「ポッター…?」
私が名前を名乗ると、リーマスさんは驚きの表情を顔に浮かべた。
私の名前変かな…。
「あの…、リーマスさん?」
「!ああ、ごめんね。…そうか、君が」
リーマスさんは急に真剣な顔になったかと思うと、すぐに笑顔を顔に浮かべ私の手を引く。
(手…)
さっきから初めてのことばかり起こっている。
頭を撫でられるのも、笑いかけられるのも、こうして手を繋ぐのも、ハリーにとっては初めてのことだった。
知らない人のはずなのに、どうしてこんなに安心するのだろう。懐かしく思うのだろう。
ハリーには初めての感情でどう表現すればいいのかわからなかった。
「あの、わた
ぐうぅぅぅ…」
「……」
「……」
突然ハリーの腹が鳴った。言葉をかき消すくらい大きな音がでて、ハリーは顔を赤くした。
リーマスさんは少し驚いた顔をしていたけど、すぐに笑ってこう聞いてきた。
「あはは、もしかしてお昼まだなのかい?」
その言葉を聞いてハリーは、そういえば今日はまだ朝にベーコンを少し食べたくらいだったと思い出す。
自覚すると余計にお腹がすいてきてさらにお腹が鳴った。
++++
「うーん、困ったなぁ」
ポツリと呟いた言葉に、彼女…ハリーはびくりと肩を揺らす。
ハリー・ポッター…おそらく、いや絶対にジェームズの子どもだ。僕らの大切なハリー。
たしかリリーの姉のマグルの一家に預けられていたように思うが、どうやらあまりいい暮らしをさせてもらえてないようだ。
くしゃくしゃの髪…はジェームズ譲りなんだろう。セロテープで補強されているメガネ、ぶかぶかの服。華奢と言うにはあまりにも細い体。
何か食べさせてあげたいと思うリーマスだが、
(お金が無いんだよなぁ…)
つくづく自分を不甲斐なく思うリーマスだった。
ふと、昨日買って袋を開けていない板チョコがカバンのポケットに入っていたことを思い出した。お腹にたまるのものではないが、しょうがない。
ゴソゴソとポケットを探るリーマスを不思議に思いながら見つめるハリー。
「はい。こんなものしかないけど」
ごめんね、と言いながら大きな板チョコをくれた。ハリーが戸惑っていると、
「あ、もしかして甘いの苦手だった?」
「違うんです。私、お金持ってませんし、それに…」
「え?お金なんて取らないよ。」
私が勝手に君にあげるだけなんだから。
と言って笑ってくれた。
(優しい人…)
そう思うと自然と言葉が出てきた。
「ありがとう」
そう言って微笑んだハリー。
しかし、言い終わってから自分が敬語を使っていないことに気づいた。
「す、すいません!つい、敬語が抜けて…」
慌てて謝るハリーだったが、リーマスは笑った顔がリリーにそっくりだなぁ。と見当違いなことを思っていた。
「あの…」
反応が無いのでハリーが声をかけると、
「!ああ、大丈夫だよ。それと私には敬語を使わなくていい」
と言われた。
ハリーが渋っていると、
「じゃあ、チョコをあげる代わりに敬語は使わないってことで」
「でも、「いいからいいから」…わかった」
なんとなく、この少女に敬語を使われるとジェームズに使われているみたいでくすぐったいのだ。
食べて食べてと促されるままにチョコを一欠片口に運ぶ。
途端にとろけるような甘さが口に広がる。
しつこすぎない甘さはハリーが今まで食べたことの無いものだった。
「美味しい…!」
顔に満面の笑みを浮かべるハリーは、今までの雰囲気をガラリと変え、キラキラして見えるほどだった。
必死に美味しさを伝えようとするハリーを見て、娘がいたらこんな感じなのかと思うリーマス。
手を繋いでニコニコとしている二人を見て、まわりの人々は仲のいい親子だと微笑ましく思っていたのだった。