卓球部部室前には人だかりが出来ている。しかも全員女子生徒。 卓球部マネージャーの名字名前はその人だかりを掻き分け部室に入っていく。 「ねぇねぇこの人だかり何なのー?」 「あ、名字か……今日は木之下の誕生日だからな」 竹田が木之下を指差しながら言う。当の本人は、まいったなぁみたいな顔で頭をかいているが満更でもなさそうである。 前野と井沢はプレゼントの受付準備をしだしている横で名前は興味なさそうな表情で言う。 「へー、木之下誕生日なんだ」 「えっ……」 名前はそれだけ言うと鞄から雑誌を出して読み始めてしまった。 木之下は間の抜けた声を出して名前を見つめる。 「……ん? 木之下、どうしたの?」 「いや、なんで、もない……」 「もしかして名字からプレゼント欲しいんしゃねーの?」 岩下の一言で木之下の顔が見る見るうちに赤くなっていくのは図星を突かれた証拠である。 「そーなんだー。プレゼント欲しい?」 「……はい」 「しょうがないなー」 名前は木之下と鼻先が触れるくらいの距離まで近づき、それが何を意図するかその場にいた全員が察する。 「ま、まさか……!」 田中が小さく呟くのとほぼ同時に名前の唇が木之下のと重なった。 「!」 触れた瞬間には目を見開いてしまったが、木之下はゆっくり目蓋を下ろしてその触感に集中する。 長かったようで短かったキスが終わりを告げると名前は木之下にしか聞こえないような声で言った 「ごめん、こんなのしか浮かばなかった」 しかしセリフとは裏腹に名前の口の端は上がっている。 「こんなんでゴメンね」 「……いえ、最高のプレゼントです」 背後で竹田に押さえられている半狂乱の前野らに気づくこともなく、それからしばらく二人は見つめ合っていた。 もちろん二人の関係が学校中で噂になったのは言うまでもなく。 更にその後、前野と井沢と田中が半狂乱で木之下を追いかけ回していた事も言うまでもない。 |