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「オレさ〜、実は女に興味ねーの」

「は」

「要するに男が好きなの」

「え」

「会った瞬間ビビッときたのよ。直感で砂羽とは絶対仲良くなれっと思ってさ〜だから先にカミングアウトしとくわ!」

「」


相変わらずその何とも言えないゆる〜い喋り口調でのたまいおった鮎川くん…

この可愛らしい笑顔の裏に隠された恐ろしさと黒さを持つ人と私が仲良くなれるだと?だってあんたさっき女子トイレで何してたよ、お知り合いのお顔を便器に(以下略)とか言ってもう、ははっこーーーわ☆

そして何よりその衝撃のカミングアウト…

いやあの。
えぇぇぇぇぇぇえマジかっ!?

さっきの「イカした男が多くて楽しいぞっ♪」という発言が全く別の意味に変換されてゾッとするんですけどぉぉぉぉぉお!?


ああ、思いっきり肩組まれてる…楽しそうにケタケタ笑ってる…この度おこがましさは置いといてもしかしなくても…コレ…私…

ゲ ○ に 気 に 入 ら れ ち ゃ っ た の か な


………………………。

何でかなあ(素朴な疑問)

何でこう、おかしな人とばかり知り合っちゃうかなぁ。私の静かで平穏な高校生活ェ……












「あ〜腹減ったな〜。そろそろメシ行くべ!」

「えっ…わ、私も?」

「なによ、親御さんには連絡したんしょ?」

…したけど。確かにしたけどさ。
友達の家に遊びに行くから遅くなりますってさっき藤木さんに電話入れたけどさ。

しかしだよ鮎川くん。
いつまで行動を共にするおつもりで?

そう言いつつも彼とお別れしたら私はぼっちになっちゃう訳で、いくら時間潰しだからと言ってこの街でソレはなかなか危険だと分かってる。身をもって実感している…。

だから、まぁいいか。(楽観主義)


「…うん。じゃ、じゃあ…どこに行く?」

「よーし決まり!とりあえずファミレスの方向かうっしょ〜パフェあん蜜マンゴープリン〜♪」

…また甘いものかあんたは。
甘党って顔してるもんね、うん。よくお似合いで。アレだね。私より女子だねあらゆる意味で。



そして私はこの直後、自分の浅はかさと嵐を呼ぶトラブルメーカー・鮎川に、邪悪な呪いをかけたくなるのであった。

類は友を呼ぶって言うじゃん。
不良さんは不良さんの引きが強いってことくらい容易に考えられるのに。…ああ、学習能力の無さたるや。

や っ ぱ り ド ア ホ み た い で す(武田さんの言う通りでした…!)








「いや〜まさかこんなトコで鉄生さんたちに会えるとは思わなかったっスよ〜。あっすんません、ラーメン二つで!」

「ああ、オレらもとんだ不運だ「あっ水あざす!ちょうど喉カラカラだったんスよね〜」…テメェ相変わらずだな…」

「へっ?なんスか?」

「ハッハッハ!まぁまぁ、賑やかでいいんじゃねーの」


…なーんでまた。よりによってココなんだ。

お腹空いてたし久しぶりに食べられるのは嬉しいけど。今は、今だけは来るべきじゃなかった。えぇ何を隠そう、葦 津 さ ん の ラ ー メ ン 屋 さ ん な う

何の気なしに道を歩いててね、何か見覚えのあるところだなぁと思ってた矢先ね、「おぉっ!鉄生さんと翔太さん!何してんスか〜!!」と心臓に悪い大声を上げて颯爽とどこかへ駆け寄ってく鮎川くん。今度は何だ…ともはやちょっぴり保護者目線で顔を向けると。


『あら?砂羽ちゃん!久しぶり…ってどーしたのその目!?』

由美さん、今日も可愛らしい。

『………………………』

葦津さん、今日も安定の鋭い視線で。


……………………。

な、中川さんには…!
中川さんには言わないでください…っ!!

