Story that was told after.
∴某書店にて
芥辺とあかねの、有る意味迷惑なカップルが去った後の店内では、店員同士の間であの二人のことが囁かれていた。
「田中さん、何なんです? あの人。あかねちゃんの彼氏みたいですけど」
「みたいじゃなくて彼氏なんだよ、五十嵐。お前が来る前だったかなぁ、今日みたいに九を迎えに来てたんだよ。 はたから見ればただの仲がいいカップルなんだが……」
言い淀む田中を見て、五十嵐は不思議に思った。
(確かに睨まれて怖かったけどそんなに恐れる人なのか?)
辺りの様子に気をつけて語る様は、ひどく滑稽だった。
「めちゃくちゃチャラい客がいてなぁ。そいつが九に絡み出したんだよ。客だからって抵抗もできずにいたんだが、ちょうどあの人が来て……」
「あっ! それ自分も見ました!! なんか急に悪寒がして、気がついたらその人が絡んでいたお客さんをボッコボコにしてたんすよね! あれはマジで怖かった……」
話に割り込んできたのは五十嵐の先輩だった。当時のことを思い出してか、二人はぶるりと身震いをした。
「あの時からこの人には逆らっちゃなんねぇって暗黙の了解ができたんだ」
「だから五十嵐。絶対にあの子には手を出すなよ。手を出してどうかしても俺は知らんからな」
青く恐ろしい顔で言う田中に、五十嵐は頷くしかなかった。
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∴芥辺事務所にて
「そういえば芥辺さん。バイトの人を雇ったんですよね。どんな人でしたか?」
帰りに買い物をしたのだろう。二人でキッチンまで運んできた食品や日常品が詰まったビニール袋をテーブルへ置き、冷蔵庫へしまいながらあかねは尋ねた。芥辺は少し考えた後、
「使えそうな人だった」
と言ってスープを飲んだ。お、今日は上手くいったようだ。彼の雰囲気が柔らかくなった。
バイトは今までも雇ってきたが、全員使えないやつだったとクビにしていた。いつになく高評価を与える芥辺にくすりと笑うと、あかねは遅めの夕食の用意を始めた。
「芥辺さんがそこまで言う人に私も会ってみたいです」
食事中にこう切り出したあかねは、一抹の期待を込めて芥辺を見つめた。
「そのうちね」
こう芥辺が言うのなら近いうちに会わせてくれるのだろう。なかなか一緒に仕事をしている人を紹介してくれない芥辺だが、今回は教えてくれるようだ。よほどその人が気に入ったのだろう。
あかねはまだ見ぬその人に会うのが今から楽しみになってきた。
夕食後、あかねが食器を洗っている間に風呂に入った芥辺が彼女にも風呂に入るよう促した。そして、あかねが風呂から上がった後は適当にテレビを見た後、二人そろって就寝した。
二人寝ているので少し狭いベットの中、芥辺にぎゅっとくっついて寝ているあかねの寝顔を心ゆくまで堪能した芥辺は、やっと自身も眠りについたのだった。
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