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「出水さん、か。その子を探してるのか?」

「ああ!マサやんから黒咲に通ってるって聞いたからよ、もしかしたら拓海が知ってるかと思って」


夕食のあとたまたまリビングに居合わせた花とテレビを観ながら話をしてた。それが途切れて間もなく、突然ハッとして身を乗り出してくるモンだから何かと思えば。

…黒咲の女子か。

名前だけじゃ何とも言えねーがおそらく知らないヤツだ。同じクラスならともかくそこまで女子の知り合いはいない。

しかし何だって花がその子を探してんだろうか。詮索するつもりはないが一つ気になったことがあった。



「その子マサやんと知り合いなのか?」

「えっ?ああ、そーらしいぞ。オレも詳しいコトはよく分かんねーけど」

「へぇ…」

″ってゆーよりその子の家族が元々マサやんとかマリ姉と仲良いんだってよ″と花が付け加えてくる。

ま、それなら納得できる。
あの二人は基本的には人当たりがいいし、近所付き合いのある家の娘っていったトコか。

…だいぶ変わった家庭っぽい気はするけどな。



「拓海は心当たりねーか?」

「悪いけどオレもその子は知らないと思う」

「そーか…そーだよな〜同じトコっつったって学校ってーのは広ぇからなぁ」


オレの返答を薄々勘付いてはいたのか、納得するように頷きながらもどこか残念そうな花。…この様子じゃ何かあるんだろーな。

知らないからってオレに関係ねーとは別に思わないし、花の顔を見りゃその子に何か用があるんだろうなってーのは分かる。コイツは分かりやすいからな。だからこそ、打つ手がねーとなりゃどうするかって時のコイツの行動も大方読める。これは止めなきゃいけねーだろう。

黒咲にいるってなら出来るだけ力になってやろうと思ったオレは、改めて花に向き直った。



「花、自分の立場を分かってるな?」

「えっ?」

「鈴蘭の一年戦争覇者、そして異例の番長宣言…お前の名は今街中に広まってる。当然ウチにもな」

「あー…うん、まぁな〜」

「お前は今自分が思ってる以上に注目されてるんだ。月島花をやれば名を売れる、デカい顔できるって考えてるヤツらがゴロゴロいる。そんなお前がその身一つで来てみろ、恰好の的だぜ?」

「…拓海、お前エスパーなのか?」

「………要するに、直接黒咲に来て探そうと思ったんだろ。花のやりそーなコトだよな」

「おおっやっぱエスパーか!?スゲーな拓海!オレ別に何も言ってねーのによ」

「花の顔はまだそこまで知られちゃいないが…だからって何もないとは言い切れない。何かと目立つからな、ある意味」

「ん?」

「…とにかく、それは一度考え直してくれ」


オレがそう言うと、花は膝に手をついてジッとこっちを見る。そして一瞬の沈黙のあと。

「ああ、分かったよ!」

ニカッと笑って力強く親指を突き立ててきた。それに対してニッと笑い返してやる。


「…けど。そしたらよ、どーやってあの子のコト探せばいいんだろーな…」

「あのさ、差し支えないならその理由教えてくれないか」

「理由?あ、そーいやまだ話してなかったっけ!」


頭をかきながら笑う花はそこから、″その子に会わなければならない理由″を手短に話してくれた。

それは花だからこそ、嫌味のないコイツらしさを感じる話でオレは気づいたら笑っていた。



「…なるほどな。それはお互い様、だな」

「ハッハッハ!まぁそーなんだけどよ」

「けど、どちらも悪くない。むしろいいヤツだ。話を聞いた限りだとオレはそう思うよ」

「拓海……」

「…………………」

…コレ、最初のうちは笑えたけど今じゃもうお決まりだもんな。

「はい、ティッシュ」

「うぅ…ありがと!」


おもむろに鷲掴んだティッシュで乱暴に顔を拭く(まず涙拭けよ)花を見ながら、オレは再び口を開いた。

「で、花はその子と一度会って話がしたいんだな?」

「そーだな、話っつーか…別にオレの訳を押し付けるよーなつもりはねーんだ!たださ」

鼻を擦りながら笑うコイツをオレはただ、何というか上手くは言えないが。


「悪いコトしちまったのは事実だしよ、ちゃんと謝りてーと思ってさ!」

器のデカいヤローだなと改めて思った。

だから協力してやりたいって、その意を込めてもう一度笑い返したんだ。















「砂羽、お昼食べよ!」

数日後の昼休み。
相も変わらず教室でお弁当を広げ始めた私の耳に奈那子の明るい声が届く。

最近は奈那子や麻美、他の子たちも日によって教室で一緒に食べるようになった。気を遣ってくれてるのかなぁと思うと申し訳なさと嬉しさで複雑な心境ではあるが。いや、ごめんね?

