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「お前本気出し過ぎ」
「たかが練習でさ」

 そう言ってチームメイトはフィールドを去っていった。本気で練習しなければ本番でその力を発揮できるわけがない、あいつらはそれをわかっていない。
 仕方ないから俺一人フィールドに残って練習する。監督は結構放任気味で練習に顔を出すことはほとんどない代わりにコーチである吹雪先輩はよく来てくれては色々と教えてくれる。
 吹雪先輩は白恋中の出身で十年ほど前にFFIの選手としても活躍した。謂わば学校の英雄であり俺の憧れだ。
 こうして俺が一人で練習をしていると決まって吹雪先輩か名字先生がやってくる。ほら誰かがフィールドに現れた。

「頑張ってるわね、雪村くん」
「あ、名字先生」

 手を振りながら近づいてくるのは名字先生だった。先生は俺のクラスの担任をしており若くて美人だ、その上話しやすく人望も厚い先生は男女ともに人気がある、もちろん俺もその一人だ。
 俺が一人で練習をしているとふらっと現れてアドバイスをくれる。そのアドバイスがまた的確で前にサッカーに詳しいのか聞いたらサッカー経験者だと言っていた。
 先生にはサッカー部の顧問をやって欲しかったが今のサッカーは腐敗してしまっている。フィフスセクターに支配されている現状では先生も安心して顧問なんてできないだろう。
 それに俺はこうして俺の練習を見に来てくれるだけで良かった。この時間だけは先生を独占出来るからこの一時が愛おしかった。

「やあ雪村。頑張ってるね」
「あ、吹雪先輩」

 名字先生と同じように手を振りながらフィールドに現れたのは吹雪先輩だった。そういえば二人が一緒にいるのは珍しい気がする。

「あー、士郎くんだ。そういえばコーチだったよね」
「名前ちゃんはここの先生なのにグラウンドではあんまり会わないよね」

 何なんだこの状況は、名字先生が吹雪先輩と仲睦まじく会話をしている。二人の年齢は同じくらいだしサッカー好きという共通点もあるので知り合いであってもおかしいことは何一つない。
 校内でも名字先生は笑うがこんな風に照れながら口元を隠して笑っている姿は初めて見る。俺の知らない先生が今俺の目の前にいるんだと思うと妙に悲しさが込み上げてきた。
 怒りに任せてボールを蹴っても二人は俺の存在にも気付いていないように話を続ける。こんなに近いのに、遠い。

「あ、あのっ、!」
「あらら、練習の邪魔しちゃってごめんね」
「そうじゃなくって、ですね……」
「どうしたの? 雪村」
「えっと、その……」

 二人はどんなご関係なんですか、付き合ってるんですか、聞きたいことは沢山あるがのどを通って声にならない。
 聞いてしまったら、答えを知ってしまったら、もしその答えが俺にとって最悪なものだったらどうすればいい。
 ぐるぐると思惑が巡ってしまいまともな思考にたどり着かない。思わず俯いて両手を強く握りしめた、強く握りすぎたのか爪が食い込んで痛い。

「雪村くん大丈夫? 具合悪くなった?」

 二人が俺を心配して覗き込む。大丈夫ですとようやく絞り出した声は掠れていて全然大丈夫じゃなかった。



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