PRRRRR…PRRRRR…!
んん…うるさいなぁ、なんの音よ…。
けたたましい電子音によって朝という現実に引きずり戻されて、私は思わず音とは反対の方向に寝返りを打つ。小さく欠伸をしながらぼんやりと目を開けると、なんか、違和感。
私は一体どこで寝てるんだ
なんだこのベッドは、クシャクシャに丸まった布団が乗っかってるけど誰のだ。そしてこの不快な電子音、どうも近くで電話が鳴ってるらしいが私の部屋には固定電話なぞ置いとらん
しかし一向に鳴り止まない。…うるさっ。
というよりも出ないと踏んだら一回切って間髪入れずまた掛け直してを繰り返してるらしい。どんだけココの主と話したいの
と思った瞬間ブツッと切れた…んじゃなくてどうやら留守電に切り替わったっぽいな
『〜…メッセージをどう『砂羽起きてるか〜〜〜!』
…あんたか。
この瞬間すべてを思い出した。
私はその大声に倣ってバッと上半身を起こす。
そして
「あぁそうだ私…あの暴走天使の家に…どうかしてる…」
頭を抱えてうな垂れた。
『なぁそろそろ起きねーと学校間に合わねーぞ〜。あっお前アレだろ?実は起きてんのに無視してんな…?電話の前にいんのは分かってんぞ砂羽!!』
朝から元気よのう暴走天使くん。
っていうか全然関係ないけど固定電話置くならその分他の家具揃えた方がいいよ、これから夏だしこの部屋日当たりいいから地獄だよ、とりあえず扇風機買いなよ
『…ガラガラッ!ガッシャーン!『うぉ!ハハッ!なぁ砂羽〜とりあえず出ろよ〜。まぁいいや、あのさ『いやがったなクソガキャ!』ヒュ〜♪よくぞ見つけブツッ プープープー…
…え。
なになになになにちょっなに今のっ
早朝散歩はどうした。後ろの非常に爽やかさに欠けたモブどうしたぁぁぁあ
PRR…ガチャッ
ええ、私もアホですね。
おもむろに立ち上がって先刻彼に言われた通り電話の前で再び鳴ることを祈っちゃったりしてつい食い気味に受話器取っちゃったりして
「もしも『コラァァァァァア』
うっ……さ。
耳がジンジンする。瞬時に後悔へと変わった。
『やっぱ起きてたな砂羽コノヤロウ!無視しやがって泣いちゃうぞ!?』
「鮎川くん…何してるの」
『えっ?何って『ガラララン!ガシャッ!』……朝のお散歩?みたいな?』
「………………………」
『ちょ、なに黙ってんだよ〜。朝起きたらまずは?』
「…おはようございます」
『ハイおはよ〜♪よくできましたっ』
いやいやノッてる場合かぁぁぁあ
それらしいこと言っちゃって誤魔化そうとしたってそうはいかないよあんた、その間にも後ろで何かの破壊音とか物騒な怒号とか。ふと壁の時計を見れば現在6時40分前後。当然まだ学校じゃないでしょうね一体どこで何してんのこの人
「で、何をしてるんですか。というか何で電話してきたんですか」
あんたに関係ないでしょ?ってツッコミは受け付けません。だってまだ余裕で寝れたし!如何なる理由があろうとも私の貴重な睡眠の妨害をした罪は重いのだよ
『ああっそそ!あのさ〜部屋のどっかに財布落ちてね?』
「…財布?」
『キャメルの!二つ折り!端っこにキズ!』
最後のいらなくね?
とりあえずメンズ物の財布ってことね、理解。
「探してみるけど…置いてっちゃったの?」
『それが分かんねーのよ〜。最悪スられたんじゃねーかって。ダチと一緒だったんけどひょんなコトからちっと逸れちまって〜一回帰るべって思ってたんけどこれまたちっと、野暮用が』
「…そう」
『あっそーだちょいちょいニイちゃんもしかしてオレの財布スった?『ああ!?なに抜かしとんじゃいクソガキャ!ぼてくらすぞ!?』ありゃりゃ〜話になんねーっと。砂羽?』
「はっはい」
『悪い、とりあえず探しといてくれっか』
「…うん。分かったけど…」
『帰れたら帰っから!』
ちょ、なにその不安を煽るような言い方!?
もし帰って来なかったその時は…分かるな?みたいな!?勘弁してよ死ぬなよまだ若いんだからぁぁぁあ
…っていうか
「鮎川くん…今、なんか…走ってる?」
『そそ♪鬼さんから逃げてんの〜』
「…一体何してるの」
『何ってーとそうねぇ』
何度目かのこの質問、彼はそれに対してケタケタと楽しそうに笑いながら、その様子に死ぬほど似つかわしくない爆弾を落とした
『ヤクザのおっさんと鬼ごっこ☆』
ちゅどーーーーーん
そのあとの会話は覚えてない。
っていうか会話してない。物がなぎ倒される音と怒号というBGMに相まって『あんましつけーとひき肉しちまうゾ…?』なんてキレッキレの暴走天使によるおぞましい程に楽しそうな声が。そして
『じゃっ砂羽またな〜』
聞き慣れたユルい口調を最期に電話が切れた(え?誤字じゃないよワザトだよ)
後から湧いて出てきた一抹の不安。
そのお相手って私の家の人じゃないよね??
そうだったとしても実際私には関係ないけどさ…でもなんか…知りたくないけど一応さ…
ま、考えても仕方ないということで。
それから10分後。
「……………………」
あんじゃんかよベッドの下にその代物が。
布団は畳んで押入れに仕舞った。
空気の入れ換えに窓を開けてみた。
制服にも着替えた。
借りてた部屋着は洗濯物のカゴに入れた。
そして今、その代物の前にしゃがんでいる。
……………………。
どうしよう。
一日財布が無いとやっぱり困るんだろうか、いや行って帰って来るだけなら多少友達に借りたり何だりで明日には解決することだと思うんだ。でももし今日バイトがあるとか、帰って来る時間がないとか、ものすごく楽しみにしてた予定があるとか…エトセトラ
っていうかどうにでもなると思うんだ授業?なにそれおいしいの?的なノリですっ飛んで帰って来ると思うんだ社長出勤バッチコイだろどうせ、でもそこで一つ問題が浮上
その前にあの人生きてんの???
縁起でもないあたりはスルーで。
………………ハァ。
私って超優しい超絶優しいお人好しとも言うけどスーパーハイパーミラクル優しいだろ褒めろ超褒めろ超絶的に褒めろ
もしかしなくても私が死ぬかもしれない
けど
……………………。
世の中、有害なものを知らん振り見て見ぬ振りできる人間がのし上がっていくんだと思う。ずる賢く汚い人こそ成功するんだ、良心なぞぶっ壊して自分のために。ただ自分のために。
…そもそもの人間形成が違うのだよ諦めろ私
「…永田駅」
奈那子さん、私があなたの精通した情報をアテにする時が来るなんて思わなかった。著しく不本意だけど。
只今AM7:04
約一時間半後、無事に教室で友達と挨拶を交わせますようにぃぃぃぃい
…行くか。カラスの駅、だっけ。
ああもう既に吐きそう
Why me? Why me!
(うぅ、このまま反対の電車乗っちゃいたい!)
(あ。ダメだ。)
(ちゃんと財布持って来ちゃってる私ェ…)
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