09






「ーうん、うん。じゃ日曜ね。了解、またね」


ピッと電源ボタンを押して通話を切る。
学校帰り駅のホームで電車を待つ私、今とても機嫌がいい。それは何でかって。たった今楽しみな予定が出来たからである。

デートだって思うじゃん?

…残念ながらそれは違う、違うけど。
うん、すみません何ら面白くないんですけどただ中学の頃一番仲良かった友達と久しぶりに会うことになったんです。ね、普通でしょ。でも楽しみなんですスゴく。だって「いい報告があるんだ」って嬉しそうに言うんだもの。

声を聞いてれば何となく内容は想像がつくけど、話を聞くのが楽しみだ。そりゃあ光子(その友達ね)可愛いもん。すぐにできると思ったけど思ってたよりも早かった、うん。って勝手に決めつけてるけどさ。

でもアレだよ、私の近況には触れるなよ「実は彼氏、巷で恐れられてる○○さんなんだ」とか言うなよ フ ラ グ 立 て る な よ 。




『まもなく2番線に○○線直通、急行××行きがー』

お、ちょうどいいタイミングで電車が

pililili…♪

って、あれ??また電話だ。
きっと光子だな、何か言い忘れでもあったんだろう。まぁ15分後くらいに各駅停車が来るみたいだし…一本見送ればいっか。別に急いでる訳でもないし。

…そう、そもそもこの判断が間違いだったんだ。







そして私は何の気なしに電話にでた。

「もしもし光子?何かあった?」

『……………………』

「も、もしもし?あれ、もしもーし」

『……………………』

「え?電波悪いのかな…聞こえる?」

『……コメ、か?』

はい?

コ、コメ?コメ…コメさん?って
ど こ ぞ の お ば あ ち ゃ ん だ よ


「…コメさん…コ、コメさんって?」

『…コッチが聞いてんだが』

確かに。確かに疑問系でした、失礼しました。

「…コメさんではありません」

『だろうな』

「あ、はい」

………………………。

ちょ、ちょちょ、ちょっと待った

誰!?


「すっ、すみません!どなたですか!?」

『待て、落ち着け。話せば分かる』

なにが!?

いやこれ絶対に間違い電話!
光子じゃない女の人ですらない。野太い低い声。要するに男の人。ってか相手も間違いだって分かったでしょうになにが「待て」なのなにが。誰なんだ一体。ああ、もう

パニーーーック

…落ち着け私、これは電話なんだ。
切ってしまえばこっちのモンだ。そうそ『おい』「のわぁあ!!

なんだこの凄みのある声は!?

『切るなよ?』

「……ハイ」

だ か ら 何 で ?

『あんた、オンナか?』

「…女です」

『オレが聞いてるのはそーいうコトじゃねー』

そういうことじゃないってどーいうこと。
質問自体ナゾなのに話の流れが読めないぞ…


「…ど、どういうことでしょうか」

『コメのオンナなのかって聞いてんだ』

その瞬間。
電話先の後ろで何かが倒れるような物音がガチャガチャと聞こえてくる。な、なんだ…何なんだ!?

なんだ軍司!どーいうコトだそれは!?

あつっ!なっ、何スかダンナ!?

米崎はんのオンナが出たんでっか!?

そして続く声。相当大きな声なのかこちらまでバッチリ聞こえてくる。元気がよろしいようでね、うん、あのさ

この言葉にならない感情どうしたらいい?


「…す、すみませんけど…その…」

意味がわからないです助けてください。

『別にアンタは何も悪くねー、それは分かってる。まぁそう怖がんねーでくれ』

無 理 言 う な

『だから切るなよ?』

故意に怖がらせてるやないか!!!

『そもそもこの電話にあんたが出たってコトはそこにコメが居るんだろ。とりあえず代わってくんねーか?』

「…はい?」

『出たくねーってんなら伝えてくれ。「ツラ見せるときゃ覚悟しろ」ってな』

コメのヤツ昨日、″明日午後には出勤する″なんざウソこきやがって!呑気にカノジョの隣ですやすやお寝んね中ってか!?

