「秀は黙ってればモテると思うよ」 「なにそれ」 ぼそりとつぶやいた私に、秀は読んでいた雑誌から手を離した 私と秀はいわゆる幼馴染みという奴で、今日はただなんとなく秀の家に遊びに来ていた 秀は雑誌を読んでいて、私は秀の布団の上で携帯をいじっていたときのこと ふと思ったのだ、秀は学校ではうるさいけど家にいるときのように黙っていれば普通にかっこいいのではないだろうか それで冒頭の台詞を言ったらおかしなものを見るような目で見られた 「だって秀、いつも彼女ほしいってほざいてるでしょ」 「ほざっ……まあ欲しいって言ってたときもあったけど」 「言ってたとき……?」 そういえば最近秀の口から彼女欲しいって聞いたことがない、もう諦めたのだろうか まあ粘土で作ろうとしていたほど恋人作りに執着していた秀に限ってそれはないだろうけど、一応聞いてみる 「そういえば最近彼女欲しいって言ってないよね」 「うん、だってもう彼女いるし」 「えっ、紙? 油? 樹脂? 木粉? まさか石粉!?」 「いや、粘土じゃねーし! っていうか粘土の種類詳しすぎじゃね!?」 秀に彼女がいると聞いて私は真っ先に粘土が頭をよぎった、いくら彼女が欲しいからって粘土はあかんよ、秀 そう思っていたら彼女さんは粘土じゃないらしい 粘土じゃない彼女って人間ってこと……? 思わず握っていた携帯を逆パカするところだった それだけ衝撃だったのだ、秀に彼女が出来たということが、どんな子だろう、私や秀と一緒で片桐に通っているのかな、今度紹介してもらわないと 「ねえ秀、その彼女って私も知ってる人?」 「えっ、何言ってるの、俺の彼女は名前しかいないしょ」 「は?……はあ!?」 しれっと私を指差す秀を殴ってやろうかと思ったけど私の理性がそれを止めさせた なんと秀の彼女は私だったらしいです、私は秀に告白をした覚えがないし、同様に秀から告白された覚えもない ということはこいつが勝手に脳内で私を彼女にしてしまったということになる、彼女欲しさにとうとう頭が壊れたか こいつの頭は大丈夫なのだろうか、という意味もこめた哀れんだ目を向ければ秀は目を見開いた 「なに、その哀れんだ目は」 「……可哀想な子、主に頭が」 「ちょっと何それ!」 「っていうか告白してもされてもないのに、なんで私が彼女になってるのよ!」 「いいじゃんそれくらい!」 「よくない!」 病院行ってこい脳神経外科、そういえば秀は立ち上がって布団にうつぶせになっている私のうえに仁王立ちした 私も立ち上がろうとしたが秀が邪魔だったので仰向けにしかならなかった それから秀は私の上に馬乗りになって私の両手首を掴む、ってちょっとなにこれ 「ちょっと秀、何して……んっ!?」 何してんのよ、そういおうとした口は秀のそれで塞がれてしまいそれ以上何もいえなくなった 私が秀にされているのはいわゆるキスというやつで、反射的に目を瞑ってしまった 私自体キスをするのは初めてではなかったしたぶん秀もそうだろう、どちらともなく口を開いて舌を絡め合う 卑猥な水音がお互いの耳を侵してしばらくしてから秀の唇が離れる、ちょっと寂しかった 「名前、好きだ」 「……卑怯よ、そんなの私が否定出来るわけないじゃない」 ただ、今まで付き合ってきた男たちよりも秀の方がキスが上手かったことが若干むかつく こうして私たちはなんやかんやで恋人同士になっていた |