たからものにしよう
「だうー、あーう」
ペタペタと自分の顔を触られる感触でハーレムは起きた。目を開けると目の前に赤ん坊の顔があったので、ハーレムは驚いて目を見開いた。
(そうだった。ガキを引き取ったんだ)
昨日の夜は名前を考えていようと思っていたが、気がついたら寝てしまっていたのだ。
結局名前は何も浮かばなかった。どうしたもんかなぁ、と頭をボリボリとかく。すると、赤ん坊が手をしきりに動かした。こいつは何しているんだと思ったら、欠伸が出た。赤ん坊は口を大きく開けた。
もしかして、と思い手をバタバタと動かすと、予想通りに懸命に手を動かす赤ん坊。
「オメー、俺の真似してんのか?」
「あーう?」
子供ってのはみんなこんなものなのだろうか。
じっと見つめてくる赤ん坊に、なんだかむず痒いような不思議な気持ちだった。
「……ちょう! ハーレム隊長!」
部屋の外からマーカーの声がした。
朝っぱらからなんなんだと少し苛立つ。尚も声をかけ続けるマーカー。
「あんだよ。くだらねぇことだったら殴んぞ」
このまま無視していても埒があかない。仕方がないが、再び赤ん坊を毛布に包んで抱き上げて部屋から出る。
飛空艇には、広間のようなスペース(便宜上談話室としておこう)があり、そこから各人の部屋、操舵室、その他もろもろの部屋へと分岐している。
ハーレムが談話室へ行くと、すでにマーカー、ロッド、Gがローテーブルを囲んでいるソファに腰掛けていた。一様に下を向いていた。
いつもの定位置へ座ると、恐る恐る顔を上げたロッドがMamma mia……と呟いたのが聞こえた。
「隊長……それ、赤ちゃんっすか」
「そうだ」
「だ、誰の」
「俺の」
「育てるつもりっすか」
「おう」
マーカーは「我的天」、Gは「Mein Gott……」と言っていたが、お国言葉を使われると、正直なところどういう意味で言ってるのかわからない。特にマーカー。
「本気ですか? 我々は特戦部隊です。ここは子供なんて育てられるような場所ではありません。それに、任務の間はどうするんです? まさか連れて行かれるおつもりで? いくら隊長とはいえ、子供を完璧に守り切れると言えますか」
マーカーが正しいのだろう。ここじゃ子供なんて育てられないし、任務に連れて行くわけにはいかない。だが、子供は育てる。俺の手で。
「そっすよぉ。それにその子供を育てるならその子は隊長の弱点になる。無敵の特戦部隊隊長の弱点に。このことがどういう事かわからない隊長じゃないはずだ」
「ごちゃごちゃうっせーぞ。俺が育てる。それで十分だろーが。それによぉ? こんなガキひとり俺が守れねぇと? 弱点になるだぁ? ……舐めんじゃねぇよ」
お前ら三人相手にしてたって守り切れる。
ハーレムがそう言うと、二人はしぶしぶといった感じで引き下がった。
「何を言っても無駄ですか。……我らは隊長には逆らえません。従います」
「俺は絶対に面倒見るのは嫌ですよ」
そんな中、一人黙って成り行きを見守っていたGが口を開いた。
「……名前は」
Gに言われてハーレムは名前がまだ決まっていなかったことを思い出した。
「そうだった。お前らなんかいい名前ねーか? 女の名前だ」
「女の子かー。レベッカはどうっすか?」
「エリザベスはどうでしょう」
「……ハイジ」
「よし、ナマエだな」
「俺ら考えた意味ありました?」
三人を代表してロッドが言ったが、お前は今日からナマエだぞーと言ってナマエに高い高いをしているハーレムにその声は届かなかった。
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