08






キーンコーンカーンコーン… ♪


4月に入り何とか無事に高校へ入学した。

一応元々県南の進学校に進むはずだった私は、学校側の計らいで後日特別テストなるものを受けさせてもらって。そうして情報システム科の特進クラスに入ることになったのだ。

あんまりこだわりのない私は、元々進むはずだった学校も制服の可愛さと新設で綺麗だからって理由で選んだし。いきなり工業高校になったからと言って別段不満は無かったんだ。


た だ 平 和 に 過 ご せ れ ば そ れ で い い の よ

今となっては特に強くそう願う。
それ以上望んだらバチ当たりな気すらしてくる、謙虚になったものだ。うん。

…春休みの間に色々あり過ぎたよね。
家のことはしょうがないにしろ、私は私で一般ピーポーらしく生きてればいいんだから。


でもさ。
これでも一応フツーの女子高生なんだからさ、もうちょっと部活に恋にアルバイトにってそーいうの考えてワクワクしたりしたかったなぁ…そういうモンじゃないの??普通って。そりゃ私だってちょっとは憧れるよ。

…そんな余裕無かったもんね、ははは。




「ねーねー、ここの席空いてる?」

そんなこんなで今は昼休み。
自分の境遇を虚しく思いながら鞄からお弁当を取り出して広げ始めた時、ふと目の前に影が落ちる。

顔を上げるとそこには私の前の席を指さしてニコニコしてる女の子がいた。えーと、確かこの子は同じクラスの…


「えっ、あ、たぶん空いてると思うけど」

「だよね?鞄無いし座ってもいいよね?」

「あ、うん。大丈夫だと」「じゃ一緒に食べよ!」

…え?私とってこと??

返事をする間も無くその子は前の机を移動させて私のそれとくっ付けてくる。なすがままでぼんやりと見てると、いつの間にか目の前に座ったその子は相変わらずニコニコしたまま私の顔を覗き込んできた。

私、この子と話したことあったっけ。


「どーしたの?ボーッとしてるけど」

「あ、いやその…何でかなって」

「何でってなにが?」

あ、そうだ。この子確か、三國さんだ。

「私、三國さんとそんなに話したこと無かったと思うし。どうして、その…」

うーん、なんて言ったらいいんだ。
この状況はなに?っていうのはちょっと失礼かもしれないし。まだクラスの人のことよく知らないけど、三國さんは明るくて他のクラスにも友達が多いイメージは何となくある。帰りとかもたまに見かけるし。

私も友達が一人もいないという訳でもない。女子が少ない分、気軽に声掛けてくれる子は多いしそういう悩みは別にない。

だけどみんなお昼は教室外に出るし、その点私はあんまり動く気になれないのだ。何ていうかアレよ

雨 垂 れ 落 ち は 三 途 の 川

って言うでしょ?


「どうしてって別に深い意味なんかないよ?ただ出水さん、いっつもお昼一人で教室で食べてるからさ。ほら、うちってただでさえ女子少ないじゃん?ハーレム状態になっちゃって心細くないのかなぁと思って」

お弁当の包みを開けながらそう言って笑う。
いつも女子一人ここでお昼を食べてる私のこと、気にしてくれてたってこと…なのかな。

な、なんていい子なんだ!

失礼だけどちょっと意外だ。
ショートカットにクリクリした瞳が印象的で明るい雰囲気の彼女。女の私から見ても可愛い子だ。それでいて周りのことをちゃんと見れるなんて…天は二物も三物も与えてると思う。


「…ありがとう、わざわざ」

「気にしなーい気にしない!まっ、ハーレムって言ったってね〜特進の男子じゃ草食にも及ばないだろうし!心配はないと思うけど」

…ただ、それなりに毒を吐くらしい。

「でもさ、出水さん…あっいや何かヨソヨソしいなぁ。砂羽でいいよね?」

「あ、うん」

「で、えーと何だっけ…あっそうそう砂羽はさ、麻美とかと仲良いじゃん。何でお昼は別で食べてんの?」

まぁ早口でよー喋ること喋ること。
女の子って感じだな、それすら可愛いよ。うん。あっ爪もクリアのマニキュア塗って綺麗にケアしてるんだなぁ…素晴らしい。って全然話と関係ないことを思ってみたり。

