×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 彼女は器用というだけで世の中を渡り歩いた文字通り器用な人間だった。飽きっぽいという性格もあり学生時代は特定の部活動等には属さず様々な部の助っ人として活躍していた。
 充実しすぎた大学時代を終えてからは飽き性が故にアルバイトを転々としているフリーター、その器用さから社員にならないかと言われているほどの立場にいる。
 金銭面においては株でちょちょいと儲けており、働かなくても十二分に遊んで暮らせる程の財産は有している。ちなみに毎月少しばかり実家に仕送りしているようだ。
 好きなものは年の離れた弟とボーダー柄、トレードマークの猫耳帽子も普段着ている服もほとんどがボーダーで染まっている。そんな彼女は心を許した人にしか懐かず彼女を知る者はまさに猫の様だと語る。
 池袋を拠点として活動しており猫耳帽子とその性格が相まって彼女には「ボーダーキャット」という通り名が付いていた。

 俺が知りうる彼女の情報を簡潔に述べるとそれくらいだね。どんな情報網を使っても全然集まらないんだよ。本当に不思議な人間だよね、松野名前は。

「臨也くんのどや顔きもーい」
「俺って一応君より年上なんだけどなあ」
「きんもー」

 なぜ松野名前と喫茶店でコーヒーとカプチーノを啜っているのかと言うと彼女の依頼の定期報告のためだ。内容は彼女の弟の素行調査。普段の生活状況や部活動の様子、もっと言えば彼女などが出来ていないかなども含まれる。
 ストーカーかよと溜め息を吐きたくなるのを、我慢せず盛大に溜め息を吐いてやる、やれやれと両手を上げる仕草付きで。

「うざやくん早く報告して」
「はいはい。これがここ1ヶ月の弟君の様子だよ」
「ふむふむ……これならばいつもより色を付けてお支払いましょう」

 いつもより枚数の多い写真やDVDがお気に召したようでレポートを読みながらにんまりと目を細めた。黙っていれば美人なのに本当に勿体無い。
 というかそういうのは探偵に頼めばいいじゃないかと言えば、探偵よりあんたの方が事細かいからと返された。いや、情報集めは俺がやってるわけではないんだけどね。

「弟君が知ったらどうなっちゃうんだろうね」
「ああ、それなら特に問題はないよ。空介もあたし大好きだからね」

 実際彼女の弟君は一日最低一回以上姉自慢をしているシスコンであることは、前に一度だけ読んだ調査報告書で知っていた。つまりは歪んだ愛情を持った姉弟なのだろう。
 そんな奴身近にいた気がする。といっても奴らは一方通行だから余計たちが悪いけど。

「君さ、弟と結婚するとか言い出しそうだよね」
「は? 結婚相手くらいちゃんといるし。うざやくんって馬鹿なの? 死ぬの?」
「凄くむかつくね君は」

 へえ意外だな、彼女との付き合いはそこそこ長いがそんなことを聞いたのは初耳だ。この重症ブラコン女に恋人がいたなんて、捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことかな。
 こんな奴を好きになる男なんてろくな人間じゃなさそうだけど、そういう奴らがいるからこそ人間は面白い。

「意外だな。差し支えなければ聞いてもいいかい?」
「それくらい自分で調べなよ。情報屋なんでしょ?」

 それだけ言うと彼女は先ほど渡した荷物をカバンに詰め、入れ替えるように現金の詰まった封筒を差し出した。

 彼女は実に興味深い。



戻る