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 私には幼馴染みが二人いる、どちらも男で、一人は見た目が女な男で、もう一人はただの泣き虫だ
 女みたいな男は蘭丸といい、泣き虫のほうは拓人、蘭丸はその見た目に反して豪快でずいぶんと男前だ、そのせいか私には蘭丸のほうが男で拓人のほうが女に見える時がよくある

 拓人はよく泣く、だから泣き虫だと称したのだが、所構わずというわけではなく誰かが見ているところでは絶対に泣かない、泣きそうになってもぐっと堪えている
 そして私の元までやってきてわんわん泣くのだ、ほら、今も泣いてる

「うっ、あ、名前……!」

 嗚咽を繰り返しながら私の肩口を濡らす拓人の背中を無言で撫で続けた
 今日は私が音楽室で一人ピアノを弾いているときにやってきて私に抱きついて泣き出した、音楽室が半防音施設で良かったなんてのんきなことを考えてしまった
 ユニフォーム姿から部活を抜け出してきたことがうかがえる、キャプテンなのに部活を抜け出すのはいただけないが、今はそれどころではない、兎に角拓人を落ち着かせることが最優先事項だ
 ゆっくりと、小刻みに震える背を撫でながらなるべく優しい声色で囁く

「今日はどうしたの、拓人」
「うぐ、……まっ、また、部員がやめ、たんだっ!」


 俺はキャプテン失格だ、涙を堪えるような声でつむがれた言葉に私も涙が出そうになる

「拓人は悪くないよ、辞めていった奴らが不甲斐無いだけ、拓人はちゃんとキャプテンできてるよ」

私は抱きしめる腕の力を強めた、身長は私より高いのに私より小さく感じる

 わしわしと両手で拓人の髪を乱してから拓人の顔を寄せてお互いの額をくっつける
 互いの息がかかるくらい近くなったことにより兎のように真っ赤になった瞳が目に入った
 早く冷やさないと腫れちゃうよ、独り言のように小さく呟けば、別にいい、と返される

「拓人の目、綺麗なのに、腫れたら勿体無いよ」
「名前の目のほうが綺麗だ」
「ありがとう」

 素直にお礼を言って互いの目を見詰め合う、本当に拓人の瞳は純粋で、この美しい瞳から溢れ出る涙もまた綺麗だということを私は知っている
 拓人の綺麗なところを知っているのはこの世でたった一人、私だけで十分だ、一生私以外の前で泣かないでよね
 ちう、と頬に伝う雫を吸い取れば口内には仄かな塩味が広がる、拓人の涙は綺麗なだけじゃなく美味しいのね、もっと飲みたいけどこれ以上拓人が泣くのは嫌だな

「拓人、好きよ」
「名前っ、お、俺も、好きだ」

 睦言を交わし、触れ合っていた額を微かに離しどちらともなく目を瞑り互いの唇を寄せ合わせる

 そして泣き虫な拓人は明日もまた私の元に来るのだろう




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