玖!
「なーなーおっさまー。どこいくんです?」
ずっと山道を歩いていたのでそろそろ疲れました。子供の有り余る体力でもキツイですよこの山道。ん? 子供だからこそなのかな?
手を引いているおっさまは息ひとつ乱さずに淡々と登っている。私を気遣ってかペースはゆっくりだ。
「もう少しや、頑張り」
優しい顔して結構厳しいんですね。
あ、なんだかお堂が見えてきましたよ! あそこが目的地ですかね。
「到着やで〜。お堂さんの中は涼しいさかい、なまえちゃんはゆっくりしててな」
確かに入り口は涼しくて気持ちいいです。おっさまは奥へ行くとある場所で座り、お経を唱え始めた。
なんだかここは落ち着くなぁ。冷たくて気持ちいいし、おっさまの声は子守唄みたいだし。
ガサッ。
「ん? ねこさん?」
後ろの茂みでガサガサと音がした。
ぱっと音のする方を見ると、私と同じくらいの年頃の男の子がいた。
近所の子が遊びに来たのかな。
男の子は私と目があうと、パッと駆け出してあっという間にどこかへ行ってしまった。
「なまえちゃん、どないした?」
「いまな、おとこのこがおったんやけど、にげてしもたんです」
ちょっと目つきが悪かったですね。うん。
私のその言葉を聞いて思い当たる節があったのか、和尚さまは、あぁ、竜士か、と言って思案顔になった。
「多分その子はわしの息子の竜士や。なまえちゃん、今度会うたら仲ようしてくれるか?」
「もちろんです! りゅーじくんとお友達になりたいです!」
「ほーか。ありがとぉな」
ニコニコとして頭を撫でてくれる和尚さまに、私もつられて笑いました。
「ほな帰ろか。お母ちゃんとお父ちゃんには言わんで来たんやろ? きっと心配してるで」
ここに来たことは秘密な。
と言って和尚さまは小指を差し出してきました。ゆーびきーりげんまん、嘘ついたらはり千本のーます。指きった!
和尚さまとの秘密ができました。
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