不 運 続 き で 腰 が 重 い ん で す よ



「あれ?今日は食堂じゃないの?」

「うん、今日はお弁当にした」

そう言って目の前に座りお弁当の包みを開け始める奈那子。…うーん、やっぱりいつ見てもスゴい。

「今日のテーマは?」

「テーマ?んーとね、″春のピクニック″!」

可愛いけどまんまだな。可愛いけど。
っていうか私の無茶振りにしっかり対応してくれる奈那子さん好きよ、うん。


「…春の宝石箱や」

「何それ?まんまじゃん!」

「……………………」

頑張れくじけるな私。


いや、それにしたって天は可愛い子に何物与えるつもりなんだ。激しく問いたい。奈那子のスペックを以ってして更に料理までできるときたよ。しかも盛り付けとか色合いが綺麗なんだわこれまた。

…え?それに関しては努力というパターンもあるって?分かってますよそんなことは。

私だって今まではそれなりに家事をやってきたけど、料理の腕前なんて別段フツウなのよフツウ。特別美味しい訳でも見た目がイケてる訳でもない。分かります? 出 来 な い よ り 面 白 く な い っ て ヤ ツ で す


「ねね、その唐揚げとあたしの厚焼き玉子、交換しない?」

「え?いいけど、クオリティに差があり過ぎて悪い気が…」

「なに言ってんの?あたし砂羽のお弁当いっつも美味しそうだなぁって前から狙ってたんだから!」

「…恐縮です」

「ってことでいいよね?交換!」

「う、うん」

この子は私の感情が読めるんだろうか。それとも私が顔に出るほど分かりやすいんだろうか。いつも歴然とした差に勝手に落ち込んでる時、こうして元気づけてくれるんだ。本人にそんなつもりはないのかもしれないけどスゴく有り難い。こういう所を引っ括めて素敵な女の子だなぁって思う。ああ、尊敬。

感謝感激!(しかしこの厚焼き玉子ふわふわ。うまっっっ)




「あ、ところでさ」

「ん?なに?」

お弁当を食べ終えて、奈那子が鞄から取り出したファッション雑誌を読みながらこの服がああだとかこうだとか言ってるのをぼんやりと聞いていた。そこでふと思い出したことを口にしてみる。


「えーと…この辺の不良さんで″ヒデヨシ″さんって人いたりする?」

この間の電車での出来事。
そう、醜態を晒して笑われて終わったなんていう い か に も 私 ら し い あ の 一 件 。

しかしながら結局お礼を言えてないのだ。
偶然であろうと助けてもらったのは事実。出来ることなら一言お礼だけは伝えたいと今でも思う。めちゃくちゃ怖い人だった印象しかないけど。…でも最後は笑ってたし。(正確に言えば笑われたし)

そこで私の手がかりは一つ。
あの時一緒にいたもう一人の、確か眉にピアスをした人が言ってた言葉。っていうかたぶん名前。「ヒデヨシ!」って。あれは見事に大きな声だったから覚えてたんだ。


「どーしたの急に?てかあたしを巷の不良の情報通みたいな扱いするの止めてよね」

だってそーじゃないですか。

「ま、秀吉さんって人は聞いたことあるよ。有名だもん」

知ってるんじゃないですか。

「鈴蘭の三年生で、あの学校には大きな派閥が三つがあるらしくてね。その一派の頭の人。これがまたイケメンなんだわ」

めちゃくちゃ詳しいじゃないですか。

「ちなみにちょっと前に彼女と別れたって噂!だから狙い目なんだよねぇ、恐らく競争率はかーなり高いけど」

そこまで聞いてません。っていうかあなた
そ の 情 報 源 ど こ よ ?

