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 私はゆまっちの第四婦人のポジションだと思う。
 別に私が勝手に思っているのではなくゆまっちに直接聞いたからだ。
 ゆまっちと私は所謂オタクというやつで、普段からえりちゃんやドタチンや渡草さんたちとつるんでいて、オタク的なお店を回ることが多い。
 まあ、ドタチンと渡草さんはあんまりというかほとんど行かないけど。
 渡草さんに至ってはバンで待ってると言って買い物すら来ないことが多い。

 そんなことはさて置いて、この前アニメイトに行った帰りにいつものメンバーでファストフードを食べに行ったときのこと。
 私とゆまっちとえりちゃんがその日に買った薄くて値段の高い本と萌えについて語り合ってるときにたまたま聞いたのだ。

「名前は俺の嫁すけどねー」

 話の流れでこうなったのだが、誰が誰の嫁かなんて話をしていたのが原因だろう。
 きっと冗談なのだろう。その後えりちゃんも名前は私の嫁だから、と反論していたがこれも冗談だろう。その場のノリというやつだ。
 ゆまっちも深い意味などなく言ったからたぶんもう覚えてすらいないだろうけど。
 その時の私の脳内では、ゆまっち的嫁ランキングでは私は何位なんだろうとくだらない考えをしてしまったのだ。
 たしかゆきぽと魔理沙と朝倉が嫁だと前に言っていたので私は四番目か。なんか四って縁起悪いな、とチーズバーガーを頬張りながらそれとなく考えていた。
 たぶん私が聞いていたのはほんの一部で、ゆまっちにはもっと沢山の嫁がいるんだろうな。
 かく言う私も一夫多妻というやつを楽しんでいて、あずささんや能登やアリスやちゅるやさんは私の嫁だ、異論は認めない。

 まあ、私もいつだったか冗談半分でえりちゃんは俺の嫁、と言ったことがあるのでたぶんゆまっちもあの時の私と同じで冗談だったのだろう。
 というかそもそもアニメや漫画のキャラに対しても冗談だったと思う。キャラクターは所詮二次元だ、ゆまっちもその辺はわきまえているだろう。
 でもゆまっちは二次元にか興味を持っていないし死んだら二次元に行くと言っていたのでもしかしたら本気かもしれない。
 だとしたら私に対しては百パーセント冗談だろう。私は三次元でありただの腐れ縁の仲だ。

 そうこう思っているうちに渡草さんの運転するバンはもうすぐ次の目的地につくらしい。
 渡草さんは運転で助手席にはドタチン、私とゆまっちとえりちゃんはゆまっちを真ん中に右から私、ゆまっち、えりちゃんの順に座っている。
 ゆまっちはえりちゃんと話をしていて私はぼーっと流れる街並みを見ながら私意に耽っていたわけだが、二人の会話にいきなり入るのもあれだったし、目的地も近いわけだからぼーっと窓の外でも眺めているつもりだった。
 だったのに、突然ゆまっちが私に話を振ってきたので否応なしに会話に参加せざるを得なくなってしまった。

「名前はどう思うすか?」
「……えっと、何のこと?」

 ごめん、聞いてなかった。そう言うとえりちゃんが臨也と静雄はどちらが受けかという議題だったらしい。正直どうでもよかった。
 思ってる人には悪いけど私は臨也も静雄も受けだとは思わない。私にとって受けだと思うのは帝人くんだ。臨帝も静帝も正帝も素敵だと思う、もちろん女の子×帝人くんも素敵だと思う。
 その旨を二人に熱弁すれば、えりちゃんからは同意の言葉を貰ったが、ゆまっちは不満そうな顔になった。
 ゆまっちは帝人くん受けは苦手だったのかなと思い、素直に謝ろうとするとゆまっちが私の手をつかんだ。
 何事かと思ってゆまっちを見つめているとゆまっちは前にも聞いたことのあるセリフを吐いた。

「名前は俺の嫁っすよ」

 うん、わかってる、前にも同じこと言われたし、でもまた冗談だろうし、はいはいと適当に相槌を打ったら手を離された。
 ついでだから渡草さんにあとどれくらいか聞こうと思って運転席を覗こうとすると誰かに両頬を掴まれた。
 正確には両頬に手が添えられている状態だが、誰がこんなことをするかというと、ゆまっちだ。ゆまっち以外の人には無理があるだろう、というか当の本人と向き合う形になっている。
 ゆまっちどうしたの、そう聞けばゆまっちの口からは先ほどとまったく同じセリフが出てくる。意味が分からない。
 ゆまっちはそれからずっと私の顔を見つめて何も言わないので気まずくなってしまった。えりちゃんに助けを求めようと視線を向ければえりちゃんはドタチンと世間話をしているではないか。株価の話なんてお前らいままでしたことだいだろ。

