この状況、解せぬ。
「ギャハハハハッ!オレ…オレ見たいっス…!その顔にモミジ作った女、一目見たいっスよ!」
「…ツボに入ったらしいぞ」
「ああ…じゃねーよコラ。オレは今最高潮に気分が悪ぃんだよど突かれてーのかテメェ」
「お、ケンカ腰なんて珍しっ。けどそんな顔も男前!」
「モミジだけどな」
「テメェらまとめてシバく」
………………………。
「わっ私何も言ってません!」
「青アザは黙ってろ!!」
…うぅ、やっぱり
ま っ す ぐ 帰 る べ き だ っ た 。
事の経緯を説明しよう。
今から遡ること、約一時間前。
『信じてたのにっ…最低!!』
パンッ…!
うぉああ…見事に入った。あれは痛そう。
まぁこちとらついさっきグーで殴られたばかりですけど。平手打ちなんて可愛いものだと今は思ってしまいますけど。でもまぁ当たりどころが悪ければ鼓膜が破れるケースもあるとか聞いたことあるし、うん、破れてないといいですね。(他人事)
え、何の話かって??
ああそれはですね、
私の目の前で修羅場なう。
あのあと漸く少しばかり平常心を取り戻した私はひとまず目に入った公園のベンチに座った。心の臓がバクバクいってるのを落ち着かせながら、今からどうすっぺとぼんやり考え始めたとき。
ザッザッとこちらに向かってとてつもなく険しい表情で歩いてくる黒いライダースのコワモテさんが見えて、えっまたもや奇襲!?と急稼働に疲れ果てた心臓が口から飛び出そうになり、オェッとなって結果咳き込んで(アホか)その間にコワモテさんは目の前をさも当たり前かのように通り過ぎていったのだよ、助かった、神ぃぃい…と天に感謝の祈りを捧げようとしたら
『ちょっと待ってよ、待ちなさいよ!関係ないってなによ!?』
という金髪美女の金切り声。
おいその髪色でそのツヤどーなってんだよドヤンにセミナー開いてやれ、と内心ツッコんだ私GJ(どこが)
コワモテさんの足が止まらないことに苛立ったのか、いたずらにちょうど私の目の前で美女は立ち止まり涙ながらに呟いた
『話もしたくないってこと…?』
わお、罪な男ですね。だってこの人天使の輪あるよ、エンジェルだよ
そしてのたまうエンジェル
『あたしは遊びだったの!?』
昼ドラなの?ねぇ、昼ドラなのこれ???
『もういいっ!あたしここで死んでやるから!』
メンヘラktkr
死ぬ気でやれよ死なねぇから☆的なノリでメンヘラエンジェルの行く末をそっと見守ることに決めたツッコミ担当。(ただし心の声)
コワモテさんが渋々戻ってきたことにより結果、最終ラウンドは私の目と鼻の先で行われることになったのだ。仕方なく司会進行兼審判を務めますツッコミ担当ですどうも。もはやメチャクチャやないかーい。まぁということで役者は揃った。影役までキチンと揃えてくれちゃうあたり、主役のお二人さんやりおるのう。ってか?いやいやコォラ、ダメじゃないか若者さん達よーーー
※修羅場の舞台に子どもがいる公共の場を選んではいけません。
メンヘラエンジェルの懐から刃物とか出てこなくてよかった、心中は仲良くお家でやってくださいねぇ
ん?ああ、今のぜーんぶ心の声だよっ☆てへっ☆
いやあのね、要約するとただ一言で済んじゃうんだなぁこれが。他所でやってくれよなんでよりによって目の前なんだよ、分かるか、私の言いたいことが分かるか
と ん だ 迷 惑 で す 。
そしてその数分後。
パンッと気持ちいいくらい乾いた音が響き、エンジェルちゃんは泣きながら走り去って行った訳だ。お二人の問題なので会話の内容は割愛しておくね、はいカッチン。いやそれよりもエンジェルちゃんその風に舞う絹のような髪、それCM出れるんじゃないのあなた「………」ぬぉっ視線戻したら不機嫌オーラ全開のメーン。目が合っちゃったどうする「」oh…ニラマレテル……………
ふざけてる場合じゃないかもしれないかもしれないかもしれ
「なに見てんだよ」
コワモテさんは青木さ○かに変貌した。(あ、違う「どこ見てんのよ」だ。まぁいいや)
………………………。
マ ジ か
ぎゃあぁぁあ睨まれとるぅぅう!!!