「特にこれと言って理由はないんだけど…教室が落ち着くから、かな」

うん、嘘は言ってない。
ただハッキリ言うとするならば

ここ数週間でビビリに磨きがかかっちゃったんです☆

「ふーん、変わってるねぇ」『おらどけどけっ!』『待てコラァァ!!』ガシャーーーンッ『きゃあっ!』『うわっ!』

…………………。

そうそう、こういうのよ。

中途半端にいくつか開いてる窓の先、中庭を挟んで奥にある機械科の教室練。その廊下の方から聞こえる物騒な物音。そして見える派手な風貌の方々が走り回る姿。

上村さんが言ってた通り、この学校にもいる。

血 の 気 の 多 い バ カ ど も が 。


「ハハッ、ああいうの嫌い?」

ふと三國さんの方に顔を向けると、頬杖をついてこちらを見ていた。なんだか楽しそうな顔で。

「嫌いっていうか…あんまり関わりたくはないかな」

「もしかして教室出ない理由ってそれ?大丈夫だよ、ああいう人らばっかじゃないし。食堂にはあんま来ないしね」

「あはは、そういう訳じゃないんだけどね」

「だったら気が向いた時でいいからお昼一緒に食べようよ!もちろん教室でも良いけどさ、たまには気分転換に」

「うん!ありがとう、三國さん」

「あーそれヨソヨソしいから止めてよ〜。奈那子でいいよ!」

「うん、わかった」

ここは平和だ。良いこともあるモンだ。

満足げに笑ってくれる奈那子を見てるとそう思う。ああなんか、改めてこういうやり取りっていいなぁ。いい子だし友達が増えたことは嬉しい。こういうのを望んでたんだよ、うん。

なんだか私の日常に明るい兆しが見えてきたような、そんな気がー…


「でも砂羽がああいうの苦手ってなると、なんか悪い気がしてくるっていうのは正直あるんだよね」

「…え?」

ちょっと考え過ぎだと思うんだけどね、と付け加えて困ったように笑う奈那子。ん?それは

ど う い う こ と で し ょ う か


「機械科Bに長沢って人が居るんだけどさ、中学の頃はそれなりに幅利かせててまぁ暴れてたヤツでね。で、あたし同中なの」

「…う、うん」

「噂によると黒工一年の実質トップは今のところソイツらしいんだ。高校入ってまで頭はるとかはらないとかそんなことばっかでさ、どーしようもないヤツでしょ」

な、なにこの感じ…
なにこの、バカにしてるようで実は心配してる幼馴染の複雑な心境みたいな雰囲気は?!


「今となっては自分でも不思議でしょーがないんだけとさ、あたしソイツと中2まで付き合ってたんだよね」

えええぇぇえ!?そ、そっち!?

「…そ、そーなんだ!?じゃあ高校が同じなのも?」

「いやそれは偶然!まさか高校まで同じになるとは思わなかったよー、とんだ大誤算。っていうのもさ」

まさかの、友達になった子が不良さんの元カノだった。なんてビックリな事実はさて置き、そして私の見えてきたはずの希望の光が遠のいたのような気がしたのも、とりあえずさて置き。

私はちょっと嬉しいのだ。

だってこれ、アレでしょ。
久しぶりだもんこーいうの。昔の恋愛話とかそんなのまさに

ガ ー ル ズ ト ー ク っ て や つ だ !



「あたしが振ったからなのか知らないけどこれ見よがしにやり直そーって言ってくんの。学校離れれば疎遠になるかなぁって思ってたんだけど、結局同じとこっていう…ホント笑えないよね〜」

「…奈那子はそういう気、無いんだ?」

「ないない!せっかく高校入ったんだよ、新しい出会いの方が良いに決まってるじゃん。それに超カッコイイ人がいるって話だし」

「ふーん…」

元カレさんがどういう人なのか知らないけど、奈那子には戻る気はなさそう…みたい。新たな出会いの話に目をキラキラさせてるもん。

しかし、超カッコイイ人かぁ…
噂になるくらいだから相当なんだろう。奈那子は一般的に見たって可愛いし、その人とお近づきになるのも夢じゃない、というかそう遠くない未来に″実は付き合っちゃいました″なんてことになってもおかしくなさそうだ。


「…でも、その人すでに売約済みみたい。B組の子と付き合ってるって噂」

売 約 済 み っ て 物 件 か よ

目を輝かせてたと思ったらその落ち込み具合…表情がコロコロ変わって忙しいなぁ。見てて飽きないけど。

っていうか

「奈那子、噂に詳しいんだね」

「えっ?てか知らないの?何にも?」

「…うん」

「無頓着なんだねぇ…やっぱりあんた変わってるわ!ハハハッ!」

…いや、違うよ。
私が変わってるんじゃなくて、あなたが大の噂好きなだけだって。(良く言えば情報通)


「噂のイケメンくんは自動車整備科の藤代くん!で、そのお相手はうちの科のB組の山川比呂乃!学年一美人って言われてるらしいよ〜。その子一応友達なんだけどさ」

ホントに詳しいんだなぁとか、その噂の女の子とも友達なんてこの子はやっぱり顔が広いんだなぁとか。話の主旨と全く関係ないことに関心がいってしまう。

奈那子さん、とりあえずあなたを尊敬するよ。


「確かに比呂乃は美人だし、そりゃイケメンくんと並んだらお似合いなんだけどさ〜。美男美女って出来すぎてると思わない?美女と野獣とか、美男と喪女とか、そっち方が面白いのにね!」

