彼が風丸しか見ていないことは知っていた、知っている上での恋だった 「あ、名前さん、こんにちは」 そう、宮坂は弱々しく笑ってみせた、それが辛くて、何で風丸なの? とか、いない人のことなんて考えないでよ、とかいろいろ考えてしまう 彼とは陸上部の後輩である宮坂のこと、彼は、宮坂は陸上部からサッカー部に転部した風丸のことを今でも慕っている、否、いまだに引きずっている、といったほうが的確だろう 彼も私も、ほかの部員も戦国伊賀島中とのサッカーの試合を見て風丸の覚悟を知った、もう、陸上には戻らないと理解した それだというのに宮坂は未だに風丸を引きずっている、最初はさながら恋する乙女のように、それがだんだん悪化していってしまい、仕舞には病んでしまった 一番に慕っていたのだから無理もないだろうが、日に日に病んでいく彼を見るのはあまりにも辛いものがある 好きなのに、それなのに伝わらない、報われない、それがどんなに辛いか私は知っているからこそ宮坂の苦痛が、その笑みから伝わってくるようだった だからこうして部室で鉢合わせしても彼は貼り付けたような笑みしか見せない、それも見る人誰もが心配するような、そんな悲しい笑顔 「宮坂……」 「どうしたんですか名前さん……、あ、もしかしてもう休憩終わりですか?」 今行きますね、とまた笑う宮坂があまりにも痛々しくて思わず彼を抱きしめた 抱きしめた彼の体は女の私よりも細いんじゃないかと思うほどやせていて、風丸がいたときはもうちょっとしっかりしていたのに もうあの時みたいな可愛い笑顔は見れないのだと思うと無性に虚しい 宮坂も私の胸にすがり付いて、私のユニフォームを握って離さない 抱きしめる力を強めて宮坂の頭を撫でてやれば胸元がじわりと湿っていくのがわかった、宮坂が泣いているのだ 「名前さ、っ……!」 「っ、宮坂……!」 「うぅっ、うあああっ」 「泣いていいよ、今は、泣きなさい……っ、」 彼をこんなにしてしまったのも、私に不毛な恋をさせたのも、全部全部風丸のせいだ、なんて何もできない自分を正当化してみてもどうにもなるわけでもなく、二人でただ、泣いていた (彼に罰が下ればいいのに) |