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「吹雪先輩た、たすげてくだ、ざい」

 自身の恋人であり僕の従妹でもある名前に嫌われたと雪村に泣きつかれたのがつい一時間前のこと。さすがにこの状態では部活も出来まいと考え僕の家につれてきて詳しく話を聞けば、どうやら原因は僕にはあるらしい。
 雪村はあまり友達がいる方ではなく普段お喋りをする人が僕か名前くらいしかいない。だから必然的に名前との話題は僕かサッカーのどちらかになってしまう。それで雪村の話題が全て僕のことばかりでそれに名前が腹を立てたというあらましだ。
 正直に言うが痴話喧嘩に僕を巻き込まないでくれ、ただでさえ普段から板挟みなのだから。まあ巻き込まれたからにはどうにかしてやるつもりだけども。

「それで名前さんに、うるせぇホモ野郎どもって言われて、おれ、うう……」

 名前それは言い過ぎじゃないかな。それと僕がホモみたいに言うのはやめろ。
 さてどうしたものかと雪村の頭をなでていると携帯が鳴った。通話ボタンを押して耳に当てれば話題の中心人物である名前からだった。

『今からお兄さん家行っていい?』
「えっと、今はちょっと都合悪いっていうか、その……」
『えー、でもアパートの前まで来ちゃってるし』
「えっ!?」

 勢いよくカーテンを開ければ僕のアパートの前に名前がいて目があった。僕が家にいるとわかり気をよくしたのか上機嫌で階段を上がってくる。
 こんなところを見られてはまたもやホモ扱いされてしまうので雪村には靴と荷物を持ってクローゼットに隠れてもらうことにした。
 まるで浮気現場がばれそうな彼氏の気分だ。苦笑いを浮かべ冷や汗を流しながらも名前を家に入れた。

「これお母さんから。肉じゃが入ってるから」
「あ、ああ。いつもありがとう」

 この際だからと帰ろうとした名前を引き止めて雪村について色々聞くことにした、これで現状が少しでも解消されれば良いのだけど
 名前をソファーに座らせ、単刀直入に雪村と上手くいっているのか尋ねると案の定ばつの悪そうな表情になった。
 一応僕は今日名前と雪村にいざこざがあったことを知らない設定なので名前が自分から喋ってくれるのを待つしかない。
 クローゼットで息を潜めている雪村のことも気にかけつつ名前の言葉を待った。

「……今日ね、豹牙くんにひどいこと言っちゃったの」
「何て言ったの?」

 本当は知っているけど尋ねてみる。名前は良い子だから自分のしたことがどういうことなのかをちゃんと理解し反省しているだろう。

「豹牙くんがあまりにもお兄さんの話しかしないから、ホモ野郎どもって言い逃げしちゃった」
「そっか」

 間接的に僕に対しても悪いことを言っていることに気付いていない様子で雪村に対しての思いの丈を告白し始めた。
 僕がフィフスセクターに解任されて雪村の前から消えたことにより、僕に裏切られたと思い込んだ雪村は僕の従妹である名前も疑い始めたそうだ。
 その誤解が解けるまでほとんどと言って良いくらい会話をすることがなくなっていた
 雷門に負けてからようやく元のカップルに戻ったのは良いのだが、最初こそ良かったのだが如何せん雪村の話題のレパートリーが少ないせいか僕の話題ばかりになってしまいこのような事態に陥ったそうだ。
 うん、名前まで疑ってかかっていたことは初耳だがそんなことはこの際捨て置こう。問題は今だ。

「それで、豹牙くんが楽しそうにお兄さんのこと話すから嫉妬しちゃったの」
「……」
「謝ったら許してくれるかな」
「うん、大丈夫だよ」

 だから早く帰ってほしい、とは口には出せないがこのままだと雪村が感情に任せて飛び出してきそうなんだ。
 今にも泣きそうな名前の頭を撫でてあげていると予想が的中した。なんでこうも嫌な予感というのは当たるんだ。

「名前さん!」
「えっ、豹牙くん!?」

「名前さんの気持ちも考えずにいた俺が悪いんです! だから名前さんは悪くない、責めるなら俺を責めてください!」

 恋人に嫉妬してもらい自分がどれだけ愛されているか分かった雪村がいてもたっても居られずにクローゼットから飛び出してきて勝手に自分の意見を叫んだ。
 居ないと思っていた雪村が突如現れたことと今までの会話を聞かれていたことに驚きふためいていた名前だが、徐々に落ち着きを取り戻し雪村の言葉を受け止める。

「俺は名前さんの笑った顔が好きです。だから、泣かないで下さい。名前さんが笑ってくれるなら俺何でもします」
「豹牙くん……!」

 とりあえず雪村は僕とサッカー以外の話題を持とうね、出かけた言葉を飲み込んで二人を静かに見守った。
 涙を流しながらも笑顔を見せる名前に雪村も安心したように笑みを浮かべた。まあこれにて一件落着。

「……ん? ちょっと待って。何で豹牙くんがここに……?」

「あっ」

 とはいかなかった。雪村が僕の寝室のクローゼットから出てきてしまったから、さながら浮気がばれた彼氏の気分だ。
 雪村はどうして良いか分からず困惑した表情で僕と名前を交互に見やることしかできない、実に困ったことになった。
 わなわなと体を震わせる名前に何とフォローすれば分からず、とりあえず肩に手を乗せようと手を伸ばしたが弾かれてしまう。

「……触らないで。ホモが感染る」
「名前さんホモは感染りませんよ!」
「……雪村、そこじゃないよ」



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