しばらくの間、ハリーはリーマスと共に動物を見て回った。(目的はダーズリー一家を探すことなのだが…)
「そういえば、君のいとこ達ってどんな子なんだい?顔も知らないんじゃ探せないからね」
真面目な顔をしてそう尋ねたリーマスにハリーは恥ずかしくなった。
ダドリー達を探すのをすっかり忘れて、リーマスと動物を眺めるのに夢中になっていたからである。
なんとか恥ずかしさを顔に出さないようにして、ハリーはダドリー達の特徴を思い浮かべた。
「えっと、おばさんは馬みたいな顔をしていて、おじさんは赤いカブみたいな顔。ダドリーはおじさんにそっくりの金髪で、ピアーズはネズミみたいに細い顔!」
達成感に溢れた顔をしてそう言いきったハリーは、自分がとても失礼なことを言っていることに気づいていない。
(これは無意識なのか?だとしたら、相当…)
リーマスは笑いをこらえるのに必死だった。
血は争えないものだと実感したリーマスだった。
「あの…?」
返事が無いリーマスを不思議に思ってか、顔を覗き込んできたハリー。
その頭を撫でると、安心したような顔で笑うので、リーマスはこの少女に対する愛情が増していくのを感じた。
「大丈夫、なんでもないよ。ところで、その服はいとこのお下がりかい?」
リーマスは、出会った時から気になっていたことを聞いてみる。
「うん」
最初にあった警戒心がなくなったようで、今ではくだけた話し方になっていた。
(ハリーは女の子だ。それなのに男の子の服を着せてるとなると…。)
ニコニコと笑うハリー。
せめて今この時だけは楽しめるようにしようと決意したリーマスだったが、
「あ…、ダドリー」
話している間にハリーはダドリーを見つけてしまったようだ。
つくづくついていないリーマスだった。
「見つかってよかったね。じゃあ行こうか」
内心の歯痒さを隠しつつダーズリー一家の方へ行こうとするリーマスだが、突然、ハリーが繋いでいた手を離して立ち止まった。
「あっ、あの、大丈夫。もう一人で行ける、から。ありがとう…」
楽しかった。
最初こそ警戒してびくびくしていたが、途中からはありのままの自分でいられた。
人といてこんなに安心したのも、楽しかったのも、ハリーにとっては初めてだった。
だからこそハリーは、この優しい人をダーズリー達に会わせるわけにはいかなかった。
会えばおじさんは必ず彼を不快にさせるだろう。
ハリーはそれだけは絶対に嫌だったので、必死にリーマスに言った。
「本当にありがとう」
笑顔でそう言うハリー。
これ以上は踏み込ませないとでもいうような笑顔だった。
「…わかった。短い間だったけどすごく楽しかったよ。ありがとう」
「私も、楽しかった。…今までで一番」
そう言って俯くハリーの頭を撫でてリーマスは去ろうとする。
「あの!また…、また会えるよね!」
その背中を見て、ハリーは言う。
リーマスは振り返ってにっこりと笑うと、次の瞬間にはもう人ごみに紛れて姿が見えなくなっていた。
ハリーは幸せな気分が少しでも続くよう、ゆっくりとダーズリー達に向かって歩き出した。