「ねえ、何で俺以外の人と喋るの……?」 一人暮らしのアパートに戻れば部屋の真ん中にヒロトが立っていて冒頭の台詞を吐いた 恋仲にあるヒロトには元々この部屋の合鍵を渡してあるからヒロトが勝手に部屋に居るのは今更のことだ だけれど、今日はいつもと違う、ヒロトの目が死んでいる、正確には光を宿しておらずただひたすらに私だけを見据えている 私はスクールバッグを放り投げてヒロトの元へと駆け寄る、刹那、ヒロトの腕の中に閉じ込められる、抱きしめられているのだ 私は何も喋らない、それに痺れを切らしたのか腕の力を強めて冒頭の台詞をもう一度呟いた 「どうして俺以外の人間と喋るの……?」 「ヒロト、苦しいよ」 「ねえ何で!?」 耳元で大声を出されて鼓膜が痛かったが今はそんなこと考えている場合じゃない、ヒロトがおかしい、いつものヒロトじゃない 「ヒロト、」 「名前は僕以外の人と喋っちゃダメなんだ! 僕以外の人間を見ちゃダメだよ! 僕だけを見てればいいのに、それなのに何で……?」 やばい、この子病んでる、このままではヒロトに殺されかねない、やばいやばい、殺されてしまっては本末転倒だ 私はヒロトの背中に手を回してしっかりと抱きしめ返す、もう一生離れないようきつく、きつく そうすればヒロトは驚いたように私の顔を覗き込んだので私はヒロトの両目を見詰めて口を開く 「っ、名前……?」 「ヒロト、私うれしいよ、ヒロトが私をしっかりと見ていてくれて」 「名前……! やっと僕の思いが通じたんだね」 「でもねヒロト」 「っ!」 うっすらと開かれたヒロトの唇を私のそれで塞ぎ舌を捻じ込む、深く、より深く、もちろん病んでしまうくらい私のことが大好きなヒロトは私を拒むことなく積極的に舌を絡ませてくる 私と想いが通じ合っていると思っているのか見る見るうちにヒロトの瞳には光が戻っていく、ああ、安心しきっちゃって可愛いなぁ 「んはっ、名前、好きだよ」 「私も好きよ、だけどねヒロト」 「なんだい?」 「あなたは私以外の人と喋っちゃいけないのに、ましては告白なんて、されちゃいけないのよ?」 「名前……?」 「もう限界なの」 ポケットからハンカチを取り出して唾液の垂れるヒロトの口と鼻を押さえ込む、すうっとヒロトの力が抜けて私に寄りかかるように眠りについた 「これでヒロトは私のものね」 ああ、私今幸せよ、だって帰ってきたらヒロトが首輪を付けて待っていてくれるんだもの 「ヒロトただいま」 「あっ、はぁっ、名前! いれたい、早く挿れたいよぉ!」 (果たしてどちらが本当に病んでるのか?) |