なに見てるってあなた、嫌でも視界に入ってくる位置で修羅場っといてなにを仰る!?
言っとくけど百獣の王と言われているライオンは人間と同じくらいの視野の狭さなんですからねっ、目が顔の前方に位置してるんだから目の前のものを視界に捉えやすくて当然なんですっ、狭いということは近くにあるものをまず見て当然なんですっっっ
百 獣 の 王 に 謝 れ ! ! !(我ながら意味不明)
「みっ、見てません!」
…とは言え、超絶チキンハートの持ち主は否定する以外に道はないのである。
あははっ見てましたけど何か?見事に食らってましたねぇあの平手打ちは痛かっただろうなぁさぞかしっていうかあんな喧嘩別れ今時あるんですねっ☆なんて死んでも言えない。言える人はただちに私の師匠になってくれ
「いや見てただろ」
「見てません」
「見てた」
「私は何も見てません!」
「見てたじゃねーか今の!」
何が悪いの。
何をそんなに怒ってらっしゃるの!?
ええ確かに思いっきり脳内実況中継してましたけど。確かに見てたけどさ。うーん、どうしてかな理不尽だな。なんだか知らないけど
八 つ 当 た り さ れ て る ぞ 。
「チッ…見てんじゃねーよ」
ため息混じりにそうつぶやいて、一つ隣のベンチの真ん中ら辺にドカッと座る青木さん(仮名)。
胸ポケットから何かを取り出して…ああ、タバコか。ジッポの音がしてつかの間、横目に煙が上がっていくのが見えた。
どうしてそこに座っちゃうかなぁ…。
そう思うなら私が立ち去ればいいところなんだけど、青木さん(仮名)についてはさて置き、動く気になれない。行く当てもないし。まずこの殴られた跡の言い訳を考えて………あ。
普通まず鏡見て確認しないか私。
今宵、自分が女子なのか本気で疑う。
そこでひとまず鞄の中を漁る。漁る漁る漁る。………………。あれれ、たまたま忘れちゃったみたいっ☆
「おい」
低い声に思わず体がビクッとなる。
さっきの情景を瞬時に思い出す。
同じだ。
最初そう一言、声を掛けてきて…。
「…………っ」
「お前だよ女」
あの時の冷たくて鋭い目が頭に浮かぶ。
ガタガタと体が震える。
怖い。
怖い怖い怖い怖い。
どうして、なんで。
なんで私がこんな目に…っ
「お「イヤっ!!」
気づけば、固く目を瞑って声を上げていた。
「………………………」
「嫌だ……」
「…あ?」
「…な、何も…何も見てません…何も、してません。私、ふつうに学校に、通ってるだけで。何も悪いことなんか、狙われるようなことなんか、してません!!」
震える拳をギュッと握って。
さっき出来なかった、言えなかった抵抗が今何故言えるのか。そんなこと分からなかったし考える余裕もなかった。
もうあんな思いをするのは嫌だ、
ただそれだけの気持ちが頭を支配していた。
「なに、泣いてんだよ」
「…泣いてません」
「泣いてるだろ」
「泣いて、ません」
「思いっきり泣いてんじゃねーか。涙腺の感覚ねーのかお前は」
…うぅ、怖いなもう!
何でさっきからそんなに怒るんだこの人は!?
ええ泣いてますよっ!
泣いちゃ悪いんですか。あなただってさっきの人と大差ないよ怖いんだよ。認めたくないけどその風貌はどうせまた不良さんなんでしょう。ああ嫌だ!なんでこう関わる人関わる人みんなそっちの人なんだ何故だっ!!
