11


 自分のことをすっかり忘れてしまった名前に対して不服そうにしていた了さんは、しばらくして名前と話ができるようになると、嬉しそうに口にしていた言葉と姿が頭からずっと離れないでいる。
 いつまで嫌がらせを続けるつもりなんだと、頭が痛いだのなんだの了さんの前に立つことを拒もうとする名前にわざとらしくちょっかいを掛け続けてて、最初こそは自分のことを忘れた腹いせでそうしているんだと思っていた。だから、いい加減にしろよと言った時に了さんはああ言っていたんだ。

 了さんがどうして名前を好きになったのかはわからなかったけど、社交場とかで了さんが女の人と一緒にいる姿を見ていたら、名前が了さんにとって他の人間とは違う特別な枠の中に収められている人なんだということがよくわかる。あの人、寄り付いてくる女に向かって平然と心無い言葉を浴びせられるような人間だから。女に対してだけじゃなく男にだってそうだけど、そのせいで了さんの周りからは人が離れて行く。了さんがそれを自覚しているのかはよくわかんない。ある程度の人間を見繕ってあえてそうやっているのかなとは思うけど、最初から、名前に対してはそうじゃなかった。何を気に入ったのか、一目見ただけで彼女を気に入ったらしい。

 オレが知っている了さんは、気に入ったものにならなんでも金を貢げるような男だった。ソースはオレ。了さんは貧乏人だったオレを気に入ると、どこにでも連れてってくれたし、美味しいご馳走をなんでも食べさせてくれた。高いスーツや腕時計とか、未だにオレが借金しないと買えないレベルのものすら買ってくれた。
 そうするとオレは了さんのことを好印象に捉えて懐いちゃうだろ。けどまぁ懐ききれるわけもなく、この人の性格をこの先のためにも知っておきたいと思った数年前、怒らせてしまいたかったわけじゃないけど、この人はどんなことをしたら怒んのかな?と思い、ある程度の境界を貼っておきたくて、小馬鹿にする意味で子供向けの玩具をプレゼントしてあげたことがある(本当はオレの神経を逆なでしてくるようなことを言ってくれた腹いせだったんだけど)。馬鹿にしてるだろって言葉が飛んでくるかと思いきや、了さんは子供みたいに喜んで遊んでくれて、その性格を見ていたら、この人はちょっと幼稚な性格が抜けきれていないんじゃないかと思った。んで、金があるもんだから、きっと欲しいものをあの手この手を使って自分のものに引き入れようとする。だけど、金があって、お金でなんでも解決できちゃう了さんは、それ以外のことに対しては疎かった。

 了さんは名前のことを、初めて出会った時のオレに対する態度と同じように、消えない金を貢ぎまくって懐かせようとしていたんだとは思うけど、オレと違って名前は簡単に受け入れるようなタイプの人間じゃなかった。何か目的があって意地でもこの人に気に入られようって思っていたオレは喜んで食いつくけど、名前は何も目的もなく、ただ初めて見る業界の重役みたいな人間に怯えていたと言っていた方が正しい。確かに、この人に何か失礼なことをしちゃったら、働いている親の事務所まで飛び火することになり得るかもしれないし。でもそれって、もっと逆に考えれば、あんなに世話を焼こうとしている了さんの善意を拒んでることになるし、そうすると了さんの気に障って余計におかしなことになり得るかもしれない可能性を全く考えてはいなかった。

 自分が欲しいものはなんでも手に入れたがりだと思っていた了さんは、自分の善意が拒まれたら、あっそうって子供みたいに振り払うもんだと思っていた。だけど嫌がる名前を面白がるように、了さんは名前にいろんなものを食べさせようとしたり、なんでも物を与えたがっていた。今思えばこれ、了さんは根がいじめっ子であることを思い出すんだけど。よくよく考えてみたら、それは了さんなりの、不器用すぎるアプローチだ。


