「はーまーだー!」 「うげ、お前かよ……」 わざわざ一年生の教室まで会いに来てやったのに当の本人は私の顔を見るなり眉間にシワを寄せやがった。 「うげとは何よ。可愛い先輩に向かって!」 「スミマセンデシタ。カワイイセンパイ」 「うわっ! コイツ可愛くねー」 「可愛くなくて結構です! てか同い年だろー!」 「そうだねー、“留年した”浜田良郎くーん!……て、あれ? そう言えば、いないの?」 「何が?」 「野球部の子たち」 浜田が電話で楽しそうに話してたからどんな子なのか気になってたんだよね。今日来たのはそれもあるんだ。 「あぁ、今購買行ってる」 「そうなんだー」 何だー、つまんないのー。 確か野球部には私の中学の時の後輩にあたる(今でもそうだけど)泉がいたはず。 「そういや泉ちゃん元気してる?」 「あー、してるしてる……俺のことを先輩とも思わねえ態度だかなっ!」 浜田がふてくされたように紙パックのジュースを飲み干す。 しょうがないじゃん同じクラスなんだからさ、って笑ったら、んだよー、と紙パックを握り潰した。 そしたらまた、「泉があーだこーだ」とか「三橋がさー」とか楽しそうに話してくる。 それはそれはもう楽しそうに。 「凄く、楽しそうだね…」 「おう! めっちゃ楽しいぜ!!」 何か悔しい。 あと、ほんのちょっとだけど浜田がムカつく。 「……何か、悔しい」 「……は?」 「だってさ、私と一緒だった一年間が泉たちに取られてる気がして……」 だって今年入ってから浜田、泉たちとばっかいるんだもん。 留年したってのもあるんだろうけど、私との差がどんどん広がっていく気がする。どんどん溝が大きくなってく。 去年は毎日のように一緒にいて、一緒に笑って、一緒に。 ダメだ、考えれば考えるほど悔しくて、悲しくて、涙がでそう。 「何言ってんだよ。……そんな泣きそうな顔で」 「だって、私の知ってる浜田が、違う浜田になってく……」 「俺は俺だって。変わってねーよ?」 「違う。私の知ってる浜田が私の知らない浜田になってくのがイヤなの」 抑えきれない涙がポロポロと零れていく。 ついでに浜田への日頃の鬱憤も一緒に出てきた。 「浜田のバカ、おたんこなす、糞野郎ぉ、チンカス……」 「女がそんな言葉使うなよ。てかお前なぁ……うーん。んー……あーもー!」 「……っ!?」 頭をガシガシとかいて唸ってたと思ったら、いきなり叫んで私の両手を掴んできた。 「な、なにっ!?」 「俺だってなぁ! お前と一緒に進級したかったよ! 名字と笑い合ってた日が何より大切だった!」 「ちょっと、大きな声出さないでよ!」 周りの人たちが見てるでしょーがっ! 修羅場かな? とか言ってる人! 修羅場じゃないからねっ! 「それに、俺は名字のことがっ……」 「私が何よ!」 早く終わらせてしまいたい一心で浜田の顔を見つめる。 心なしか、浜田の顔が赤い。 「俺は、名字が好きだぁっ!」 「……はぁぁぁ!?」 「もうかれこれ三年も片想いだ! しかも留年してお前と同じ学年になれなかった! 自分が情けない! 自分がムカつく!」 「浜田……」 雰囲気に飲まれそうになったが私はハッとする。ここは教室だった。 そして今までの一連を思い出すと私の顔が赤くなるのがわかる。 浜 田 に 告 ら れ た。 「名字、顔赤い……」 「え、ちょ、訳わかんない、何で、告、え、浜田が、私に、待って、え、え、えぇぇっ!?」 頭がパンクしそう。 浜田が大丈夫か、と心配そうに覗き込んで来るもんだから更に顔が赤くなる。 恥ずかしさのあまり浜田の顔面に拳を入れてしまった。 「な、なにかんがえてんのよ!」 「いってー! なにすんだよぉ! 女子がグーでなぐんなよな!」 「は、はず、恥ずかしいのよ! こんな場所で!」 一瞬緩まったと思った腕もすぐにキツくなる。離せ、と浜田を引き離そうとしても離れない。 寧ろ益々キツく抱きしめられる。苦しいかも。 「はまだ、はなしてよ……」 「返事聞くまでぜってー離さねー!」 いちゃつくなよなー、と誰かが言う。うるさい、好きでいちゃついてるんじゃないんだよー! いつの間にかギャラリーという名の野次馬が増えまくっていて。 教室の中心には私たち二人。私たちの周りには見えない壁があるかのように人がいない。 せれから教室の中心を見るように集まる生徒たち。廊下側の窓やドアは野次馬でいっぱいだ。 ああ、恥ずかしい……! 「浜田のバカ……」 返事なんて一つしかないわよ! 購買でパンを買って戻ろうと歩いていると教室の方が騒がしかった。 教室の入り口には野次馬がいて簡単には入れさせてくれそうにない。 野次馬を割って中を見てみると騒ぎの中心には二人の男女。 男の方は浜田で、女の方は。 「名字先輩だ」 「誰だ?」 「中学ん時の先輩で浜田の想い人」 確か三年間くらい片思いだっけかな? 「浜田も青春してんだなー」 「浜ちゃん、抱き、合ってる……」 「いや、一方的に浜田が抱きついてるのが正しい」 「浜田いいなー」 「田島……?」 |