「感覚…は、あり、ます」
「ねーワケねーだろう!」
「怒鳴らないでください泣き止めないからっ」
「…何なんだお前…ハァ…つーか、何だっけ」
「…知りません」
「まだ何も言ってねーよ」
「怒らないでください」
「怒ってねー」
「おっ怒ってるじゃないですか!」
「あーめんどくせーな話が進まねーだろーが!」
ひぃぃぃいまた怒鳴られたぁぁぁあ…。
でも、あれ…なんか私。
一発ぶちかまされたせいで頭のネジいくつか飛んでっちゃったのかな。怖いけど一応まだマトモに会話ができているような気がする怖いけど。あっビキビキと青筋立ててるのとか知らんよ、恐ろしくて顔は見れないよ。そもそも私もはや意味もなく泣いてるし視界不良。視界不良〜不良〜なななな〜なななな〜 ♪
………………………。
これ以上ふざけてたら殺されかねないから会話に集中しようね私。
「話す…んですか、殴るんじゃなくて」
「は?殴る?なんで」
「え、いや…なんでって、なんで」
「あ〜〜〜!?テメェコノヤロウ」
「わぁっ!たっ立ち上がらないでください怖いからっっ」
苛立ちMAXのご様子で勢いよく立ち上がった青木さん(仮名)、機嫌悪いのか元からなのか知らんが沸点低いよこの人…!!
相性は非常に良くないらしいね。
…って当たり前だ、こういう人と私の気が合う訳がないじゃないか。そんなこと百も承知でござる(突然の武士) ああ、やっぱりネジが…
「無理言うな。こっから動けなかったら帰れねーだろーが」
「あっお帰りならどうぞ早急にどうぞっ」
「テメェ」
「…はいテメェです」
「はいじゃねーよ!」
…怒るのが好きなのかこの人(もうやだ)
「…何やってんだ好誠」
「ああ!?…って、玄場。来たのか」
「来たのかじゃねーだろ駅前で落ち合うべっつったの誰だよ」
ねぇ私、少しは学習しようか。
一人現れたらまた一人と数が増えるフラグは以前から浮上しているじゃないか。
しかも一体何なんだ。
見た目だけで言えば青木さん(仮名)の数倍迫力のある背の高いパンチパーマさん〜サングラスを添えて〜的な。フレンチには出せないよ完全ボツだよ怖いよ怖過ぎるよ
…………………………。
さっ、場所移動し「おいコラ待て」なーーーぜ。
「人に立つなと言っときながら自分は棚に上げんのか」
「前言撤回いたします」
「却下」
「どっどこにそんな権限が!」
「それを言うならお前こそだろーが」
「そ、そもそも青木さんもう立ち上がってるんだからっそれで良いじゃないですか」
「誰が青木さんだよ!」
はい、あのぉ、青木さん(仮名)とパンチさん(適当)が話してる間にですね、とりあえずここから離れようと思いましてね、抜き足差し足でお二人とは反対方向に歩き出したところをですねぇ、ええ。
異 常 事 態 発 生 。(っていうかなんで止めたよ)
「…で、何だってーんだコレは」
腕組みしながら大きくため息をついて、状況を説明しろという目でチラリとこちらを見やるパンチさん。ああ、完全に呆れてる…何で私までそんな目で見られなきゃならないんだろうか…。
「ああ、…と。ちっと歩かねーか」
「は?歩くってオマエ…いいのかよこの子」
「………………………」
「………っ」
何でまた睨まれてるの…!!