 名前とやたら遊びたがる了さんと、嫌がる名前。追いかけ回してる了さんが名前を捕まえることができたのは、意外にも名前が「ショッピングモールのフードコートでご飯を食べるなら」と言い出し時だった。名前あんたそれ、良いもんしか食べてこなかった金持ちに言っちゃうのって、それこそ失礼すぎやしないかと思ったけど、意外にも了さんはそれを受け入れていた。了さんあんた、そんなところに行けちゃうくらい名前と遊びに行きたかったの!?って笑うくらいの出来事だった。
 オレには庶民的過ぎるって、安さを売りにする牛丼チェーン店にすら行ってくれなかったのに。そんでもって、そんなに嫌だったんならなんでそれを受けたんだよって遠慮なしに愚痴を漏らすくらい、了さんが人生初めてのフードコートに行ったその日の夜は、オレを高級レストランに呼んでくれたかと思いきや、腹いっぱい、無理矢理オレが物を食わされた。庶民の食べ物は、どうやら了さんのお口に合わなかったらしい。しかもそれは一度きりの出来事なんかじゃなく、名前の我儘を聞くたびに繰り返されて、間接的にオレがダメージを受ける結果になった。

「名前。 月雲了って、ツクモプロの社長さんのこと、覚えてる?」
「え……? ええっと、最近社長になった人だよね。名前くらいなら覚えてるよ」

 この言葉を彼女に告げたことは、このたった数ヶ月の合間に両手で数えきれないほどあった。了さんのことを忘れてからすぐの名前は、まるで認知症のごとく時間が経てば忘れてしまうを繰り返していて、何度訊ねても彼女の記憶に了さんが記憶されることはなかった。
 そして、名前の中で忘れたものを少しでも刺激して思い出させようとしてしまえば、彼女は「頭が痛い」と零し、その痛みはただの偏頭痛とは比べ物にならないほど酷い痛みを引き起こしてしまっていた。それを知ったのは、名前が了さんを忘れて、初めて了さんに近付けさせた時だった。顔を真っ青にして頭を抑えて蹲る彼女の姿は、ただ事じゃないと近寄ってくる了さんを無理矢理引き剥がしたくらい。了さんはそれに対してめちゃくちゃつまらなそうにしていたし、「今までの仕返しだよ」って気が狂った事を言い出して、意地でも彼女に近付こうとしてたしでもう大変だった。

「了さん! 頼むから、余計なことだけはするなよ!」

 だからオレは言ってやった。「了さんの気持ちはわかるけど……」と了さんの気持ちを尊重しつつも「ええー」と語尾を伸ばして返された了さんの返事に冷や汗が止まらなかった。
 だけど了さんもまともな面を持ち合わせている部分もあったらしく、そんな返事をしながらも、落ち着いた名前の方から姿を晒したり声を掛けたりするまで待ってくれていた。

 けど、3ヶ月も経てば彼女の中には了さんの存在がはっきりと記憶されるようになっていた。了さんに対するトラウマか何かが原因で、最初こそは、その姿を見るだけで頭が痛いと零していた名前は了さんの存在を記憶することへの拒絶反応を見せていたけど、日が経てば彼女にとって月雲了という人間は『自分の父親が経営している会社の親会社の社長さん』という形に変化していき、その時期には了さんを見るだけで頭痛を引き起こすことも落ち着き始めていた。拒絶していた存在が、日常ですれ違う人間と同じようになんともなくなって、知り合いのように記憶に少しずつ残っていく。この時点で名前の記憶は元に戻りかけている……というか、やっとスタート地点に戻ってきたっていう感じだった。そうすると、名前に接することを許された了さんは分かりやすくもご機嫌だった。そして了さんは嬉しそうに口にした。

「すごいなぁ、昔の名前に戻ってくれたみたいだ!」

 了さんは名前のことが好きだったけど、あの時期の名前のことは嫌いだったんだろうな。というのは、その言葉を聞かされてから、真っ新なパズルにピースをはめ込むようにオレは理解していった。昔は彼女に対して嬉しげにする姿を何回も見ていたけど、その時の了さんの姿を見るのは久しぶりだったせいか、今まで以上に嬉しそうに見えてしまった。だから、オレの頭の中からはずっと離れてくれない。

