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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

 これの続き




「今日から二日間よろしくお願いします」

 職場体験として士郎くんが二日間ワグナリアで給仕をするらしい。目の前の士郎くんはにこにこと笑みを浮かべており私としては嬉しいような苦労しそうな複雑な心境。
 でもまあ、以前になずなちゃんが職場体験に来ているから従業員もフォローしてくれるだろうから大丈夫だろう。とりあえずまひるちゃんがシフト入っていなくて良かった。
 杏子さんの横に立つ士郎くんが挨拶をすればぽぷらちゃんたちがちょっとした盛り上がりを見せた。

「じゃ、吹雪の担当は名字な」
「はーい」
「お前ら、仕事なんだからくれぐれもいちゃつくなよ」
「わかってますよー」

 ここは社内恋愛禁止だからと事前に士郎くんには話しているのでたぶん大丈夫だろう。たぶん。
 とりあえず挨拶は終わって通常通り業務が始まった。みんなが士郎くんに頑張れと声を掛けながら散っていく。私は士郎くんに仕事内容を教えるべくまず店内を案内する。
 まだ開店前なので客席まで行って接客の方法をレクチャーしてバックヤードでの皿拭きなど雑用の仕方など、士郎くんは覚えが早く一時間くらいで説明が終わった。

「士郎くん飲み込みが早いからホールの大体のことは説明し終わっちゃった」
「名前さんの教え方が上手いからだよ」

 あとは実践あるのみだね、と言ったところで背後から誰かに抱きつかれた。誰か確認したら案の定葵ちゃんだった。
 首を傾げる士郎くんに葵ちゃんのことを説明すれば納得はしてくれたけどどこか不満そうな顔をしている。

「山田さん、名前さんは僕のだから離れてよ」
「嫌です。名前さんは山田のお姉さんなんです」

 どういうわけか私は葵ちゃん一家のお姉さんになっているのだ。そして完全に私の取り扱いをし始めてしまった二人を止めたのは佐藤さんだった。

「仕事しろ。それに名字が困ってるだろ」

 佐藤さんが二人の頭を軽く小突いたことにより私は解放され、葵ちゃんはしぶしぶ皿洗いを始め、士郎くんは私と共に接客へと戻った。



「今日一日ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

 夕方、士郎くんは特にこれといったミスもなく無事職場体験一日目を終えることができた。店は夜まであるけれど士郎くんはここまで、みんなに挨拶をして帰り支度を始める。
 私も士郎くん担当だったので同じ時間にシフトが終わり挨拶をして帰り支度を始めた。休憩室では士郎くんがもうすでに帰り支度を終えていた、は、早い。

「あう、私も帰る準備するから待ってて」
「うん」

 私が手早く帰り支度を済ませれば笑顔で手を握ってくれた士郎くんだけど、その笑みには少しばかり疲れが見えている。
 やっぱり慣れないことをやるのは余計な神経を使うし疲れるよね。体験といっても社会人の端くれみたいなものだし。
 とりあえず外にでてから士郎くんの頭を撫でてやる。お疲れさま、そう言ってあげると気持ちよさそうに目をつむったのが何だか小動物みたいで可愛かった。

「名前さん名前さん、今日僕頑張ったからご褒美ちょうだい」
「んー。何が欲しい?」
「……キス、してほしいな」
「ふふ。いいよ」

 赤くなる士郎くんの頬に手を添えて優しく触れるだけのキスをしてあげる。唇を離せばありがとうと今度は士郎くんからキスをしてくれた。私の疲れもどこかへ行ってしまったようだ。
 何だか幸せだなぁ、と幸福に浸りつつも職場体験はあと一日あるから明日も頑張ってね、と微笑む。頑張ってねというか。

「死なないでね」
「……へ?」

 士郎くんなら大丈夫だと思うけど、さっき帰り際にシフト表見たら明日まひるちゃんもシフト入ってたからさ。



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