美女と野獣はわかるけど美男と喪女って。この子の言葉のチョイスは時々全力でツッコみたくなる。

「んー…でも奈那子だって充分可愛いし情報に明るいしいくらでもチャンスはあると思うよ。その山川さんって人のことはよく知らないけど、奈那子に誰か好きな人ができた時は私応援するよ」

「砂羽…あんたいい子〜!!」

「のわっ!」

急に立ち上がったと思ったらいきなり頭をワシャワシャ撫でくりまわしてきたぞこの子…!

ム ツ ゴ ロ ウ か あ ん た は


「で?そーいうあんたはどーなのよ?」

「えっ?」

「えっ?じゃないでしょ!何かないの?気になる人とかいないの?浮いた話の一つや二つないのっ?!」

グシャグシャになった髪を整えつつ、″ああ、面倒な話になったな…″と心の内思う。

おそらくこの子はズケズケと聞いてくるタイプだ。もちろんいい意味でだけど。しかし聞かれたところで私にはそんなものは

無 縁 だ

憧れはするけど、それ以上でもそれ以下でもない。そして今後に関しても最低でもしばらくはそんなことを考えてる余裕なんかないだろう、だって

まず今の環境に慣れなければならぬ。


「ちょっとちょっと〜なに?黙秘?その権利却下!」

「いや、そうじゃないけど…私はそういうの無縁の話っていうか」

「無縁?どうして?」

「だってほら、奈那子とかみんなみたいに可愛くもないし大人っぽくもないし…高校生にもなりきれてるかどうかってレベルだし」

実際そうだ。それは見た目に関してももちろん言えるし、何よりアレだ。

私はこの間の一件を思い出す。
そう、マルコメさんと会った日のことだ。

あの時は一方的に捲し立てたけど、よくよく考えれば勝手なことを言ったと思う。彼は理由もなくあんなことをするような人じゃない気がした。きっと何かしら訳があったんじゃないかって、冷静に考えれば分かることだったのに。


思い返すと他にも色々出てくる。
葦津さんのラーメン屋さんで会ったコワモテさんにも、せっかく謝ってくれたのに逃げるような態度をとって…

うん、ことごとく人への対応がヘタだと思う。

まぁ相手が相手って言えばそれまでなんだけど…それでも自分のコミニュケーション力の低さには呆れる。

きっと同じ年数生きてても、奈那子とかみんな、もっと自信持って笑って上手くやるんだろうなぁって羨ましくなるんだ。


「ぶっ!!」

こ、今度はいきなり両手で頬っぺた挟んできた?!

「ほら、笑って!」

「…ふぇ?」

そのままギュッと押されて口がウの字になってて思いっきり間抜けな声で返答するハメになってるんですが…な、何してるの奈那子さん??

目を細めてジーッと見てくるから、とりあえずブンブンと首を縦に振って了解の意を示す。あ、離してくれた。


「…な、奈那子?」

「笑うの!」

「え?い、いきなり言われても…」

「もーしょうがないなぁ!」

そうすると突然下を向いて自分の顔に手を添えて。さ、さっきから何なんだ??


「奈那子とっておきの変顔〜!」

「…ぶっ!なっ何それ!あははははっ」

勢いよく顔を上げたと思ったら、そこには。
目の下と口の端を引っ張って鼻を指で押し上げて…要するに、この子の言った通り

とっておきの変顔を披露してくれました

整った顔立ちをしてる奈那子のあられもないその顔は、面白いというか。そんなことを平気でするこの子が可愛くて可愛くて。

思 わ ず 満 点 大 笑 い で す よ


「あー…おかしー。笑った笑った…でもどうしたの急に?」

「ほらね、やっぱりその方がいい!」

「…へ?」

「砂羽はいい子だし可愛いよ?笑ったら何倍も何十倍も可愛い!だから暗い顔しないの。そーやって笑ってなって!」

「奈那子…」

うわぁぁぁあなんていい子なんだぁぁぁぁぁあ

お世辞とかお世辞じゃないとか、そんなことはどうでも良くて。ただその言葉があったかくて嬉しかった。

何だか照れ臭くてぎこちなかったかもしれないけど。私はそう言われたように、笑顔で頷き返したんだ。なんかもう、なんかもう。

ありがとう、奈那子!




誰だって褒められたら嬉しいよ!
(話戻るけど、私と仲良いからって長沢が変なこと吹っかけてきたらすぐ言ってね)
(へ、変なことって?)
(…元サヤに戻る方法聞いてきたりとか?)
(不良さんに恋愛相談されるの私?!)


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