ブランコと古い記憶


特に行くあてもなくぶらぶらと歩く。
物置に閉じ込められている間に着替えた部屋着以外に何も着ていないので、ハリーは少し寒く感じた。

「The water is wide, I can't cross over〜」

寒さを紛らわせようと歌を歌う。テレビなどなかなか見せてもらうことのないハリーが知っている歌といえば、おばさんがダドリーと歌っていたこのThe Water is Wideくらいだった。

「I know not how I sink or swim〜」

歌っている間に家から一番近い公園まで来ていた。何気なく立ち寄り、ブランコをこぐ。

(そういえば、初めてちゃんとブランコに乗ったかもしれない…)

キーコキーコとブランコをこいでいると、昔のことが甦る。



小さい頃はよくダドリーとおばさんと近所の公園で遊んでいた。その頃はまだおばさんも優しくて、私に愛情を持って接してくれていた…と私は思っている。この日も、公園で遊んでいた。

「ねえ、ダドリー。わたしもブランコにのりたい」

一つしかないブランコを我が物顔で使うダドリーに、私は頼んだ。
しかし、ダドリーが私の言うことを聞くはずがなく、
素知らぬ顔でブランコをこいでいく。むしろ先ほどよりも激しくこぐようになった。

「ダドリーちゃん?ハリーも使いたいみたいだから向こうでママとお砂遊びしましょう?」

おばさんが私も乗れるようにと他の遊びをダドリーに提案したが、指図されるのが我慢ならない彼は大きな声で

「やだ!!」

と叫び、より一層激しく漕ぎ出した。
私もそこで諦めていればまだおばさん達と仲良くやれていたのかもしれない。ただ、子どもとは我慢するということを知らないようで……。

私が「かして!!」とダドリーに叫ぶと、恐ろしいほど揺らされていたブランコが急に停止した。
もちろん今まで動いていた物が急に止まったことにより、慣性の法則でダドリーは前に飛び出してしまった。

驚く私とおばさんの目の前を飛んでいったダドリーは、生垣に頭を突っ込んだ。
しばらく呆然としていたおばさんがようやく動き出したのは、ダドリーが泣き始めてからだった。