 立場の違いを距離や態度に見せる名前は、確かに2人が初めて知り合った頃と同じだっただろうけど、オレはそこでなんとなく、了さんは名前のそういうところが好きだったのかな?と思った。権力やら金に無心なところ。
 了さんに寄ってくる人間は、少なからずそれを求める気持ちが紛れている。だって、了さんはあのツクモプロダクションの血縁者で、社長の弟だ。軽い挨拶程度ならまだしも、それ以上の態度は紛れもなくそれが混ざりこんでいる。段階を踏むように社長に近付こうとするための練習相手みたいな。中には本当に仲良くなりたい人もいたかもしれないけど。でも、そんなふうに接してきながら、結局はあんたも社長にお近付きになろうとしているんだろ?っていう思考が、嫌でも湧き上がってきてしまうくらい月雲了という男は複雑な立場にいる人間だった。




「どうしよう、百くん……」

 大袈裟に言えば、事務所の所属タレントの個人情報が流出してしまった、と言われてもおかしくないくらい顔面蒼白な名前は、どうしようと震える声でそれだけを零してくれたのは、初めて了さんと知り合って、オレが知らないうちに2人だけで遊んでいるような仲に発展して少し経った頃だった。了さんが名前のことを完全に気に入って、強引に連れ出しているような形だったけど、了さんに対して心を開き掛けている名前の了さんを見る目はちょっとずつ変わっていた。

「りょ、了さんに、僕たち付き合おうよって言われちゃって……」
「え?」

 なんだかその発言にでっかい衝撃を受けた気がする。あの了さんが付き合おうよなんて言ったこともそうだけど、なんでそんなことで「どうしよう」なんて、名前はきょときょと焦るような態度を取っているのか、まるで意味がわからなかった。

「付き合ったらいいじゃんか。了さん、ああ見えて優しい男だよ」
「それは知ってるけど、でも」

 ……いや、あんた、好きなんだろ? 名前が了さんを見る目が変わっているのは端から見てもよくわかった。3人でご飯を食べてる時、名前の視線は常に了さんに向いている。オレと話している時も、傍に了さんが入ればチラチラとその姿を伺っている。完全に意識しきっているのはわかっていたし、好きな人に告白されたんなら嬉しいに決まってる。そのはずなのに、吃驚するくらいそのことに焦っている名前に理解ができなかった。

「私はただのOLだし! 無理だよ、無理無理」
「それは関係ないと思うんだけど……ってことは、断ったってこと?」
「恐れ多いのでごめんなさいって言っちゃって」

 名前って、普通の人間と何ら変わりない人間だと思ったけど、そうじゃないってわかったのは、これがあってからだ。なんて言ったらいいのかわかんないけど、とにかく自分に自信がない。良いように言えば立場の区分ができる人間なんだろうけど、悪く言えば自分の価値を低く見すぎている人間で、名前は最初からずっとそれを気にしてた。

「好きだって言ってくれたら、受け入れられるのに……」
「ん……? なんでそんな展開になってんの? 了さんとなんかあった?」
「えっ……いや、あ、うん」
「なになに!? チョー気になる! 誰にも言わないから教えて!」

 名前の言葉に首を傾げたのは、好きだって言われていないのに付き合おうって流れになったことだ。その言動に何かを察してしまったオレが、ちょっとしたノリで訊ねると名前は物凄くわかりやすく身体をビクッと反応させてくれた。めっちゃわかりやすかった。あの人、名前に何したんだろ。

「やだよ。 ……私って、了さんにどんな目で見られているんだろ」
「あのさ、その話、めちゃくちゃループしそうなんだけど……んで、何があったの? もしかして、なんかされた!?」
「えっ……いやっ……でも、好きでいてもらえないなら、私付き合えないよ」
「極端すぎるでしょ。 付き合おうって言われてんなら、好きだからに決まってんじゃん!」
「でも、言ってくれないから」
「名前が言ったらいいじゃんか」

