第三松
おそ松はなまえを見送った後、階段を上って自分たちの部屋へと戻った。そこにいるのは未だぐーすかと寝ている他の兄弟たち。六つ子の中では早起きのチョロ松ですら寝ているところを見ると、本当に早い時間なのだ。
「起きろニート達!」
スヤスヤと眠っている顔に無性に腹が立った。こっちがこれだけ悩んでいるのにこの六つ子たちときたら……!
おそ松は布団を剥ぎ、カーテンを開け、彼らの耳元で怒鳴った。
「うっ、まぶしい……さむい……」
「布団、布団を返せぇ」
「やきう?!」
「野球じゃないよ、十四松兄さん。バカ松兄さんが話があるんだって」
「いきなり何すんだよおそ松兄さん!」
次々と起き上がって文句を言いだす兄弟達の前に仁王立ちしておそ松は言った。
「松野家六つ子緊急会議を始める!」
状況を飲み込めていないであろう兄弟達の間抜けヅラを眺め、おそ松は話を切り出した。
「さっきなまえに会った」
「えー! おそ松兄さんずるーい! 僕だってなまえに会いたかった!」
「そうだよ! おそ松兄さんばっかりずるい!」
「いーなー!おそ松兄さんいーなー!」
「マイシスターは元気だったか?」
口々に不満を漏らす他の兄弟をおそ松は黙らせようとしたが、一松の方が早かった。
「黙ってろクソ松。おそ松兄さん、ただ自慢したかったわけじゃないでしょ? 本題は?」
「さっすが一松。おにーちゃんのこと分かってるねぇ」
「へへ、あざーす」
おそ松は満足げな一松の頭を撫で、みんなに座るように促した。
「どうやら俺は……いや、俺たちはなまえに嫌われているらしい」
おそ松が神妙な顔で放った言葉だったが、兄弟たちはなんだ、と呆れ顔になった。
「おそ松兄さん知らなかったの? なまえが僕たちのことを嫌ってることなんて明らかでしょ」
トド松は興味を失ったのか、スマホを弄りながら言い放った。
「ヒヒッ、まぁ、当たり前だよね。こんなニートでクズで童貞の兄なんか恥以外の何物でもないよ」
一松が卑屈に笑う。
「えー! 僕たち嫌われてんの? なんでなんで?」
「フッ…………マイシスターは恥ずかしがり屋なのさ。さしずめなまえは月ってところだな。俺という太陽が眩しすぎるせいで避けているのさ」
知らなかった十四松とどこかわかっていないカラ松。
「えー! お前ら知ってたんなら言えよ! びっくりするだろ!」
「いや知らないってことの方がびっくりだよ」
あんなにあからさまに避けられてて気付かないバカはいない! とチョロ松が叫ぶ。おそ松はショックを受けたとばかりに顔をしかめる。
「とにかく、このままじゃダメだ! 原因究明を今後の目標とする!」
ビシッと明後日の方向を指差しポーズを決めたおそ松に、他の兄弟たちは渋々頷いた。結局のところ、おそ松は長男なのだ。長男の言うことは絶対。暗黙の了解だった。
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