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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「おっ、何してんだ?」

 彼は合宿所の私の部屋に入ってくるなり私の所行を見て真っ先にそう言った
 私と彼の関係性は部活動の選抜合宿に参加しているマネージャーと選手、ただそれだけの関係であったが三年生であるのが私と彼の二人しかいないという事実からか何とも言い得ぬ信頼関係を結んでしまったのである
 なので彼がこうして私の部屋にノックもなしに入ってくるなど日常茶飯事になっているのだ、私としてはいい迷惑だ、この間など着替えのさなかに入ってこられたものだから思わず彼の頭を回し蹴ってしまったことがある
 まあその時は彼の自業自得ということでその場を言いくるめて事なきを得た、何が言いたいのかというと彼と私との関係はこの程度なのだ
 私が「勉強をしているのよ」と漏らせば彼は眉間にしわを寄せた、彼は喧嘩っ早いが私の前ではその性格を露わにすることがほとんどないのでこの表情は私には貴重な一面である

「そんなことよりお喋りしようぜ!」この男、誠に暢気である

 紛いなりにも我々は受験生という肩書きを負っている身、今回の闘いが終わりを告げれば本格的な受験戦争が始まるのだ
 堂々と私のベッドに座る彼を見上げれば自分が受験生であることを忘れているのか飄々たる態度だ、自覚がないというのは恐ろしい限りである

「受験生でしょ、少しは自覚しなさい」
「ここしばらく勉強なんてしてねぇや」

 ベッドから降りた彼はテーブルの横に腰を据え、私の手元を覗いたのちに頭を一つ掻いてため息を漏らした

「全然わかんねぇ……」彼は無類の阿呆である

 私が行っているのは平均的な中学三年生用の数学テキストであるにも関わらず、彼は過去に解いてきたであろう問題たちを見て首を傾げたのだ、これを阿呆と言わずに何と言う
 しかしながら、彼の素行を見ていれば勉学に励もうという素振りがまったくの皆無であると誰もが理解できるだろう
 今思えば合宿に参加している中学生で勉学に励む姿を見ていないのは彼だけなのだ、以前に皆で大々的な勉強会を開いたのだがその際も彼は一人で遊び呆けていた
 さらに追い討ちをかけるとするならば彼と私以外の中学生は後輩に当たると言うのに彼らは、彼に勉強を教えてもらうという行為をしないのだ
 これは私の勝手な推測であるが、彼は勉学において誰からも信頼されていないのではなかろうか、さすがに直接本人には言えぬことだが
 私は彼に憐れみの視線を送ると共に鞄からホチキスで纏められた紙の束を取り出した、当然彼は頭に疑問符を浮かべる

「何だそれ」と彼は再び首を傾げる
「私お手製のテキストよ」

 基礎の基礎から応用までを難易度を徐々に上げているから彼の可哀想な頭でも解けるだろう、彼の将来を思いこしらえたのだ
 彼を見やれば嫌いな人参を眼前にしたときと同じく苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている
 こうして彼に施しをするのは彼の将来を心配しているのもあるが、少なからず彼に好意を持っているからだろう

「えっ、俺のために作ってくれたのか?」

 私は嫣然たる笑みを浮かべ彼に紙の束を差し出した

「私なりの愛よ」
「んじゃ、有り難く貰っとくかな」彼は言った



合宿における勉強のすゝめ




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