| 目が覚めれば誰も居ない静かな教室で眠っていた。きっと最後の授業が英語だったからいつの間にか眠っていたのだろう、広げられた教科書とノートによだれが垂れていなかったことが唯一の救いだ。 回転していない頭を働かせてゆっくりと顔を上げればオレンジ色の夕日に照らされた教室。私も帰らねば。 「お、眠り姫のお目覚めだ」 私以外にも人が居たようで声のする方を見やれば、隣の席で頬杖を付いて私を見ていたのは吹雪くんだった。私が起きるのを待っていてくれたのだろうか。だとすれば申し訳ない。 起こしてくれればよかったのにと呟けばそんなに時間経ってないからと微笑まれた。 「それに寝顔が可愛かったから」 私は自らの腕を枕にして横を向いて寝る癖があるらしく吹雪くんはそれを見るために隣の席に座っていたようだ。どうりで前の席のはずの吹雪くんが隣に居るわけだ。 いつものように私の前の席に椅子をまたがるようにして座って笑みを浮かべる吹雪くんは、学ランのボタンを開けていて普段プリンスなんて呼ばれている礼儀正しい姿とは打って変わってだらしない。 吹雪くんのそんな姿を見られるのは私だけの特権だ。そそくさと帰り支度を始めた私を吹雪くんはただ見詰めているだけで、それがなんだか急かされているように感じてしまう。だからといって私が手を早めるということは決してしないが。 「さ、帰ろっか」 「名前ちゃん」 立ち上がってスクールカバンを手に取ろうとしたところで吹雪くんに名前を呼ばる。そしてカバンを持とうとしていた手が吹雪くんの手に包まれた。 すっかり帰るつもりだったため唐突なこの行動にどうして良いか分からない。見詰めてみれば良いのだろうか。じっと吹雪くんの目を見詰めてみる。 私が見詰めていることに気づいたのか吹雪くんも私から視線を外さず、ただの男女が手を握り合って見詰め合うという端から見たらバカップルと思われても仕方が無い図が完成したのだが生憎放課後の教室には私たち以外誰も居ないので客観的にこの状況を判断できる人物は居ないのだけれど。 吹雪くんの瞳は綺麗だった。ただ純粋に私を好いてくれている男の子の目だった。逆に私の目は吹雪くんからはどう映っているのだろうか、少し気になってしまった。 「名前ちゃん、好きだよ」 この言葉を聞くのはもう何度目だろう。言われるたびに心臓が跳ねて鼓動が早くなる、それから顔がどんどん熱くなって泣きたくなる。 こんなにも人を好きになれるのはきっともうこの先無いだろう。たとえ結婚相手がこの人でなくても私の心からこの人が消えることは無い。それほどに私は吹雪くんが好きだ。 「私も、好きだよ」 何度言ったか分からない好きを伝えれば吹雪くんの頬がだんだん赤みを帯びてきた。きっと私と同じくらい顔が熱いに違いない。 |