何故″不良さん″と断定して尋ねたかというのは言うまでもなく。ここ最近少しだけ、ほんの少しだけ研ぎ澄まされてしまった私のセンサーがそれを察知したからです。脳が叫んでたんです。恐らくあそこにいた二人ともソッチの人だよーーーって。そして奈那子の話によればそれはビンゴ。あーあ。

そんな機能いらなかった


「それでなに?不良嫌いのあんたがそんなこと聞いてきて。あ、ついにあんたもこっちの道に来る気になった!?」

こっちの道ってどっちの道だよ。

「ち、違う違う!そういうことじゃなくて」

「じゃあ何?てかだいたいどこで秀吉さんの名前知ったの?」

「それはその…かくかくしかじかで」

「そのかくかくしかじかを聞かせてもらおーじゃないの!」


…ま、そーなりますよねぇ。

ってことで私は奈那子につい先日あった出来事を包み隠さず話すことになるのであった。完。

いや終わらねーよ。(私は万々歳だけど!)




「あはははっ!はー…そ、それでバンッて?鼻ぶつけちゃったの?ドアに?」

「…そこだけ何回も聞かないでよ」

「あはははははっ!もーお腹痛い…!」

「もう好きなだけ笑うがいい」

そしてこの場においても笑われてる私。
奈那子の反応は予想してたけどさ。

うん、でも思いっきり鼻ぶつけたからそのまま上にひん曲がってブタになっちゃうかと思ったけどセーフで良かったよーあはは。ってか?やかましいわ。


「秀吉さんの目の前でそれは…あたしだったらしばらく引きこもるレベルだけど…ぷっ!はははっ!」

「全力でやり遂げた本人の前で言わないで」

「はぁー…あははっ、ごめんごめん。でもさ、お礼言いたいって言っても秀吉さんと繋がるにはやっぱまず鈴蘭の知り合い作らないとね」

「さっきから思ってたんだけどその″すずらん″って何なの?」

「え?そこから?」

「……………………」

「……………………」


なんか面倒くさそうだからもういっかな☆

あの電車に乗ってたってことはまた会える可能性もある訳だし。ってか同じ街に住んでればいつか鉢合わせるってこともね。うん、考えられる考えられる。

だからもうそれでオッケー!
余計なことはしないに限るっ!!

ね?奈那子さ

「よーし、あたしが一から教えたげる!」

…いやいや、ね?奈那子さ

「鈴蘭男子高校、通称″カラスの学校″。この街随一の不良高校って言われてて恐らく知らない人はあんたくらいのものよ。派閥争いが絶えないが故に決して一つにはまとまらない、まさに群雄割拠!猛者たちの巣窟!」

奈那子さーーーん

「××線に永田駅ってあるでしょ?あれが鈴蘭の最寄駅でね、別名″カラスの駅″って呼ばれてる。あそこの駅にはだーれも近づかないの!一回見に行ったことあるんだけどほんっとにガランとしてて!何でか分かる?」

いきなり振るんかい。
っていうか奈那子さん、あなた

マイナスな要素しか言ってないの分かってる?(キラキラと目を輝かせてますけど!)

「え?えーと…その、鈴蘭の生徒が使ってる、から?」

「そーその通り!」

試しに答えてみたら食い気味に返ってきた。
ズビシッ!って感じで指さしてきた…奈那子さん…戻ってきて…どうして立ち上がって椅子に片足乗せてんの…


「ね?そんなヤバそうな学校で名を売ってるって相当でしょ?あんたはそーいう人と出会ったのよ!分かってる!?」

「…分かりたくないです」

「だってお礼言いたいんでしょ?あんたがどうしても言いたいって言うからあたしは仕方なーく良い案を考えてあげて、仕方なーく巻き込まれてあげるって言ってんのよ?」

「あ、その件についてはもう結構です、ハイ」

「なーーーーにサッパリキッパリ諦めちゃってんのよ!?ダメダメ!一度でもお世話になった人だよ?礼儀がなってない子はメッ!」

奈那子ママ、誕生。ってなんでやねーん


「奈那子さんの魂胆は分かってますよ」

「あ、人聞きの悪い言い方〜。なによ魂胆って?」

「200パーセントあり得ませんが、私が鈴蘭の知り合いを作ったとしましょう。そしてそこから交友関係を広げて上層部の方々と繋がる。違いますか」

「……………………」

「不良嫌いな私にその役目をやらせると?」

「……………………」

立ちはだかる奈那子と座ったままそれを見上げる私。クラス中の注目を浴びてしまってることはとりあえずスルーしておく。っていうか私、学習能力ってモノを一体どこに置いてきたんだろう。ただひたすらに思う。

やっぱりこの子に話さなきゃよかった


「な、なに!?」

いっいきなり両手を鷲掴んできたぞ!?

