幸福な降伏(23)





「……なんですか、これ」

 大型音楽番組に出演してからというもの、Re:valeは絵に描いたように売れていった。まるで、新星の音楽グループであるかのように、それはすごい勢いで売れていく。ランキング形式のお笑い番組で優勝したお笑い芸人がどんどんいろんな番組に出て売れていくのと同じように、たった1度出演しただけで世間に認められたように売りに出されたのは、Re:valeの実力のせいなのかはわからなかった。それでも少なからず、相方のユキさんは本当に綺麗で格好良い容姿をしているから女性ファンはすぐに張り付いた。モモさんは運動部系の可愛い寄りと評判のようで、容姿も性格も正反対の2人がグループを組んでいるということと、なんと作詞作曲はこのグループが直々に手掛けているというギャップにやられてファンになっていく人が多いのだと、朝のニュースで話題になっていたときにアナウンサーが喋っていたのを耳にした。

 Re:valeが売れていく中で、モモさんと直接会う回数も減っていき、メッセージでのやり取りが多くなる。そのような中でもモモさんはよく了さんの家に遊びに来ているようだから、時間つぶしにと訪れている了さんのご自宅で、モモさんは来ないだろうかと密かな楽しみを抱えたことは了さんにはお見通しだったようで、先日はついに「モモはこれからロケで一週間はこっちにはいないらしいよ」と言われてしまっていた。

 正直がっかりしてしまった。それが顔に出ていたのか、了さんは笑う。それでも了さんの家に遊びに来ることは去年と変わらず週に何度か訪れていて、掃除をしに来ていた今日は、了さんからプレゼントを渡された。別にそういうのを求めているわけではないのだけれど、ラッピングもされていないパッケージが見えるそのままの箱を手渡される。

「ペンライトだよ」
「それは見てわかります」
「モモは、アイドルだからね。 これを持って、テレビの向こうにいるモモに振って、遊んでいなよ」

 了さんは時たまに意味のわからないことを言い出すのだけれど、要約すればモモさんはアイドルだからそれに相応しいものを持って応援していろということでいいのだろうか。こんなもの要りませんとも言えず、それを受け取ってみせた。赤、青、緑、黄色、……1色2色でもなく10色以上使えるこれはなかなかに便利なものだ。ペンライトは1色使い捨てのものしか知らなかったので、こんなものがあるのかと感心して色をころころと変えて遊んでみせれば、了さんはケラケラ笑っていた。

「ねぇ、なまえ。 今度、モモと一緒に、モモの出世祝いに旅行にでも行こうかって話をしていたんだけど、なまえも行く?」

 そんな了さんは突然、モモさんの大舞台デビューのお祝いに旅行にでも行こうかと言い出した。了さんはそういうことを言ったらなにがなんでも実行する人だから、久しぶりにそんなことを言い出した了さんの言葉にビックリしたし、同時に久しぶりの旅行とモモさんも一緒であることに嬉しさを感じた。私は二つ返事で行きたいですと口にする。

 了さんは、私の世話をしてくれるようになってから、私のことをいろんなところに連れていってくれた。一泊二日の弾丸旅行や、丸々一週間を使って、行ったことのなかった北は北海道、南は沖縄まで「行ったことがないです」と口にするとその場所へ連れて行ってくれるから、私は初めて訪れる土地に旅行して観光するのは好きだった。2人分どころか自分の宿泊費や移動費も払えない中で何度も了さんにごめんなさいと口にしたことがあったけれど、了さんは旅行が趣味で、そういう場所に誰かを連れていくことが好きなんだということは、連れて行かれる先々でやたら詳しく現地の説明をしてくれている時にさらっと聞いていた。だから気にしないでという言葉を真に受けつつ、了さんとは出会って1年弱の間にいろんなところに行ったものだ。

「行きたい場所はなまえが決めてくれていいよ」
「わかりました」
「ちなみに、行くのは来週だからね」
「え、来週ですか!? 私、バイトのシフトが入ってるんですけど……」
「休めばいいじゃない」
「そんな簡単に言わないでくださいよ」

 どうして了さんはいつも直前にそんなことを言ってくるのだ。つい数ヶ月前にも直前にそんなことを言われて急にバイトを休んでしまったというのに、またシフトを代わってくれる人を探す羽目になる。了さんってたぶんバイトをした経験がないのだ、だから平然とそんなことが言えるのだ。シフトと、1週間後に迫った旅行先を決めると唐突に訪れた課題に私はため息を吐いてしまった。それを見ていた了さんはわざとらしく「じゃあ、なまえはお留守番だね」と言い出すもので私は肩が竦む。
 それでも結局、旅行に行きたいという気持ちが勝ってしまった私はなんとかしておきますと口にしてしまった。



「もしもし、モモさん? お久しぶりです」
『なまえちゃん、久しぶりー! 元気にしてた? 今、大丈夫?』
「はい。 元気にしてました。今、家に帰ってる途中で……」

 最近モモさんとの話題が尽きてきたということと、一緒に旅行に行くことが決まったということで了さんからの家の帰り道にモモさんへメッセージを送信してみた。『モモさん、了さんから旅行の話を聞きました。よろしくお願いします!』とそれを送信してみせれば、すぐにメッセージではなく電話が掛かってきた。驚きながらスマホを耳にあてがえば、あれから何度もテレビで見て聞いていたというのに、やけに久しぶりに感じるモモさんの声が聞こえてきた。

 どうやらモモさんは先日了さんが言っていたようにロケで地方に赴いているらしく、とっくに仕事を終えたこの時間はホテルの一人部屋で暇な時間を過ごしていたそうだ。楽しくやっているけど、初めて会うスタッフさんを相手に気を遣いすぎちゃって疲れるよなんてことを口にしながら私が家に帰るまでの間、他愛のない話を繰り返した。
 その時、いつ遊びに出かけていたんだと思ってしまうほど、モモさんは了さんと2人で旅行に行ったこともあるという話を聞いた。了さんはやたら仕事で家を空けることが多いなとは思っていたけれど、仕事と言いながらバカンスを楽しんでいたのだろうかと疑問を抱いた。








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