「余所見しないで」
「ゆ、ゆまっち……」
「名前は俺だけ見てればいいんす」

 あまりにも真剣に言うもんだから柄にもなくドキッとしてしまい、なんだかこっちが恥ずかしくなってしまったじゃないか。
 たぶん私の顔は赤いのだろう、ゆまっちに対して私は何も言えなくなってしまい、それどころかえりちゃんやドタチンに見られてるのかもしれないという羞恥に耐えられなくなり思わず目をつむってしまった。それがいけなかったのだろう。
 次の瞬間、唇に何かが触れた。それが何なのか分からないわけではなかった。私も一応恋愛というものを経験したことがあるのでよく似た感触をその昔に感じたこともあった。
 そう、つまりは、私はゆまっちにキスをされている訳でして。渡草さんの運転するバンの中という何とも色気もムードもない場所でされているのに私の胸はうるさく鳴った。
 案の定えりちゃんやドタチンは見ていたらしく感嘆の声が上がる。まあこの狭いバンの中で見えない訳ないよね。っていうかちょっと長くないだろうか。
 しばらくしつ触れてるだけだった唇は小さなリップ音を立てて離れた。本当に長かった。でも全然嫌ではなかった。むしろ心地よかった。

「……」
「可愛い」

 そう一言いうとゆまっちは私を抱きしめた。苦しくない程度に、必然的に私はゆまっちの胸に顔を押し付けられる形になる。ゆまっちの心臓うるさい。

 ひゅーひゅーと言う声が聞こえる。たぶんえりちゃんだ。ドタチンも心なしか笑っている気がする。ムカツキ。渡草さんはわからないや、たぶん苦笑いってとこか、まあどうでもいいけど。

 それはそうとゆまっちは二次元にしか興味ないのに何で私にキスしているのだろうか、とても気になる。
 そりゃ確かに今日はちょっと朝倉みたいな髪型してるけど眉毛は太ましくないし、ちゃんと手入れもしてるよ。
 朝倉っぽい髪型、そんな理由でゆまっちは私にキスしたと言うのか? 違う、ゆまっちはそんな奴じゃない。なら、何で私にキスをしたのだろう。

「何で……?」

 顔を上げてゆまっちになぜキスしたのか聞くとゆまっちは上目遣い萌え、とかしれっとぬかしやがったのでふぐり蹴っ飛ばしてやろうかと思ったが車内ということもあり狭くて出来なかった。
 するとバンが停まる。渡草さんの着いたぞと声がかかったのでえりちゃんやドタチンがバンを降りる音が聞こえた。私は未だにゆまっちの腕の中。
 しばらくまってもゆまっちは動く気配がなく、ドタチンたちに至っては先に行ってるぞと無責任な言葉が聞こえてきた。お前ら私を置いていくなよ。
 ゆまっちもゆまっちで了解っすー、と緩い声を出している。ふざけ倒せ。あとでマック奢らせてやる、えりちゃん以外。
 っていうか渡草さんの声まで聞こえたってことは今このバンには私とゆまっちしかいないということになるのか。ゆまっちは何がしたいのだろう。

「ゆまっち」
「んー?」
「離してよ。みんな行っちゃったよ」
「やだ」

 何を言っているんだこの男は、子供じゃないんだからとゆまっちから離れようとすれば腕に力入れやがった。先ほどよりも強く抱きしめられ若干苦しくなった。
 ゆまっちの薄っぺらい胸板をとんとんと叩けばゆまっちは腕の力を緩めてくれた。とりあえず窒息死は免れた。
 ゆまっちを見上げればいつものへらへらとした表情に戻っていた。こいつ本当に市丸に似てる、とか呑気に考えてる場合じゃない。

「ゆまっち……」
「名前は俺の嫁っすよ」

 また言った。何なの。ゆまっちは私をどうしたいのだろう。バンの後部座席は片側にしかドアが付いていないため私はゆまっちが出ない限りここから出られない。
 脱出を試みようとしたが軽く阻止されてしまったので諦めた。ほんとにゆまっちは何がしたいのだろうか。私はゆまっちではないので一生わからないと思う。

「ゆまっちはさっきから何を言ってるの……?」
「名前は俺の嫁なんす。だから他の奴なんて見ないで」

 ぽかーん。そんな効果音が似合うくらい私は惚けてしまっているんだろう。こんな告白みたいな言葉をいきなり言われて驚かない方がおかしいだろう。
 なにそれ告白みたい、と乾いた笑いと共に口から出すとゆまっちはあっけらかんと言った。

「そのつもりすけど……?」
「え、なにそれまわりくどい」
「でも伝わったすよね」

 にこにこと私を見るゆまっちは実に楽しそうだ。私は少々不愉快だが、いや大いに不愉快だ。でもこれがゆまっちなのだ。



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