壊れたメガネと魔法使い


「…………ん?」

ポスッと軽い音がした。途端に体に加わる暖かな熱とその年頃にしては少し軽いくらいの重み。すーすーと寝息をたてて寝ているハリーの頭をそっと撫で、自分のコートをかける。いつの間にか出来上がっていたボタンを見ると、自信があるのもうなずけるくらいに上手だ。
僕に気を使って黙って待っていてくれたハリー。優しい子だ。そういうところはリリーに似てくれたようで安心だ。ジェームズに似ていたら……考えたくもないね。
体つきを見て分かったが、やはりあまりいい食生活をさせてもらえていないみたいだ。髪も栄養が足りていないせいかパサついている。
おそらくこのくしゃくしゃの髪もきちんと手入れをすれば艶のあるリリーのような髪になっていただろうに。

できることなら僕が引き取って育ててあげたかった。ジェームズとリリーの、そして僕らの大切なハリー。

「いや、だめだな……」

僕は異端の者だ。魔法界から忌み嫌われている者と一緒に暮らしていてハリーが幸せになれるはずがない。
それに、ダンブルドアがあのマグルたちにハリーを預けると、そう言ったのだ。僕にとやかく言う権利はない。

「……っくしゅん」

しまった。
ハリーは薄着でいることを忘れていた。
それにもう夜も遅い。そろそろ家に返さないと。
ハリーを起こさないようにそっと腕に抱く。
姿現わしをするので、ハリーやハリーのおじおばが起きてしまうかもしれないがしょうがない。
まさか堂々と家に入るわけにもいかないしね。

ハリーを抱え(所謂お姫様抱っこである)、姿現わしでハリーの家まで行く。

「んぅ………」

やっぱり衝撃が抑えきれなかったか……。
寝ぼけ眼でぼんやりとしているハリーに、部屋はどこかと尋ねると、

「かいだん……の、した……」

と言った。
……普段あまり怒りをおぼえることのない僕でさえ、この部屋には怒りが湧いた。
これではまるで物置きじゃないか。まったく、あのマグルの夫婦は何をしているのだ。

湧き上がる怒りを抑え、あくまで慎重にベット(と思われる場所へ)ハリーを横たえる。
最後にもう一度だけハリーの頭を撫で、

「……Our precious child, I love you and will never leave you
never, ever, during your trials and testings.
I promise to protect you absolutely.
So , please take a rest in peace .」
どうか、この子が少しでも幸せになりますように。

そう呟いて、リーマスはダーズリー家の平凡な廊下に溶けるように消えたのだった。