口に出しそうになった、アブナイアブナイ。このままだといずれマルコメさんのこともそう呼んでしまいそうだ…

弟さんと別れたあと、マルコメさんと私は気を取り直して梅星さんのお家を目指すことにした。というか、よく考えたら実はそんなに危険なことでもなかったりするかも。
お家の近くまで行けば分かるだろうし、何より梅星さんに鉢合わせなければいいだけの話。

…うん、いいぞ。
何事も前向きにいこうじゃないか。たらればばかり考えるなんて私らしくもない。

マルコメさんを送り届けて、まっすぐ帰る。

これで一件落着!今日起きたことはお風呂でぜーんぶサッパリ流して忘れるんだ!
私にはギラギラしいのなんて似合わない。今日で充分すぎるくらい実感した。これから静か〜な高校生活が待ってるんだから!よしっ


「ああ、だな!ん〜っやっぱいいコトすると気持ちいいなぁ!」

…いいコト、なんだよね??
マルコメさんに伸された男の人たちの姿が頭に浮かんだけど、ブンブンと首を横に振って思い出すのを半ば無理やり止めた。ま、まぁ弱いものイジメはいつだって悪だからね!いいコトいいコト!


「さっきも言ったけどさ、アイツに一連の流れを話した時に自分でも分かっただろ?」

「え?」

「君の気づきがオニーサンを救ったってコトをさ!」

「あ…そ、そんな…」

「な?君のおかげだろ?」

うーん、何だろう。なんか泣きそうだ。
この人の言葉には心のどこかで凍ったままになってるわだかまりをじんわりと溶かすような、そんな力がある気がする。

逆に言えば、痛いところをつくってことだ。


「オレ別に君のコト全然知らねーけどよ、もっと自信持っていいと思うぞ!さっきだってホラ、怖い思いするって分かってて一緒に行くって意気込んでさ、スゲー勇敢だったじゃねーか!」

「あ、あれは…でも私は何もしてませんし…」

私がモゴモゴ言っていると、ずいっと顔を近づけてきて目を細めるマルコメさん。あ、相変わらずの近さだな…もうツッコむ気にもならん。

「何回も同じこと言わせんなって!」

「…す、すみません」

「謝らなくていいトコで謝るなって!」

「…すみま……は、はい」

「ダッハッハ!よしっ!」


この人って…
太陽みたいで、なんて明るい人なんだろう。

私なんかの堂々巡りに付き合わせて申し訳ない気持ちになってくる。あ、これがいけないのか??うーん…性格って難しい。

「自信ねー、自分は何もできないってー顔してっとホントにそーなっちまうぞ!まず気持ちからだ!自分が思ってるより、実は自分には何倍もの力や可能性があるはずなんだ!」

「………………」

「そしてそーいうのを認めるのは自分じゃねー、周りだ!だから一人でココまでって決めつけちゃいけねーよ!」

「………なる、ほど」

正直、根は頑固だしなにより卑屈人間(らしい)だから、この人が言う″自信を持って自分を好きになれ″って言葉は聞いてて辛い。なれるものならなりたいけど、私とは真逆だから。客観的に言えば素敵な考え方だなって素直に思うし、否定するつもりもないけど。

ただ、今はそれより

「…あの」

こうやって言葉を掛けてくれる人ってなかなか居ないと思うから。だってたった数時間前に出会ってお互いに名前すら知らないのに、こんな風に相手の領域に踏み込んで意見を言えるのって、ただただ凄いって思うし。それに。

この人には謝りたくて仕方なかったんだけど、それは違かったみたいだ。

変わる、なんて簡単には言えないけど。
一言だけ言っておこうと思う。


「あっ!!!」

「…えっ?あの、どうしー」

「悪い!ちょっ、えーと、とにかくごめんっ!もしまた偶然会えたらそん時は案内頼む!!」

へ?

って言ってるそばから。
気がついた時には、風のように走り去った彼の背中が随分遠いところにあって。

どっかのヒーローみたいだなぁ…
なんて呆然としたまま思ったのもつかの間。

…いや、えーとこれはつまり。

置い て 行 か れ た ん で す よ ね ?


な、な、なななっ!
何でやねーーーーーん!!!




ヒーローに騙された。
(あれがヒーローですって?どこが!)
(感動を返せ!前言撤回っ!)


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