 名前ってこんなマイナス思考の人間だったっけ。無限にループしていってしまいそうで話を切り替えようとするものの、負のモードに突入した名前は永遠とこの流れを断ち切ってはくれない。時間厳守の世界の中で、時間が迫っている手前でもたもたしている人間に突っかかってしまった時のように、若干の苛立ちを覚えた焦りを抱いた時間みたいだった。でもそれを隠しきれなくて、最後の言葉は投げやりとまではいかないけど、ぽろっと本音を零した。

「……できないよ」

 結局、名前の考えは前向きな方向にも変わってなんてくれなくて、返す言葉はなくなった。

「まぁ、そんなことより、なにされたの? キスでもされちゃった!?」
「えっ!?!?」
「え!?」

 冗談半分で言ってみると、名前の反応は両手で持っていたコップをストンと床に落下させた。大袈裟な反応を見せたまま硬直する態度は、見るからに図星そのものだった。

 ……唇奪われて、付き合おうよって言ってくれたのに、それを断るって……。了さんは傷付いて怒ってるか、泣いてるかのどっちかなんじゃないの。了さんも可哀想だなと、初めて了さんに同情した。



 2人がオレの知らない場所で何を起こしていたのかは知らないけど、そんな2人の運命を左右する日は突然訪れた。
 『話したいことがあるんだけど』とメールに載せてきた名前に、それはてっきり了さんの好意を受け入れましたっていう報告だと思っていた。『なになに、先に教えてよ!』と真っ先にメールを送信したけど、彼女は会って話したいからと、オレの期待させてくれるようなことを返してくる。名前と会う約束をした前日の夜は、サッカーの試合を目前に控えた前日の夜のような気分だった。

「百くん、私さぁ……」

 ごめんね、急に呼び出しちゃってと、笑顔を貼り付けているがやけに元気が無さそうな名前は、喫茶店にオレを呼び出したかと思うと意を決したように口を開いた。ワクワクしていたのもそれまでのことで、彼女の口からは想像もつかない台詞が出てきた。

「−−結婚することになっちゃった」

 ……ん? え? 何言ってんの?
 突然名前に言われたことが理解できなさすぎて、咄嗟に反応することができなかった。ん?『結婚 #とは』っていうSNSの青色ハッシュタグが脳裏に浮かび上がるくらい、意味不明な発言が飛び出てきたんだけど、オレが真っ先に口にできたことはただ一つ。

「誰と? 了さんと?」

 あの人、何を仕出かすかわかんない人だから、付き合うってことからトントン拍子にそんなことになったんだと思った。だって、それしかないでしょ。名前、付き合ってる男いないって言ってたし、そういう相手がいるはずがないのだ。いたとしても、唯一思い浮かぶのは了さん一人だけだった。

「ううん、知らない人と……」
「は!? 知らない人と結婚すんの!? なんでそーなるの!ってやつだよ!」
「百くん、それ、古すぎるから……。 お父さんが……」

 たぶん今めちゃくちゃ面白いやり取りをしたと思うんだけど、名前はクスリとも笑わず浮かれない表情を浮かべていた。お父さんが、と零した瞬間、とてつもなく嫌な予感がした。

「お父さんの会社が、倒産しそうなんだって。従業員のお給料も払えないらしくて、来月は給料支給できないところまで来たみたい……」
「……、銀行とかから金借りたりは?」
「もうやってるって。でもこれ以上は、お金貸してくれないって……」

 名前の家は、芸能事務所をやっていた。うちよりもずっと小さい、こぢんまりとした小さな事務所。ついに経営困難になるような危機を迎えてしまったらしいけど、既に銀行からの借り入れを上限まで済ましていることに驚いた。この間、会社の付き合いでキャバクラに行くって言ってたじゃん、苗字パパ。本当に何考えてんだ、と思うけど、名前のことは責められなかった。

「相手は、どんな人?」
「外資系金融会社の人だって。お父さんの同級生で……お金はあるし、経理の仕事もしてたから、事務所も任せられるし、将来的にも会社的にも安泰だって言われて……」
「っ、そんなんおかしいだろ!? 苗字パパも何考えてんの!? 名前、会社のために売られるようなもんじゃん!? なんで断わんないんだよ!?」