と失礼ながら挨拶そっちのけでスライディング土下座をかましてお頼み申し上げた冒頭。斬新すぎる入店により、その場にいらっしゃった先客お二人のドン引きの視線を頂戴いたしました、あはっ。鮎川くんがやけに真剣な顔でしおらしく「お前…召されたのか」とか言いやがったのでやっぱり呪い殺す決意を(ああ私の中の悪魔がっ)



…という訳で。

「なんだよ砂羽〜お前ココ来たことあったのか〜。しかも鉄生さんとも知り合いとかどエレぇ偶然じゃん」

「だ、だからっ知り合いじゃないってば…」

「お前なぁ…今やっと名前知ったくれぇのモンだぞ」

「えっ?けど知ってんしょ?」

「知ってるっていうか…一回ココで偶然会っただけだから」

「そーいうのを知り合いっつーの〜。回数とか実際関係ねーじゃんよ」

そう言ってハハハッと笑ってラーメン啜って…まったく忙しいなこの人は…。しかもなんか無理やりカッコよく言いくるめてるけどその持論どうなの。確実に双方とも知り合いだと認識してなかったと思うんだけど。


「あーうるせーうるせー。食うときくれぇ大人しくなれねーのかねマーちゃんよぉ」

「えぇ別にいいじゃないスか〜。っつーかもう鉄生さんたち食べ終わってんだからいちいち文句とか言われたくないし〜」

ぶーたれながらまたラーメンを啜る彼を横目に奥の二人をチラリと見やる。

さっき、また鮎川くんによって自己紹介するハメになってしまったんだなぁ…。あ、もちろん彼の独壇場だったけど。だいたいちょっと歩けば知り合いに会うってこの人どんだけ顔が広いの…っていうかやっぱり引きの強さなのか…しかしほんっとに世間って狭い。何はともあれ、この人には悪気がないとは思うんだけど

別に望んでもないのに勝手に知った名前が増えていくのがなんだか怖い。悪い兆しにしか思えない



「でよ、その子なによ。真里のコレ?」

奥の方…えーと、戸川さんだったかな。彼がずいっと顔を出して面白そうに尋ねる。しっかりと小指を立てて。

…そう見える、かなぁ?

まぁ鮎川くんは男の人だし一応私は女だし、この手の質問は想定内っちゃ想定内だけど、むしろただ横にいるからと私なんかがそういう誤解されて申し訳ないって思う。中身はさて置き、見た目はそこらの女性顔負けの美人さんだし尚更だ、中身はさて置きな。



「あ〜そっスね!まぁそんな感じっス」

え。

「おっマジで?」

「いやそんな感じってなんだよ」

「えぇ、そんな感じはそんな感じっスよ〜」

『…葦津さん残念だったねぇ』

『黙って皿拭け』

「…ですってよ葦津さん!」

『テメェはとっとと帰れ』

……………………。

いや、あのちょっと。

鮎川くんちょっとぉぉぉぉぉお!!!


「ちっ、ちち、違いますっ!そんな感じでもどんな感じでもありません!誤解ですっっ!」

「そーかそーか。砂羽ちゃんこの荒くれモンの相手してんのかぁ、苦労すんなぁ」

「ちょ、どーいう意味っスかそれ〜」

「…オレはやっぱ葦津さん尊敬してるし、葦津さんの気持ちになると、ちっと、何とも言えねっスよ」

『何をワケ分からねーコト言ってんだテメェ』

「だっていいんスか!こんな女みてーな顔した糞ガキの甘ちゃんに取られちまっていいんスか!」

『帰れ二度と来んな』

「へぇ〜随分言ってくれんじゃねっスかぁ」


…ん。な、なんかフッと影が…って

ぎゃあぁぁぁぁぁぁあ!!!

「鮎川くんっストップストップストーーーップ!!」

どっから出てきたんだよその巨大なドラム缶はぁぁぁぁあし、しかも相当重いだろうに片手で軽々と持ち上げてる…!見た目細いのにどんなパワーの持ち主なの!?そして顔…何その狂気に満ちた楽しげな顔は…!ある意味で破顔!ちょ、ちょっとこの人…っっ

超アブナイ…!!

このままじゃ葦津さんのお店が破壊されるーーーーー!?

そしたら当然、葦津さんもキレて想像を絶する血生臭い展開に…っ!そして警察沙汰に、もちろん私も関係者として……ってそんなのいやぁぁぁぁあ


ボゴッ!ゴロゴロゴロ…!

私と同じことを思ったのかいつの間にか河内さんは暖簾の外へ出てお店との距離を取り、厳しい表情で構えていた。当然私が鮎川くんを簡単に止められる訳もなく、彼が振り下ろした巨大なドラム缶は鈍く重い音を立てて地面に打ち付けられる。しかしその位置はどこか、河内さんを狙ったというよりは、あたかも最初から何もない空間を的にしてたかのような…

っていうか今の音ってもしかしなくても。
空のドラム缶じゃなくて…中身入ってる…!?