寝ぼけたカノジョが自分のと間違えて米崎はんの携帯に出ちまったっちゅー爽やかお惚けエピソードか!?やかましいわ!コッチは一年戦争も終わっとらんっちゅーに!

あれっスかね?「もうお前バカだなぁ」「だって寝ぼけてたんだもん、てへ」なぁーんて会話が…

『『死ね!!』』

あだだだっ!だっだから何スか!?


むしろ私が聞きたい。
誰 な の よ コ メ さ ん っ て 。

名前が名前だから、携帯に不慣れな旦那さん(おじいちゃん)からの電話かと思ってこれは無碍にできないと一瞬でも思った私の親切心を返してくれ。

…真面目に話を聞いてた私がアホだった。


「あ、あのっすみませんけど、もっと早く言えば良かったんですけど私そのコメさんとやらは知りませんし、番号の間違いー」

『軍司、とりあえず代われ』

えっいや、ちょっっ

『…ゴホンッ。あーえー、どうもこんにちは。米崎くんにはいつもお世話になって…いや、どっちかってーとお世話してやってます!なんちゃって!ハッハッハ!』

「は、はぁ、どうも…」

…じゃなくて!!!

「あっあのですね、ちょっと私の話を聞いてもらえませんか。その、よく分かりませんけど私のせいでコメさんとやらが誤解されてしまうようなことになるのも悪い気がするのでっ」

『ん?なんだよ亜久津?』

『ちょっと失礼します。確かココを押したら…』

「…も、もしもし?」

『ぬぉぉおっ!耳にくっ付けなくても聞こえるよーになったぞ!』

『ほぉ、そないな機能あんのか』

『スピーカーホンってヤツだ!』

わ ざ わ ざ 設 定 す る な
私の声その場に筒抜ってことですか。…もういい。もう何でもいいから私に話をさせろ。


『どーも!わしブッチャー言いますねん!』

『えっ?なにこっちの声もこの距離で相手に聞こえんのか?』

『そーっスよ!じゃなきゃ会話にならねーじゃねっスか』

『で?コメに代わってもらったのか?』

『まー待てよ軍司、アイツをこらしめんのは後でゆっくり出来んじゃねーか。今は交渉の時間だ』

こ、交渉ってなんの!?

『コメのオンナってーのはさて置き、せっかく女性とお知り合いになれるかもしれない貴重な機会だぞ?ココは慎重にいこーじゃねーか。まずはお友達を紹介してもらうために…』

『ダンナ、全部筒抜けっスよ』

『…あらっ?』

『…アホ』

…うん、アホだ。(人のこと言えないけど)
っていうかもうアレだよね、そろそろ切っていいよね。今さらだけどこの不毛な会話に付き合ってる私が一番アホだ。真相を一言告げて切ろう、だって

この人たち話にならない。


『あ、あのーすんません、今のはですね?』

「カ、カノジョじゃありません!」

『…へ?』

「そもそも…コメさんという方は知りません」

『…え?どーいうことよ軍司?』

『俺に聞くな』

いやその声!あなたでしょうが!
そもそもあなたが原因で話が勝手にエスカレートしたんでしょうがぁぁぁあ

…なんて怖くて言えないので。


「よ、要するにそちらが番号を間違えー」

ガチャッ

『よー、遅れてすまなかったな』

『コ、コメ!?』

『米崎はん!?』

コメさんとやら来たぁぁぁあ

ってなんで私が感動してるの…っていうかまた話の腰おられたし…ああ、もう頼むから

い い 加 減 に し て く れ(そもそもあなたたち誰だよ)


『お、お前…カノジョは?』

『は?』

『いやまず携帯…っつーか電話、え?』

『…何かあったんスか?』

『あーいや…とりあえずご苦労だったな、十希夫』

『何じゃ原田、オメー帰ったんじゃねーのか』

『あ?コンビニ行ってたんだよ。んでそこで偶然米崎さんに会って一緒に上がってきた』

『…コメさん何でここにいるんスか?』

『…あ?さっきから何だよオメーら』

『カノジョじゃなくてコメはここにいてコメのコトは知らなくて…』

『なに言ってんだオメーは?』

『…じゃ、じゃあ』


誰っ!?


