序章
 ふわふわとした感じがとても心地好い。
ここはどこなんだろう? 問い掛けても答えが返ってくることなんて無い。とにかく歩くこう。

 てくてく、てくてく。全く変わらない景色の中を歩いていると、自分が本当に歩いているのかわからなくなる。

 なんか嫌だな。そう思い始めた時、誰かがいるのに気づいた。女の人みたい。
自分以外の人がいる。そのことに嬉しくなったわたしは、すぐにその人のところへ駆け出した。

「おねえさ〜ん。……?」

驚いた。どうやら泣いているらしい。

「どこか痛いの?」

「……」

無言で首を振るおねえさん。怪我をしてるわけじゃないみたい。

「じゃあ、なんで泣いてるの?」

怪我じゃないならどうして泣いてるんだろう。
 しばらく考えていたおねえさんが口を開く。

「…君は、毎日楽しい?」


「うん。楽しいよ?」

わたしの答えに満足したかのように目を細めるおねえさん。
どうしてこんなこと聞くんだろう?

「そっか、…じゃあ、お姉さん君に一つだけお願いがあるんだけど、いい?」

「いいよ〜」

なんだろう。

「私とお話してくれないかな?」

「…? あんまり面白くないと思うよ?」

「何でもいいの。お願い」

「う〜ん。じゃあ、わたしの村にはっちゃんっていう子がいてね、その子と毎日遊んでるんだ〜。そしたら……



     ***



でね、はっちゃんひどいんだよ〜?わたしの大福食べちゃったの〜。わたしそれですごく怒ってね、はっちゃんに、もう遊ばない!って言ったの。それで家に帰ったあとで、はっちゃんがおにぎり持ってきてくれたから二人で食べたの〜」

「仲直りできた?」

「うん。はっちゃんがね、ごめんなさいって言ってくれたから許してあげたの。えらいでしょ〜?」

 わたしが得意げになって話し終えると、おねえさんはふふふっ、と笑っていた。

「よかったね」

「うん!それから「春!」はっちゃん?」

はっちゃんが呼んでる。この声はどこから聞こえるんだろう?

「おねえさん。わたし、はっちゃんが呼んでるから行かなきゃ」

そう言って駆け出すわたしをおねえさんの声が止めた。

「待って、最後に名前だけ教えて!」

「わたしは、蓬川 春って言うんだ〜」

そうしている間も、はっちゃんはわたしの名前を呼び続ける。

「春ちゃん!ありがとう!本当にありがとう!」

「おねえさん、またね」

わたしの意識はそこで途切れた。

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