う、嘘でしょ…。



「へへっ」

一瞬の静寂の後。
ふと顔を上げた鮎川くんは既に通常通り。
ヘラッと笑ったその顔は相変わらず可愛らしいのだが、それ以上に。

…お、恐ろしい。
この人恐ろしすぎるイカれてる狂ってる!!!

何だって私はこんな人と顔見知ってしまったんだろうか…うぅ、心臓が。心臓が痛い…



「…おい」

「ちょっとなんスかその顔〜。オレが愛する鉄生さんのドタマかち割ると思いました?」

「…ハァ〜…真里オメーなぁ…」

「えっ翔太さんまで疑ってた感じ〜?心外だなぁ」

「…マーちゃんよぉ」

「はいっ?」

「まぁ、本気だとは思わなかったけどよ」

「ハハッ、でしょでしょ」

でしょでしょじゃねーよっ!テメェ葦津さんの店でなんつーコトしてくれてんじゃい殺すぞアホンダラァ!!!

河内さんのこの剣幕も相当なものだったけど。いや、もちろんビビって身震いすることを体は忘れなかったけど、さ。


…もうなんか、どうでも良くなってきた。

この一件により今日起きた数々の出来事が頭から吹っ飛んでしまった。敵意を向けられたあの恐怖とか。ボロクソに言われて全私が泣いたあの苦悶とか。静かに私の凍てついた心を溶かすようなあの癒しでさえ。うん。

そりゃ吹っ飛ぶよねっ☆



「えぇ〜そんな怒るコトねーじゃねっスか。鉄生さんに構って欲しかっただけっスよ〜ほらオレって構ってちゃんだから♪」

「んだとこの減らず口がぁぁぁあ!!」

当の本人はさも悪びれてない様子でヘラヘラ笑いながら、親指で自分を指してペロッと舌を出す始末。そんな彼の胸ぐらを掴んで詰め寄る河内さんに対しても臆すことなく、その体勢のままグラグラと揺られてる。仕舞いには「あーあー目が回る〜」とか言ってる。こ、この人って一体…。

戸川さんがやれやれとため息をついて後ろから止めに入ろうとした時、暖簾の奥から凛とした声が聞こえてきた。



『河内、もういい』

その声は葦津さんのものだった。
何事もなかったかのように静かに後片付けをしながらこちらをチラリと見やる。

「あ、葦津さん…!」

『第一お前が血相変えるコトじゃねーだろう。それに店の客が起こした騒ぎとなりゃ、それ以上暴れられっとかえって面倒なコトになる。ヘタしたら営業停止だ』

「…いやそーっスけど!」

『そこの悪戯好きのガキは本気じゃなかった、それだけの話だろ』

「え…オレ、店壊すつもりとか毛頭ねっスよ?嫌っスもん無くなんの!気に入っちゃったし!」

「いやいやお前の場合クレイジー状態になっと何すっか分かんねーから。だいたいそれが遊びなのかマジなのか、コッチが区別できるよーにどーにかなんねーのかよ」

「んなコト言われても〜。自分じゃ分かんねっスもん」

「…マー」

「えっ?なんスか」

「この店が気に入ったっつったな?」

「ハイそりゃ〜もう」

「二度とココでさっきみてーなコトやらねーって誓えんな?」

「そもそも〜さっきのは鉄生さんが愛ゆえにオレのコトけちょんけちょんに言うから、コォラ〜みたいな?愛のムチみたいな?そんな感じっスよ」

「砂羽ちゃんコイツに誓わせてくれ」

「えっ」

い、いきなり私に振るーーーっ!?

まぁ確かに…葦津さんのお店は私も好きだし(客層は置いておいて、味がね)河内さんの言うことに異論はない。けどなんで私だよ。こんな暴走天使が私の言うことを聞く訳が…!

「ちょ、コイツにそんなコトさせなくても分かってるっスよ〜。誓うっス、オレいい子だから誓うっス!」

今、さり気なく…庇ってくれたのか?
っていうかそもそも鮎川くんが誤解を招くこと言うから私に変な役回りを擦りつけられることになる訳で…ああ、だからかな。一応その辺気を遣ってくれてるの、かな。いやいやそれくらいして当然だ!破天荒めっ!(もうムチャクチャ)


「言ったな?」

「ハイっス〜」

「っつーか店来るときゃ砂羽ちゃんも連れて来りゃいいじゃねーか。コレだってーならこのアホゥの世話すんのなんざ慣れてんだろーしよ」

えええっ

とっ、戸川さん…!
またご丁寧に小指立てて何てこと仰る!?

