ハリーと消えたガラス


ハリーが呆然としていると、ダドリーがドタドタと、それなりに全速力でやってきた。

「どけよ、おいっ」

「うっ」

ダドリーがハリーのわき腹にパンチを見舞った。不意を食らってハリーはコンクリートの床にひっくり返った。
ハリーが床の上で殴られたお腹を抑えている間に、ダドリーとピアーズはガラスに寄りかかって蛇を見ようとしていた。しかし、次の瞬間、二人は恐怖の叫び声を上げて飛び退いた。
ハリーは起き上がり、息を呑んだ。ニシキヘビのケースのガラスが消えていた。大蛇がズルズルと外に這い出てきた時、館内にいた客たちは叫び声を上げ、出口に向かって駆け出した。

蛇がスルスルとハリーのそばを通り過ぎたとき、ハリーには低い、シューシューという声が聞こえた。

「ブラジルへ、おれは行くーーシュシュシュ、お嬢さんありがとよ。アミーゴ」

「かっこいい……」

飼育員が慌てて駆けつけたときには、腰が抜けて動けないダドリーとピアーズ、それからキラキラとした目を蛇の去った方へ向けている少女がいた。

その後、混乱しているピアーズとダドリー、それからペチュニアおばさんを落ち着かせて、車に乗せるのに随分時間がかかった。

おじさんは、おばさんがヒステリーを起こしたのでハリーのことなど気にも留めなかったが、落ち着いてきたピアーズの一言によって状況が一転した。

「ハリーは蛇と話してた。ハリー、そうだろ?」

運転席に座っているおじさんの顔をバックミラー越しに見ると、今までにないほど赤くなっていた。

(家に帰ったらお仕置きか……)

ハリーは、高揚していた気分が一気にしぼんでいくのを感じた。