「…楽しい」

「は?」

「ぜぇーーーーーったい楽しいって!楽しくないワケがない!」

まだ目の輝きを失ってはいなかったぁぁぁあ


言っとくけど逆な。
ぜぇーーーーーったい楽しいワケがない。
…いつかこんな言い合いで奈那子さんとケンカになったりしそうで怖い。それを考えると目眩がしてくる。っていうかもういいから そ ろ そ ろ 座 っ て く れ








「ふふっ、また奈那子ヘンなことやってる!」

「え?ああ、比呂乃!」

とそこに突如現れたのは絶世の美女。
何だか一気にクラスの空気が変わった気がするぞ。ああ、男子の鼻の下が…いやでもそれも納得だ。

サラサラストレートの綺麗な黒髪。鼻筋が通ってて目も切れ長なのに大きくて。ここまで整ってる人って居るんだなぁって見惚れてしまう。美人とも可愛いとも言えるような…なんていうかこう、雰囲気は石原さ○みっぽい。小悪魔オーラがムンムンに出ている。これで同い年なんだもんなぁ…信じられない。いい匂いがしそう。嗅ぎたくなるレベル。(ああっ私の中のおじさんが!)


「クラスに来るなんて珍しいじゃん。何かあった?」

「やだ、朝メールしたじゃない。パーティのチケットお昼休みに渡しに行くねって」

「あーそうだった!ごめん、忘れてた〜」


えーと、とりあえず確か…山川さんだったよね。奈那子との終わらないコント(?)をぶった切ってくれて本当にほんっとーにありがとうございます。口に出すと不審がられるから心の中で。合掌と共に。

しかしまぁ、この二人が並ぶとまぁ。
…いや本格的におじさんになりそうだから止めておこう。うん。


「あ、ごめんなさい。お話中だったよね?」

「えっ?ああ!だ、大丈夫です!私のことは気にせずにっ」

「あーちょうどいいや!比呂乃、この子同じクラスの出水砂羽。って教室にいるんだし分かると思うけど」

「砂羽ちゃんね、私は山川比呂乃です。よろしくね?」

「あっ、はい!…よろしく、お願いします」


おぅふ…
いきなり話し掛けてこられてビックリしたって言うのにまさかの自己紹介までしちゃったよ。同い年の女の子相手にこの緊張は何なんだろうか。美人ってスゴいわ。しかしニコッと笑ったその顔…そ れ 罪 で 捕 ま り ま す よ 。

こちらに向けられた男子の羨むような目よ…コレ傷付いていいところだよね?(こういうの慣れっこだけどさ)


「砂羽あんた何で敬語なの」

「あれ、先輩に見えちゃった?」

「め、滅相もないですっ」

「あたしへの態度と差があり過ぎない〜?」

「なっ奈那子はちょっとまた違うんだって!」

「はぁ?何それ?」

「ふふふっ、面白い子!」

ん?何だこの 男 子 寄 り の 思 考 回 路 。(美人の偉力って無限大)







『あっ藤代くんだ!』

『藤代くーん!』

『キャー!ペコってしてくれた!』


いやアレだよ、奈那子だって引けを取らないくらい可愛いよ。けどきっと性格の問題だ。見た目と違ってサバサバしててノリが良くて本当は優しくて…ってほら、良いところいっぱい出てくる!だからこそ砕けられる訳ですよ。
山川さんの場合は滲み出る女神のようなオーラが。だって″ふふふっ″って笑うんだよ?そんなお淑やかな女子高生いる?女神君臨だよとんでもないよ


「やーん!藤代くんだっ」

「あっ、拓海くん!」

ここで突然目の前の二人がそれぞれ何かに反応を見せる。奈那子は目を輝かせて、山川さんは…おっと。顔をパァッと明るくさせて小走りで駆けて行ったぞ。なんて…なんて絵になるんだ!それを見て奈那子が歯をギリギリとさせて悔しそうにしてるのは…まぁスルーの方向で。私はそういう奈那子さんが好きだよ、うん。


「ああ、山川か。どーも」

「どうしたの?こっちの科に来るなんて珍しいじゃない」


ああ、そうか!
あれが奈那子の言ってた噂の二人か。
自動車整備科のナントカくんと学年一美人と言われる山川さん。それがまたどうしてうちのクラスで揃っちゃったのかよく分からないけど。

