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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

「え、何なの……?」

 名字名前は戸惑った、なぜならば両隣を六年い組の立花仙蔵と四年い組の綾部喜八郎が占領していて、さらには両腕を抱えられているからである
 午前中しかなかった授業も終わりを告げ、午後は有意義に部屋で静かに本でも読もうと図書室で医学書を借りてきた
 それから自室でゆっくりと読書をしていると仙蔵が静かに入ってきて名前の右に座り腕を絡めた
 仙蔵は何も言わずただ腕を絡めて座っているだけなので、名前も特に気にはとめずに読書を続けた
 しばらくすると今度は喜八郎が、これまた静かに入ってきて名前の左に座り腕を絡めてきたのだ
 そして現在に至るわけだが、名前は両腕を塞がれて読書ができない状態である

「ねえ、何してんの……?」
「名前先輩が好きです」
「いや喜八郎、それ答えになってないから」
「そうだぞ喜八郎、名前を愛してるのは私だ」
「仙蔵も何言ってんの」

 二人が自分に好意を寄せていることよりも質問の答えが返ってこない方に怒りを感じ始める
 いつの間にか自分を挟んで口論を始めた二人を見やり、はあ、とため息を漏らせば、お前のせいで名前が、など口論が激しさを増す一方
 何だか飼い主を取り合う犬を見ているようでいつの間にか怒りはどこかに消えていた
 まあこの二人の場合は犬というより猫だな、などと悠長に考え始めてしまってすらいる始末
 それでも読書の邪魔には変わりないので二人には出て行って欲しかったりする

「あのさ、読書の邪魔なんだけど」
「だそうだ喜八郎、さっさと出ていけ」
「それは立花先輩の方です」
「何を言うか、私の方が先にここにいたんだぞ」
「順番なんて関係ないですよ」
「いいやある」
「いやどっちもなんだけど……」

 こいつらうざいなー、ヒートアップしていく口論を受け流しつつこういう状態をなんて言うんだっけ、と悠長に考えていた
 板挟み……合ってるけどちょっと違う、浮気がバレた夫……はもっと違うし
 右の仙蔵を見やり、左の喜八郎を見やる、そして読みかけの医学書を見つめる、ああ、そうだ思い出した

「両手に花」

「お、何だ名前、私を口説いているのか」
「名前先輩が口説いているのは私です」
「いや、違うんだけど……」
「そうだ名前、私を花に例えてくれ」
「あ、ぼくも!」
「喜八郎、私の真似をするな!」

 こいつらめんどくさい、名前が何かを喋ればそれが口論の原因になる、本当にめんどくさい奴らだ
 二人を花に例えるのは思ったより難しくない、名前は五月蝿い口論を遮るように口を開く
 そして結論を一言呟く

「鈴蘭」

「鈴蘭か、さすが名前だな、しかし私の場合は薔薇とか百合ではないか?」
「ぼくは鈴蘭でいいです、名前先輩が言うなら……でもなんで鈴蘭なんですか?」

「お前ら鈴蘭じゃん」


可愛い鈴蘭には毒がある




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