なんてことないさよならを
※ヒナナミです。初っ端からひどくネタバレをしています。アイランドモードです。
みんなを監視するために私とウサミちゃんは生まれた。だから、私はみんなから一歩離れていないといけない。私はみんなと仲良くなっちゃいけない。いけないはず、だったのに。
「七海。その……一緒に、映画を見に行かないか?」
「日向くん……」
最初は断ろうと思ってた。でも、ウサミちゃんがせっかくだからと私の背中を押してくれた。映画の内容は寝ていて覚えてないけど、日向くんといるのは楽しかった、と思う。
日向くんは私が途中で寝てしまっても、怒らずに笑ってくれた。七海はしょうがないなって言ってくれた。
私に心はない。“おとうさん”は、感情があると最後が辛くなるだろうからと言って私に感情というものをプログラミングしなかった。だから、楽しいとか、悲しいとか、そういう感情はわかない。
……はずだったのに、私はいつの間にか日向くんといると“楽しい”と思うようになった。日向くんと離れている間“寂しい”と思うようになった。
「七海!」
日向くんが私のことを呼ぶ声が聞くと体中がポカポカして、暖かい気持ちになった。
だから、なのかな。
「七海、みんなの所に行かなくていいのか?」
「…………」
修学旅行の最後の日。みんなが船に集まっている中、私と日向くんはジャバウォック公園にいた。日向くんは不思議そうな顔をしている。
「七海?」
「日向くん。あのね、私ね……」
言っちゃダメ。
本当のことは言っちゃダメ。
分かってる。でも、日向くんには本当のことを、私の“正体”を知ってほしい。最後まで嘘をついていたくない。でも、言ったら“おとうさん”や“おにいちゃん”が悲しんじゃう。
「泣くなよ」
「え?」
ぎゅっと抱きしめて私の頭を撫でる日向くん。
「私、泣いてる……?」
ウソ。私には涙が出るようにプログラミングされてないよ。私はみんなみたいに生きてないよ。だから悲しいなんて思わないはず。わからない、わからないよ。
泣くのを止めようとしたら少しむせた。
すると日向くんが言ったんだ。
「我慢することはないと思うぞ、七海」
「でも」
「泣くのは悪いことじゃない。だから、泣いていいんだ」
「日向くん……」
「まあでも、俺は七海には笑って欲しいんだけどな」
日向くんの温かさを感じて、日向くんの胸の鼓動を聞いて。だんだん涙も止まってきた。もう泣いたりしない。日向くんが教えてくれたように笑うんだ。
「……ありがとう、日向くん」
もう、大丈夫。
「……七海。その、あれだ。向こうに着いたら言いたいことがあるんだ」
だから早く行こうぜ。
と私の手を引っ張る日向くん。
だから私は私にできる一番の笑顔を向ける。
船に乗り、それぞれの部屋へ向かう。
夜になってみんなが眠れば“向こう”で目が覚める。だから、最後に言うんだ。
「みんなと、君とこの修学旅行をできてよかった。すっごく楽しかったよ。バイバイ日向くん」
「俺もだ。じゃあな、千秋」
「!!」
日向くんが扉を閉めたあと、その場に座り込む。おかしいな、もう、、割り切ったつもりだったのに。
「ずるいなぁ、日向くんは」
最後の最後に名前を呼ぶなんて。
「……大好きだよ、創くん」