美男美女、確かに納得だ。
そのナントカくんとやらも整った顔立ちをしてらっしゃる。甘いマスクというか何というか。背も大きいし程よい筋肉質な体型。アレは女子に人気があって当然だと思う。

山川さんのあの表情を見れば、噂の信憑性も高いと見て取れる。だってまた全然違うもの。恋する乙女の顔だ、ああ美しい。奈那子の情報網はダテじゃないらしいな。…当の本人は横で怖い顔して何やらブツブツ言ってるけど聞こえないフリ。



「ねー、ちょっと見てよ!」

「こんなトコで例の二人がお揃いだよ?」

「悔しいけど絵になるよねぇ」

あら、いつの間にか麻美たちが戻ってきてる。
噂の二人の横でみんなポーッとしちゃってるよ。そういえば一気に男子の存在感が消えたな…いや故意的に消したのか?男は去り際が肝心って言うもんね、うんうん。(私は誰だ)



「山川、悪いけどちょっといいかな。オレ用事あってここに来たんだ」

「そうだったの?やだ、ごめんなさい」

とりあえず今、当然のことながらクラス中の注目が噂の二人にいってる訳で。みんながその様子を見守る中、何やら一言二言交わしたあとに山川さんが一歩そこを離れる。そしてナントカくんが近くにいた女子(あ、あれは沙都子だ)に声を掛けた。



「君ってE組?」

「えっ?う、うん!そうです!」



そして彼はとんでもないことを口にする。

「出水さんって今いるかな?」


……………………。

は?

今 な ん と ?


「出水って…砂羽のこと?」

「ああ、そうその子」

はい?

「えっと、砂羽なら…そこに…」

いやいや指ささないで指し示さないで

「そうか、ありがとう」

いやいやありがとうじゃなくて



その瞬間、クラス中の視線が私に注がれた。

それはもう色んな感情を混ぜっっこぜにした視線。好奇の目と。疑問の目と。嫉妬と憎悪とそれからそれから、えーとえーと

…うーーーわ奈那子さんあなた。
逆にその顔止めようか。ニヤニヤしてんじゃないよ面白がってんじゃないよ。シシシッて笑う声が聞こえてきそうだよ腹立つよ。でもそれより


正直に言う。正直一番怖かったのは。

「……………………」

山川さんのその目だ。

当たり前だよね、目の前に彼女がいるのにそれを置いて堂々と(一応)他の女子であるしかもあなたの風上にも置けないような平凡代表って顔の私をお呼び出しですもの。侮辱以外の何物でもないでしょう。


いや…もう…ごめんなさい、っていうか

な ん で 私 ?(何この公開イジメ!?)




ちょ、待っ、ち、近づいてくるなっくるなぁぁぁあ

「君が出水さん?」

「違います」

「話があるんだ。ちょっと付き合ってくれないか?」

「全力でお断りいたし」ガシッ

奈那子ぉーーーーーっ!!
ここぞとばかりに肩を掴むな肩を!信じられない!これが友達のすることか!?本気か奈那子ぉぉぉお!?



「ちょうど暇してたんだよねっ?」

「いえ全く」

「藤代くんナイスタイミング!」

「バッドタイミングです」

「ってことで行ってらっしゃい!」

「行ってきまーすってちゃうわ!

…………………。

渾身のノリツッコミもここまでスベると逆においしい。ってふざけてる場合かぁぁぁあ!!!


ああ…目眩がする…意識が飛びそう…目が霞んできたせいか…麻美たちまで面白そうに″行け行け!″ってジェスチャーしてるように…見える…

嘘 だ ろ 我 が 友 た ち よ



「なら遠慮なく。ちょっとこの子借りてくんでよろしく」

「はいっ!もういくらでもどうぞ!」


ただしイケメンに限る的な発言キターーーー

…ってことで。はい、ちゃんちゃん。

もう知らん。ワタシダレモシンジナイ。ダレモシンジラレナイ。


私が唯一望んだ平穏な学校生活は、この出来事によってものの見事にぶっ壊されたのである。

私が一体何したっていうんだろう。
もうこの絶望は言葉にもならないから一つだけ叫んでおくね。



女の友情なんてクソ食らえだぁぁぁぁぁぁぁあ





私の名を呼んだ君の舌切っていい?
(美男と喪女ってこれだったりして!)
(サヨナラグッバイ平穏セイハロー波乱)
(…頭大丈夫?)
(誰のせいだと思ってるんですか)


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