いいのに、もう来なくていい。 何で毎日来るの? オラなんかに構わなくてもいいのに。 その人は今日も家のチャイムを鳴らす。 決まって同じ時間帯。 学校に行く前のこの時間に名字さんは来るんだ。 「古森くん、学校行こうよ!」 「……僕は、いい」 それだけ告げて扉の向こうに戻る。 ドア越しに溜め息が聞こえた。 「……そっか。じゃあ私は行ってくるね」 そして名字さんの声が立て続けに聞こえてくる。 毎日これの繰り返し。 先生も、名字さんも優しい。 オラだって学校さ行きてぇ。 けど、愚図だから。 誰かの足を引っ張りたりしたくねぇんだ。 誰かに迷惑かけたくねぇんだ。 「ごめん。ごめんなさい……」 ベランダに行って名字さんの後ろ姿を確認する。 ちょっと落ち込んでる様に見えた。 「名字さん……ごめんね」 君の呼び掛けに応えられない僕は何て臆病なんだろう。 せめて明日は、行ってらっしゃいって言おう。 |