二つの血
ナマエが熱を出した。
このくらいの歳の子供にはよくあるただの風邪だが、どうやらナマエのは少し様子が違うようだ。アラシヤマもおらず、途方に暮れていた特戦隊員たちは、寝かしときゃ治るだろ、というハーレムの言葉にしたがい氷枕を頭にあてて寝かせておいたがなかなか治らず、とうとう医者に見せることになった。
「しょうがねぇ。あの男を頼るか」
ただの町医者に見せるには自分の肩書きが大きすぎるのを自覚していたハーレムは、ガンマ団随一の腕を持つマッドサイエンティスト、Dr.高松を頼ることにした。そこいらにいる医者よりも相当腕の立つ医者だ。性格に難ありだが。
早速ガンマ団から高松を呼び出す。本部に自分たちが行くとまた小言を言われるのが目に見えていたので、直接高松に来てもらうことにした。
「私を呼びつけるだなんていいご身分ですねぇ特戦部隊隊長さん。で、患者はどこです? 早く帰ってグンマさま成長記を作成したいんですが」
着くなり文句を言いだした男が高松だ。高身長に黒い長髪。細いながらも筋肉のついた体、顔も整っている高松は、悲しいかなグンマ狂であった。
「おーおー、悪かった悪かった。俺の子供が風邪引いたみてぇでよ、診てくれねぇか」
「貴方子供なんていつ作ったんです。マジック様に報告はしてないんでしょうね貴方のことですから。後でなんと言われても私は知りませんよ」
ぐちぐちと文句を言いつつもテキパキと診察の準備をしてく高松。
その後ろでそわそわと落ち着かなげにしている特選部隊員達に容赦なく蹴りを入れて部屋から追い出す医者は、いかに世界ひろしといえどもこの男くらいなものだろう。
タバコを吸ってこんなことを考えていたハーレムだったが、そんなハーレムにも高松は容赦なく邪魔だから出て行けと言った。
「さて、取り敢えず血液でも取らせてもらいましょうか」
診察には全く関係ないが、関係者の血液検査はガンマ団の医師であり科学者である高松の役目だった。
「これはなんとも……。ハーレムは一体なにを考えているのやら」
診察は結果としては風邪だったが、どうやらただの風邪ではないと思った高松は、血液検査の結果を眺めていた。
赤の一族か青の一族かを見分ける項目で、なんと両方陽性の結果が出たのだ。どうやらこの子は赤と青の一族の混血のようだ。こんなこと聞いたことがない。
(ひとまず、この子の処置のこともありますし、ハーレムを呼びますか。はぁ、面倒なことになりそうな気がする……)
「ナマエは治るのか」
部屋に入ってきていの一番にそう聞いてきたハーレムに、思わずくすりと笑った。
なんだ、と不機嫌そうに聞くハーレム。
「いえね、貴方も人の子だったんだなと。随分と大切にしているようですから」
「あ? そんなんじゃねぇよ」
「まあいいでしょう。肝心な診察結果ですが、その前にお聞きしたいことがあります」
「ンだよ」
「この子は本当に貴方の子供ですか?」
高松がそう問いかけると、ハーレムの目が鋭くなった。
「……拾ったんだよ。それがなんか関係あんのか?」
「そうですか。ま、隠していても仕方がないですので言いますけど。この子、青の一族と赤の一族の混血児ですよ」
「はぁ?」
ハーレムは思わずくわえていたタバコを落としてしまった。
驚いたのはハーレムだけではない。高松の方も、当然ハーレムは知っているものとばかり思っていたのでこの反応にはいささか驚いた。
「知らなかったんですか? まあ早い話、二つの力がこの子の中で拮抗しているので熱が出ているわけです。なので、一方の力をもう一方よりも強くすれはいいわけです」
「どういうことだ」
「つまり、貴方がこの子に力を送って一時的に青の力を強めるのです。定期的にこの処置は必要になりますが、この子が成長すればそれも必要なくなります」
試しにやってみてくださいと言う高松の言葉に従い、ハーレムはナマエに力を注いだ。
注ぎ始めて少しすると、みるみるナマエの苦しそうだった表情が和らぎ、スヤスヤと寝息を立て始めたのだ。
「じゃ、それを月に一回程度やってあげてください。それじゃあ私は忙しいのでこのへんで帰ります」
「おう、ありがとな」
「…………」
「なんだ? そんな素っ頓狂な顔して」
「……いえ」
珍しいこともあるものだ。この男とは長い付き合いだが、感謝の言葉なんて初めて聞いた。
高松は飛空挺から降りると、自分の顎に手を当てて考えた。あの子供はなにかありそうだ。総帥に連絡した方がいいのだろうが……。
「これは面白いことになりそうですねぇ」
高松はニヤリと笑い、愛しのグンマの元へと帰っていった。
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