こっちのセリフだよ。

だからさっきから何度も言おうとしてますよね、それをものの見事にへし折って勝手に話を進めて。一言、一言だけ私に言わせてくれたらここまで話がこじれることはなかったんですよ。分かります?ねぇ?ただ一言

間 違 い 電 話 で す よ ? っ て 。



『…あ、あなたは一体?』

「お分かりになりましたか」

『こっこれは!?心霊特番の決まり文句…!』

『やっぱ!?やっぱそっちの世界に繋がっちゃったんスか!?』

『ご丁寧に幽霊本人がナレーションやってくれてんのか?と、とんだサービス精神…!』

それを言うなら「おわかりいただけただろうか」だよ。っていうか

なんでそーなるんだよ


『おい軍司、話が見えねーんだが』

『…オレにも説明して欲しいっス』

『…いやな、一年戦争の件もあってブッチャーも来てるしよ、おせーからオレがお前の携帯に電話入れたんだよ。したらオンナが出てよ』

『…通話中になってんじゃねーか』

『しかもスピーカーホン…』

『お前最近携帯変えたろ?おそらく原因はソレだ。知らされた番号かオレが登録した番号か…どっちか間違ってたんだろーな』

『なるほどな…けど、だからって何でまだ話が終わってねーんだよ?』

「すみません、コメさんという方ですか」

『お、おお…そーだが』

「私のせいで誤解を招いてしまいご迷惑をお掛けしたことは謝ります。そして周りのみなさんにももう一度言いますがコメさんという方を私は一切知りませんし、カノジョなんて以ての外です」

『…おいおい、そーいうコトかよ』

『わ、悪かったな…早とちりしちまって』

「分かってもらえたなら良いんです。あと、私は心霊特番のナレーションでも幽霊でもありません。ちゃんと足もあります。人間です」

人 間 表 明

真面目な顔して何を言ってるんだ私は…ああ、頭が痛くなってきた。


『おぉ!?そ、そーなのか?』

『そーなのか、じゃねーよ』

『よ、良かった…あの世に繋がっちまったのかと…!』

『わ、わしは分かってたがの!』

『…足震えてんぞ』

「さっきから話を聞いてもらえず埒が明かなくて。やっと、やっとこの時が来たので根本的なことを言わせてください」

『………………………』


最近自分で思うこと。

この前気づいて、そして今再確認したこと。
自分がキレた時。
饒舌かつ妙に冷静になるらしいこと。

そして今新たに気づいたこと、それは

こんなくだらないやり取りに付き合う私って結構お人好しっていうか優しくね?ってこと。(ただのアホとも言う)

卑屈人間レベルが1下がった!てってれーん。

ってやかましいわ。



『…けど、コメのオンナじゃないってコトは…はっ!こ、これはチャンス!?』

間違い電話です二度と掛けてこないでください

『あっ!ちょ、待っ』ブツッ ツーツーツー…


…もう、ドッッッと疲れた。
何も考えたくないレベルに疲れた。

まぁ誤解は解けたようだし、10分以上電話してお互いのことを何一つ知ることがないまま終わるというナゾの、いや不毛すぎる会話を繰り広げた訳で。もう掛かってくることはないだろう。多少キツい言い方しちゃったし。…ううん、当然の処置だ。

しかしほんとに 誰 だ っ た ん だ よ あ の 人 た ち


なにわともあれ。
念のため一つだけキチンとやっておかねば。





着信拒否の設定、と。
(あれ?どこで出来るんだっけ?)
(…帰って説明書引っ張りださなきゃか)
(とりあえず電源オフにしとこ)
(あっ電車来た!いいこと見ーっけ!)


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