動物園と優しい人


動物園に行けるようになって、ハリーは自分の持っている服(と言っても全てダドリーのお下がり)の中で一番綺麗な服を着た。

おじさんとおばさんは嫌そうな顔をしたけど、それがダドリーの服だったことを知っているので、何も言ってこなかった。

ハリーが車まで来ると、すでにピアーズがきていた。
ダドリーが一番に車の後部座席に座ろうとしたから、ハリーは説得しなければならなかった。

「ダ、ダドリー。真ん中に座らない?ほら、今日の主役はダドリーなんだから、真ん中がいいよ!」

何とかダドリーを真ん中に座らせて、ピアーズ、ダドリー、ハリーの順で座ることになった。

(よかった…。ダドリーなら大丈夫、なはず)

実はハリー、ダドリー達に虐げられていたせいか、自分と歳が近い男の子がそばにいると震えが止まらなくなるのだ。
ダドリーは同じ家に住んでいるので、嫌でも慣れざるを得ないけど、他の人はどうしても無理だった。

車が走っている中、ハリーは窓の外を眺めていた。隣の車道をオートバイが走っているのを見たとき不意に思い出す。

(そういえば、今朝の夢にオートバイが出てたっけ。たしか…)

「空飛ぶオートバイ…」

呟いてから急いで口を塞いだが、気づいた時には遅かった。
バーノンおじさんは途端に前の車にぶつかりそうになった。運転席からぐるっと振り向きざま、口ひげを生やした巨大な赤カブのような顔でおじさんはハリーを怒鳴りつけた。

「オートバイは空を飛ばん!」

ダドリーとピアーズがクスクス笑った。

「ご、ごめんなさい」

ハリーは、またやってしまったと頭を抱えた。
それから動物園に着くまで、ハリーは必死に喋らないようにした。

(こんなことで怒られて、初めての動物園を台無しにしたくないもの)