立つなって言うから素直に座り直したっていうのに。ベンチの一番端っこで小さくなっているっていうのに。奥でパンチさんがやれやれと盛大なため息をついたのは見なかったフリだ…うぅ、何なんだ一体…
「…お前、その目はどうした」
あ、見てたのはコレ、か…
結局未だに確認できてないからどうなってるのかは分からないけど。違和感はありまくりだし熱持ってるしなんか、重いし。おそらくそれなりには腫れてるんだろう。
「…なんでも、ないです」
「………………………」
青木さん(仮名)こそ頬っぺたのそのモミジ腫れどうしたんですかって言ってやりたいけどほら私チキンry
「…気にせず、どうぞ。お行きください」
頭の中でご丁寧にスカ○ハイの名ゼリフに変換しつつある。まぁそれを言うなら「お逝きなさい」だけど、ほら私チキry
「…いやそれ、明らかに殴られた跡だろ」
「あっそんな。むしろ殴られたのは私じゃなくて」
ってコォラーーー予想外にパンチさんが会話に入ってきたもんだから地雷踏みかけたやないかーーーーいっっ
やっちまった…明らかに不機嫌顔になってしまった青木さん(仮名)…またもや…この人が当たり強いのアレ、八つ当たりが元々の原因だったんじゃん…私ドンマイ…
「そういやお前こそその顔どーしたんだよ」
パンチさんマジかパンチさんマジかパンチさんマジなのかぁぁぁあ!!!
「…フフフ…嫌なコト思い出させてくれやがったなテメェ」
矛先は私かーーーい
「わっ私は何も…見てません、から」
「今さら無駄な足掻きすんな」
「足掻きくらいさせてくれてもっ」
ああもう、どうしてこうも拗れちゃうかなぁ…!
っていうかいい加減お行きなさったらどうですか。パンチさん困ってますよ、というより呆れ果ててますよ
「好誠」
「あ?」
「オレ帰っていいか」
「なんで」
「いや、邪魔だろうと思って」
「………………………」
「………………………」
いやいや。
邪魔なのは言わずもがな、私な。
「…行くぞ、玄場」
「いいのか」
「黙れ」
「へいへい」
短いやり取りを交わして、いつの間にか既に出口に向かって歩き出してる青木さん(仮名)と、一度チラリとこちらを見てそのまま後を追うパンチさん。
…やっと。
やっと難が去ったのね………。
ん?いや、ちょっと
待
て
よ
私、止 め ら れ た 身 で し た よ ね ?
何の意味があったのアレって。
しかも散々怒鳴り散らしておいて無言で去ってくとか。おいおいおいおい青木さーーーーーん
人との出会いって、さ。
もっとこう穏やかで温かみに満ちてて、自己紹介とかし合ってある程度お互いのことを知ろうと楽しくお話して、笑顔でバイバイするものじゃないっけ。
最近不毛な関わり合いが多すぎて生きていくのが怖いんですけどどうしたらいいですか。
…あ、パンチさんが振り返った。
ぬぉぉおっ!い、今手をっ!軽くだけど手を振ってくれたぁぁぁあ
ちょっと嬉しいっ
…嬉しい???
アレか、不運に見舞われすぎて、たとえ不良さんでも良い人は良い人なんだと思うようになってしまったのか。不運に不良に。不だけに。…ああ、頭のネジ回収しに行きたい
不良さんセンサーの性能が上がってきてしまったことは決して認めたくないのだけど、なんとなく感じたことがある。
パンチさんは悪い人じゃない(半分希望)
青木さん(仮名)はノーコメント。
…と言いたいところだけど、あ、たぶんコレ殴られない。って途中からそう思った。うん。だから可能性は低いけどもしかしたら少しだけ良いひt「………」ニラマレタ…出口のところから最後の最後に一睨みサレタヨ………
確かに殴られるとか勝手に被害妄想して泣いたアレはウザかったでしょう、でもさ。私にも言い分はあると思うのこんもりと。
何が、そんなに、お気に召さないんですか…!
前言撤回。
青木さん(仮名)に関してはただ一言、理不尽。
あ、えーとですね。
なんたって一時間も前のことですから、事の経緯はまだまだ続くのですよ。人ってたった一時間の間に予想だにしないとんっっでもない展開に巻き込まれることがあるんだねぇ、あはっ生きづらい世の中っ☆住みにくい戸亜留市っ☆
…本格的にこの街が嫌いになりそうデス。
住めば都なんて、迷信だ。
(家にいても外に出てもなんら変わらない)
(頑張れ私、超頑張れ超絶頑張れ…っ)
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