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 昨夜に纏めた荷物を持って家を出れば一面白銀の世界。着込んでいるのにも関わらず早朝の空気は衣類を通りすぎ肌に痛く突き刺さるほど寒かった。真っ白なマフラーの隙間からため息の如く吐き出した空気は白くなり外気に溶け込んだ。
 しっかりと舗装されたアスファルト道路も今は雪が降り積もりその面影すら見えない。僕が歩いて足跡を付ければしんしんと降り続ける雪がそれを消していく。
 トランクを持って歩く雪道は、雪にトランクが取られるせいか登下校の時の数倍も歩きにくい、小さいトランクを選んだのにな。
 大抵の人がまだ寝ているであろう時間に僕はただひたすらに歩き続けた。この町とも今日でお別れだと思うと自然と名残惜しく感じてしまう。

 待ち合わせた時間よりも早く着いてしまった無人駅には僕以外誰も居なかった。券売機で一番高い切符を買って改札に通す。ホームにも誰一人として人は居らず雪がうっすらと積もり、まるで真っ白な絨毯のようだった。
 ベンチに座って待とうかとも思ったけれど生憎ベンチにも絨毯が敷いてあったので仕方なく立っていることにした。
 寒い。ぼんやりと見上げた空は朝だというのに薄暗く、とめどなく雪が舞い降りてくる。
 ふと時計を見やればあと十分もしないで始発が来る、彼女は未だ来ない。
 彼女も荷物を運ぶのに手間取っているのだろうか。そう考えていると自動改札の方から僕のよりいくらか大きいトランクを持った名前が現れた、彼女の手の中には僕と同じ値段の切符が収まっている。

「ごめんね、荷物が雪に取られて」
「ううん、僕も今ついたところ。それより名前冷えてるよ」

 案の定トランクを運ぶのに手間取ったようだ。僕のトランクの横に自分のを置いた名前の手を取って頬に当てれば手袋をしていないせいか冷え切っていた。
 すぐさま手袋を外してもう片方の手も取って僕のを重ねればあったかいねと当たり前のこと口にした。
 名前の手が熱を取り戻したころにホームに軽快なメロディが流れもうすぐ電車が来るのだと知らせた。僕らのしようとしている事を考えるとそのメロディが嫌味に聞こえてくる。
 僕の手袋を彼女に装着させ手と同じように冷えていた頬に触れればくすぐったそうに目を細める。

「ほっぺも冷えてる」
「士郎の手、あったかいね」
「雪が降ってるんだからもっと暖かい格好しないとだめだよ」
「士郎が暖めてくれるからいいの」

 そうでしょ、そう続けた唇に僕のそれを重ねた。ひんやりと冷たいのにとても暖かいキスだった。
 触れるだけのキスをしてお互い白い息を吐き出せば線路の向こうから光が近づいてきた。僕たちが乗る電車が来たのだ。
 ゆっくりと、電車が止まるのを待ってから僕は自分のと、名前が持とうとしたトランクを持って電車に乗った。結構重いんだけど何持ってきたの。
 これに乗ってしまえば僕たちはもうこの町に戻れない。乗った車両には僕たち以外の人間は誰も居なかった、雪の降る日の始発なんてそんなものだろう。
 ぱっと見ただけでは分かりにくい席を選んで座った。僕が寒い窓側で名前は僕の隣に腰を下ろした。
 トランクを滑らないように足元に固定してから帽子を取って一息つく。あとは終点まで過ごすだけだ。
 名前が手袋を片方だけ外して差し出してきたので僕はそれを右手にはめて、お互い手袋をしていない手を絡め合った。
 ゆっくりと動き出した電車の窓から外の景色を見詰める。雪で真っ白な世界だけどこの町の最後の景色をしっかりと脳裏に焼き付ける。

「……私ね、この町が好きだった」
「僕もだよ」
「でも不思議と未練は無いの」

 士郎と一緒だからかな、そう言って彼女は笑った。その笑顔に迷いはなく、僕も名前と一緒ならばどこでも生きていける気がした。否これからは二人だけで生きていくんだ。
 ずっと一緒だよ、僕がそう言葉を紡げば彼女は頬を染めた。お互いの存在を確かめるように握った手の力を強める。

 起きて僕たちが居ないと分かったらみんなどうんな反応するんだろう。見てみたいけどそれは不可能だよね。

 これから僕たちは生まれ育った土地を離れる。一番高い切符を使って知らない土地へ行くんだ。

(君と逃避行)



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