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 今日は客が少ないな、と店長がいつものようにパフェを食べながら呟いた。確かに今日は平日だからが客入りが悪い。
 その割には外が騒がしい。ちらりと外を見やれば人だかりが出来ていて、伊波さんがその中心にいる何かを発見した。

「ねえあれって吹雪士郎くんじゃない? FFIで日本代表だった」
「えっ。あ、ほんとだ!」
「あー確かに、テレビで観たことありますね」

 一緒になって覗き見れば確かにテレビで見た吹雪士郎が人だかりの中心にいた。サッカー日本代表で北海道から唯一選ばれた選手、謂わば北海道のスターみたいなものだ。
 どうやらほとんどの人がサッカーを観ていたらしい。かくいう俺の家でも盛り上がっていた。個人的には木暮くんがお気に入りだ、小さいから。
 というか伊波さんは男の人苦手なのにサッカーとか観てたんだ。意外ですねと少し皮肉って言えばテレビの中は平気なのと相変わらずの距離で答えられた。
 吹雪くんはテレビでもイケメンと言っていた程だから人だかりが出来るのも頷ける。人だかりから逃げるように店に入ってきた吹雪くんに、私が行きますと先輩が走っていったのを見送る。
 吹雪くんにつられて入ってきた女性客を案内するべく出て行った伊波さんと入れ替わるように戻ってきた先輩が何やら落ち込んでいた。

「ううっ」
「どうしたんですか?」
「吹雪くん私より大きかった」

 そりゃあ中学生より小さかったらショックだよな、と思いつつもへこんでいる先輩も可愛いのでよしとした。
 ふとシフト表を見て名字さんがまだ来ていないことに気付く。名字さんはバイトの先輩で学年も俺の一つ上だ。時間にきっちりしているわけではないがシフト時間の五分前には来ているので遅れるなんて珍しい。
 そういえばそうだな、と店長は呑気にニ杯目のパフェを食べ始めた。よく食うよ。
 ぴんぽーん。吹雪くんと女性客からの呼び出し音に伊波さんには女性客を、俺は吹雪くんのところへ急いだ。

「お待たせ致しました」
「えっと、オレンジジュースを一つ」
「オレンジジュースひとつでよろしいですか?」
「はい。……あの、名前さんってここでバイトしてますよね?」
「そうですけど……」
「今いますか?」
「今は生憎、あと少しすれば来ると思います」

 来たら知らせてください。そう言われ頷いてからバックヤードへ戻って注文を伝える。ジュースくらいならすぐ出来るだろう。
 みんなに吹雪くんどうだったと何ともミーハーっぽいことを聞かれたので素直に名字さんを待ってるみたいですと言えば先輩たちは騒ぎ始めた。
 仕舞いには恋人ではないかと騒ぎ出す始末。名字さんからそんな話を聞いたことがなかったから俺もちょっと気になってしまった。
 佐藤さんたちは調理、店長は飲食、先輩たちは恋バナとバックヤードが盛り上がっているとタイミング良く名字さんが入ってきた。

「すみません遅れました!」
「別に構わんぞ。っていうか名字、今日シフト入んなくてもいいわ」
「えっ……?」
「客入りも悪いし人数は足りてるから」
「あうー、そうですか」

 店長の言葉に目に見えて落ち込んだ名字さんはまだ私服姿で相当急いでいたのだと思った。そんな名字さんに先輩たちが詰め寄る。

「ねえねえ、名前ちゃんってあの吹雪士郎くんと知り合いなの!?」
「えっと、まあ一応……。でも何で士郎くんの話?」
「今吹雪くんが店内にいるんですよ。しかも名字さんいますかって……」
「うそっ!?」

 バックヤードから客席を覗き込んだ名字さんは窓際でぼうっと窓の外を見ている吹雪くんを発見して肩を揺らした。
 何でいるの、言った覚えないのに、と訳の分からないことを呟く名字さんに吹雪くんに出すジュースを差し出した店長が一言。

「行け」
「は、はい」

 それ吹雪くんの注文したやつです、と俺が言えばわかったと緊張した面持ちでバックヤードから出て行った。それを先輩たちと一緒になって見守る。
 早速名字さんを発見した吹雪くんは勢いよく立ち上がり尻尾を振った犬のごとく名字さんに抱きついた。まさかやっぱりそういう関係だったのか。
 片手にジュースを持ちながらバランス良く吹雪くんを抱き留めた名字さんは先ほどまで吹雪くんのいた場所に一緒に座って何やら話し始めた。
 吹雪くんが何かを言った途端に名字さんが顔を赤くする。先輩たちがきゃーきゃー小さく盛り上がっている。

「やっぱりあれは付き合ってるよ!」

 あ、キスした。



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