×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

「ねえ聞いて。また浮気しちゃった」

 会社から帰って家で大人しく待っていた名前にそう言えば無言で飛んでくる右ストレート。女の子のものとは思えないほど重い拳が俺の頬に当たって口の中に鉄の味が広がる。
 避けることは可能だったけれどそれをすることは不可能だった。間髪を入れずに右の拳が額に埋め込まれ思わず目を瞑る。それからゆっくりと身体が倒れていく感覚を把握していると床に後頭部を強打した。
 前と後ろのぐわんぐわんと割れるような痛みに耐えながら恐る恐る目を開けば腕を組んだ彼女が仁王立ちをして俺を見下ろしている。道端に転がっている虫の死骸でも見るような視線が突き刺さり俺の心臓が大きく跳ねた。

 他人が聞けば浮気ごときでこの仕打ちは酷いのではないだろうかと思われるかもしれないがこれが彼女の愛情表現なのだ。殴るほどに俺を愛してくれているということなのだから俺にとっては暴力すらも愛する対象だ。
 だから俺は毎日居もしない浮気相手のことを話すんだ。そうすれば居もしない相手に嫉妬して憤慨してまた俺を殴ってくれる。前に一度奥歯が折れたこともあったっけか。
 だいたい、一企業の社長である俺は忙しいに決まっていてその上仕事が終われば直帰している。浮気する時間なんて一秒たりともあるわけがないのに俺の嘘を信じてしまう名前が可愛い。

 大抵気が済むまで俺を殴った後は泣いちゃうんだよね。それで俺が抱きしめて頭を撫でてるうちに泣き疲れて寝ちゃうんだ。それを特注のソファーまで運んで俺が風呂に入っていると途中で起きて作っておいた晩御飯を食卓に並べる。俺が風呂からあがればちょうど夕食になる。
 浮気に関して名前は何も聞いてこないんだ。まあ嘘だから聞かれても答えられるはずがないんだけど、浮気発言を聞いて殴って泣くと気が済んじゃうみたいだ。俺的には嘘だとばれないから好都合なんだけどね。
 今日も風呂から出ればいつもと同じ笑顔の名前が食卓テーブルにいる、はずなのに今日はいない。よくよく見ればソファーで熟睡しきっている、珍しい。
 名前が寝ている隙に何かしたくなったので名前のノートパソコンの履歴を見てみることにした。最近じゃ出会い系で浮気というのがあるらしいけど俺は信じてる。

 ノートパソコンを見られるなんて考えていない名前はロックしていないから楽に立ち上げられた。しめしめと思いつつ履歴を開けば某大型掲示板にファッションサイトやブログなど一般的な主婦の見るものばかりだ。
 しかし検索サイトでの履歴を見た瞬間俺に電撃走る。格闘技入門、素人でもできるカンフー、人体の急所、浮気半殺し、など数十回に渡り検索されておりそれについてのページも開いている。
 とりあえず今まで吐いていた嘘を告白するために緑川に証人を頼もう、もしかしたら俺は近日中に死ぬかもしれません。



戻る