 名前から聞かされる言葉は理解することなんかできなくて、久しぶりに頭に血が上った。テーブルを叩いて立ち上がってしまうくらい、理解しがたい話だった。

「お父さんに泣きつかれちゃったら、断れなくて」
「でもさ!」
「それに、あんな人でも親だから……流石に、倒産して路頭に迷う姿なんて見たくないよ」

 苦笑いを浮かべている名前は、自分自身がこの話を必死に理解しようとしているのが伺えた。だけど、名前が知らない男と突然結婚させられる未来なんて、悪いもんばかりが簡単に想像できる。了さんに対しても、立場が十分に理解できてしまっているような子だ。一生、その身を会社経営を背景に、良いように使われていく未来を考えるのは容易い。でも、名前は自分の幸せよりも家族の状況を取る。そんなの悪いことでしかないのに、名前はそれを理解はできているが拒絶ができないくらい、優しい人間でしかなかった。

 だけど、名前が決めたことならオレが口出しする権利なんてあるはずがなかった。どうせ、何を言っても彼女が心に決めてしまったことや、親に対する気持ちは変わりはしない。
 名前が決めたならいいよ。なんかあったら、オレはできる限りのことはしてやるから。なんか困ったことがあったらさ、話し相手くらいにはなれるよ。

「でも、いいんだ」

 今の状況を納得している名前にそれを告げようとした。だけど、名前は震える指先でグラスを支えながら、ひどく安堵したように囁いた。

「私、やっとこの気持ちから解放されるんだ」

 なんでこの状況の中で、一番言っちゃいけない言葉を吐き出してしまうんだよ。名前は自ら口を割らないでいたけど、相当了さんのことを好きでいるんじゃんか。その言葉は、了さんに向けた彼女が一度たりとも口にしていなかった好意そのものだった。一瞬でそれが了さんに対する言葉だっていうのは簡単に理解できて、泣き出しそうな声でそんな言葉を耳にしたら、放っておくことなんてできなかった。



「了さん、了さんにさ、頼みたいことがあるんだけどっ」

 人間って、窮地に立たされた時に何を仕出かすかわかんない生き物だけど、この時のオレは紛れもなくそれだった。当時のオレには人様の会社の経営を立て直すほどの金どころか、まだ生活をやっていくので手一杯状態。どうすることもできない。そんな中でも名前を救える唯一の方法といったら、金も権力も持ち合わせている了さんしかいなくて、一本綱状態だった。

「名前に金貸してやってほしいんだ!」
「あはは。 何言ってるんだい、モモ」
「オレが何年も掛けて絶対返すから! 名前んちがやってる会社が倒産しそうなんだって!」
「わぁ、すごい! 倒産した話はよく聞くけど、実際しているところはまだ見たことがないんだ」
「頼むよ了さんっ、借金まみれで路頭に迷う名前の家族も、名前も見たくないんだよ!」

 子供みたいに嫌がって泣きじゃくることができない名前の代わりにオレが了さんに泣きついた。了さんが名前に何をしてどんな経緯で付き合おうと言ったのかわかんなかったけど、薄情な言葉を突きつけた了さんは若干機嫌が悪いようにも捉えられて、頭を必死に回転させる。

「モモーー。 それは自業自得だろう? 夢を見て、腹をくくって会社を立ち上げたんだ。世の中はそんなに甘くないっていう現実を見せてあげるチャンスなんじゃない? あっ、名前が路頭に迷ってしまったら、僕が面倒見てあげるから大丈夫だよ」
「その名前が金持ちの野郎に買われそうになってんだよ! 親父の会社支えてやるから名前よこせって!」

 ここで、了さんが諦めもせず名前の話を持ち出してくれたのが唯一の救いだった。この人もはっきりと口にしないけど、名前のことを養うつもりで見ていることがよくわかる。

「……その話は知らなかった。 詳しく聞かせて」

 了さんは直接芸能界に関わってないけど、星影からユキの引き抜きを守ってくれるほどの権力を持ち合わせていた。おそらく名前が無理矢理結婚させられるかもしれない、金と経験しかないような男に比べて、了さんには小さな芸能事務所一つ簡単に守れるような力があった。







「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -