家に帰ってからは大変だった。
おじさんは、ハリーを物置に押し込めた。
抵抗するだけ無駄だということがわかっているハリーは、大人しくいつもの定位置である粗末なベッドの上に座ると、耳を澄まして外の様子をうかがう。
バタン!バタバタバタ!
何かが倒れるような音の後に、慌ただしく誰かが走る音も聞こえた。
(長年の勘から言えば、おじさんが倒れておばさんが慌てて駆けつけたってところかな?)
正しくはバーノンは椅子に倒れこみ、ペチュニアはブランデーの大瓶をとりにいったのだが、当たらずといえども遠からず、といったところだ。
(時間…何時なんだろう。もうみんな寝たのかな)
物置に入れられてから、だいぶ時間が経った。ずっとベッドに寝っ転がっているので、そろそろ背中が痛くなってきた。
薄暗い中、目を閉じて考える。
……ダーズリー一家と暮らしてほぼ十年が過ぎた。思い出すかぎりでは惨めな十年だった。
ハリーが覚えていることといえば、目のくらむような緑の閃光と焼け付くような額の痛み、そして誰かの泣いている声だけだった。
緑の光の正体が知りたかったが、おじさんもおばさんもハリーが質問をするのをたいそう嫌がったので、きっとこれが自動車事故なんだ、と思う他なかった。
「んー、もうそろそろ夜かなぁ」
そろりとドアを開けて様子を見てみる。
ちなみに、この物置兼ハリーの部屋は鍵が付いていない。
ただ、バーノンがまだ起きている時に外に出ると、途端に機嫌が悪くなり、ひどい時は叩かれた後に部屋に戻される時もある。
そうなるとかなり面倒なので、ハリーは夜になるまで部屋から出ないことにしていたのだ。
「……よし」
おじさんの大きなイビキがしっかりと聞こえることを確認して、そっと物置を出る。
それからハリーは裏口から外へ出ると、少し肌寒い夜の世界へと足を踏み出した。