「おう…確かに。じゃ、それでいいな?」

いーやいや良くないっ全然良くないっっ

「あっいいっスね〜。楽しそう楽しそう!」

いや何が!?
ほんっとあんたこの期に及んでなんつー適当な…!手をパンパン叩いて笑ってる場合かぁぁぁぁぁあ

「よし。…なら今後とも葦津さんの店の出入り、このオレが許したる!」

…河内さんあなた。
このお店のなんなのさ。(って顔で今小さ〜く葦津さんがため息ついてらっしゃいました)


これにて、一件落着。

ってなるかぁぁぁぁぁあ
誰かこの暴走天使と私の接点をただちに切り離してくれぇぇぇぇぇえ!!!

…ああ、もうやだ。








「ご馳走さまっス!いや〜美味かった〜。また近いうち顔出していいスか」

『勝手にしな。たとえ血の気の多いクソガキだろーがなんだろーが河内よりはマシだ』

「ちょっ、葦津さん!そりゃ無いっスよ!」

「お姉さんもどーもっス〜」

『ハ、ハハ…またどうぞ…』

あんなことになってケロッとしてる鮎川くんはもはや流石としか言いようがない。むしろ河内さんの扱いに勝手に同情…。

そして何より私の中で接客業の鑑であるあの由美さんのキラキラスマイルを崩すほどのこの人の破壊力な。由美さんはクレイジー鮎川が苦手、と。分かる!分かりますその気持ち痛いくらいに…っ!!




『お嬢さん』

「は、はいっ」

『……………………』

お店を出る直前。
最後まで残ってた私を葦津さんが静かに呼び止めた。な、なんか。その視線の先は…もしかしなくても私の目元…ですよね(公園を出る前にまっさらなシートに取り替えたよ、ドアホじゃないよ)

『余計な節介をするつもりはねー。ただな』

あ…今のは、もしかして。
黙っておいてやるってこと、かな。

家に帰ればすぐ分かることだけど、それだけじゃなくてたぶん、ああいう人たちと一緒にいたことで変な勘繰りされないようにっていう…私にも、そして彼らにも配慮してくれた葦津さんの優しさなんじゃないかって思った。


『あんまり無理はするモンじゃねーよ』

「葦津さん…」

『…誰よりも心配すんのは、藤木さんだろ』

「あ…」

葦津さんの言うその人は。
私自身まだ数えるほどしか顔を合わせてない、中川さんや上村さん、他の方々も絶対的信頼を誓って忠誠心を持って、きっと私の頭じゃ理解に届かないくらい凄い人で。だからこそまだ家族として歩み寄るのはとても勇気のいる、それでも私の…

実のおじいちゃん、か。


「葦津さん…あの、ありがとうございます」

葦津さんの優しい言葉がただ嬉しいのと。
何となくぼんやりと、″家族″が心配をするのは当たり前で、私とあの人は確かに本当の″家族″で…そういう事実をほんのり実感して、どこか温かい気持ちになる。

お父さんやお母さんは今、いないけど。
なんの隔てもなく純粋に心から思ってくれる存在、きっと″家族″ってそういうものだから。
そういう存在が近くにいることって、ただ有り難いなって。少しずつでも歩み寄れたらいいなって。

そう、私は、決して一人じゃないんだよね。




「おーい砂羽〜。何やってんだよ行くぞ〜」

「あっ…は、はーいっ」

拍子抜けするようなゆる〜い呼びかけにズッコケそうになりつつ、一気に現実に引き戻されてちょっと頭が重いけど…。っていうか行くぞ〜って…あんたどこまで私を連れ回すつもりだよ


最後に一度、葦津さんと由美さんに頭を下げて、じんわりと胸の辺りが温かくなるのを感じて。ここに来て良かったなぁとちょっぴり思いながら。

今はとりあえず致し方なく、強烈な三人の後ろを追うことにする…。


うーん。
こ、この後どうしよう…!?(何回目だよ)






帰ろか、帰るまいか。
(今何時?ああ…20時か)
(いやそこ″そうねだいたいね〜″っしょ!)
(ごめんお願いちょっと黙ってて)
(おっさすが!手懐けてるねぇ)
(…この誤解どうやって解いたらいい?)


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