ハリーと消えたガラス


それからハリー達は、爬虫類館を見て回った。館内はヒヤッとして暗く、壁に沿ってガラスケースが並び、大小様々な蛇やトカゲが材木や石の上をスルスルと這い回っていた。

おばさんは一刻も早くここを出たいようだが、ずっと薄暗い物置で暮らしていたハリーからすれば、ここはすごく落ち着くところだ。

色々な蛇を見て回っている中で、ひときわ目を引いたのは館内でも一番大きいであろう蛇だ。
ダドリーも見つけたらしく、その蛇がいるガラスケースへ駆け寄る。
おじさんの車を二巻きも出来るほどの大蛇を、ガラスに顔をくっ付けて見ているダドリーは面白かった。

(ああしてればダドリーも可愛いんだけどな)

ハリーが呑気にそう思っていると、ダドリーは蛇が寝ているのがつまらないらしく、なんとか蛇を起こそうとしていた。

「起こしてよ」

ダドリーは自分の父親であるバーノンにせがむ。おじさんはガラスをトントンと叩いたが、蛇は身じろぎひとつしない。

「もう一回」

ダドリーが命令する。おじさんは、今度は拳でドンドンとガラスを叩いた。だが、蛇は眠り続けている。

「つまんないや」

ダドリーはブウブウ(それこそ豚のように)言いながら行ってしまった。
ハリーはガラスの前にきて、じっと蛇を見つめた。ハリーは蛇に同情した。一日中、ガラスを叩いてちょっかいを出すバカな人間以外に友達もいない……。

(考えてみると私と同じだ……)
「大変だね」

そう誰に呟いたかもわからない言葉を吐くと、突然、蛇はビーズのような目を開け、ゆっくり、とてもゆっくりとかま首をもたげ、ハリーの目線と同じ高さまで持ち上げた。
急にどうしたのだろうとハリーが思っていると、蛇がウインクした。
ハリーは目を見張った。あわてて誰か見ていないかと、周りを見回した。
誰もいない。ハリーは視線を蛇に戻し、ウインクをし返した。が、途端に恥ずかしくなり、顔を赤くしてうつむいた。

(何やってるんだろ……私)

ハリーが顔を上げると、蛇はかま首をバーノンおじさんとダドリーのほうに伸ばし、目を天井に向けた。その様子は、明らかにハリーにこう言っていた。

「いつもこうさ」

「わかるよ」

蛇に聞こえるかどうかわからなかったが、ガラス越しにハリーはそう呟いた。

「毎日こんな調子だとほんとにイライラするでしょう」

蛇は激しくうなずいた。
ふと、ガラスケースの横にある掲示板を見る。
ブラジル産ボア・コンストリクター 大ニシキヘビ
と書いてある。

「ブラジルで生まれたの?いいところ?」

蛇は掲示板を尾でツンツンと突ついた。
この蛇は動物園で生まれました

「そうなんだ……じゃあ、ブラジルに行ったことはないんだね?」

蛇がうなずいた途端、ハリーの後ろで耳をつんざくような大声がした。ハリーも蛇も飛び上がりそうになった。

「ダドリー!ダーズリーおじさん!早くきて蛇を見て。信じられないようなことやってるよ!」

誰かと思って後ろを振り返ると、そこにはピアーズがいた。