「うへぁ!?」
急に物陰から人の声がした。
びっくりして変な声が出てしまい、ハリーは顔を赤くしてしまった。
「ど、どどどなたですか?」
どもってしまった。
ああ恥ずかしい。穴があったら入りたい。そうハリーが思っていると、
「おお!ディグルの旦那!注文の品はもう届いてるよ!」
「ジーン!この子がポッターさんかい?」
急に出てきた男の人(ディグルさん?)はおじさんから包みを受け取ると、少し興奮気味でそう言った。
おじさんは、なぜか得意気に「そうさ!」と大きな声で言う。
まるで、周りの人に言っているように妙に大きな声だった。
「なんと!ポッターさん、お会いできて光栄です!ぜひ握手をさせてください!」
「それは、かまわないですけど……?」
彼は急ぎ気味にそれでもしっかりと握手をしてからすぐに帰った。
「もう少しお話ししたかったのですが、急いでいるのでこれで失礼します。ではポッターさん、よい一日を」
そう言うやいなや、ボンっという音を響かせて急に消えたディグルさん。
彼が消えた跡をハリーが呆然と見ていると、
「ディグルの旦那、こりゃ帰ったらまた大騒ぎするな」
と笑いながら言った。
初めて笑い顔を見たときは嫌な笑い方だと思ったが、今は笑うとえくぼが出て愛嬌のある顔だとハリーは思った。全体の雰囲気もどことなく汚らしいものだったが、今はガテン系の人の雰囲気をまとっている。
「俺がはじめと全然違うんで驚いたんでしょう?」
「え、なんでわかったんですか?」
「そう顔に書いてありやしたから。実は、この店は魔法族・スクイブ専用のマグル服専門店でしてねぇ。ここに店を構えてると、たまーにマグルの奴がふらふら〜っと来ちまうんですよ。こちとらマグルに売る服なんかねえですからね、俺の魔法でマグルがこの店を出ていきたいってぇ思ようにしてるんでさぁ。だからその魔法がかかってる間は俺がすごーく嫌な奴に見えたってぇわけですよ」
「魔法使い……マグル……、魔法………?」
俺の魔法すごいでしょう?
と聞いてくるおじさんだったが、ハリーは何かを思い出しそうでその問いかけに気がつかなかった。(魔法使い……どこかで聞いた気がする。どこでだっけ。……たしか、昨日……)
……………そうだ!!思い出した!!リーマスが魔法使いでメガネを直してもらったんだ!!
わかったわかった!!とスッキリしたハリーに、おじさんは笑って問いかけてきた。
「ポッターさんのとこにはもう手紙が来たんですかい?」
(手紙……そういえば、リーマスはそんなことも言ってた気がする)
「まだです」
「そうですか。でも、昨日フクロウが飛んでるのを見たんで、きっと明日には届いてるんじゃあないですかぃ?」
リーマスもそう言ってた。
本当に手紙が来るのだろうか。
ハリーがうんうん唸っている間に、試着室に着いたようだ。
シャーっとカーテンを開けると、中にはたくさんのダンボールが積まれていた。
「汚くてすいやせんねぇ。なにしろ普段なかなか使う機会がないもんで。じゃあ、その服に着替えたらさっきの通路を通って出てきて下せえ。俺は奥様を呼んでくるんで」
「はい」
おじさんが手早くひょいひょいとダンボールを抱えると、人が二人着替えても平気そうなほどの大きさの試着室になった。おじさんはもと先程通ってきた道を戻って行く。特に複雑な道でもないので、おそらくハリーだけでも戻ってこられるだろう。
「おじさんも魔法使いなんだ……」
人は見かけによらないとはよく言ったものだとハリーは思った。
ハリーはカーテンを閉めて、おばさんが選んだ服を着た。
一応ダーズリーの家の子供として学校に行くわけだから粗末な服は選ばなかったらしい。
くすんだ灰色のワンピースは型の古いものだったが、いつもダドリーのお古を着ているハリーにはとても可愛く見えた。